しきりにおなかをなめたり、首筋をかいたりする
「食物アレルギー」は特定の食材が引き金に
愛猫がおなかを過剰になめていたり、傷ができるほど首筋をかき続けていたりしたら「食物アレルギー」かもしれない。
普段の何気ない行動の中に潜む異常を見逃さないように。

【症状】
おなかが脱毛状態になるほどなめたり、首筋などが傷つくほど引っかいたりすれば…

イラスト
illustration:奈路道程

 猫が足を上げて、おなかや脇腹を丁寧になめたり、首筋を後ろ足でかいたりするのはよく見かける光景である。
 しかし、何度も何度もなめ続けて、おなかの辺りが脱毛状態になっていたり、繰り返しかき続けて、首筋辺りが傷つき、かさぶたができたり、潰瘍になったりしていれば要注意。「食物アレルギー」の可能性もある。
 食物アレルギーとは、通常なら問題のなさそうな食材を食べ、消化、吸収されると、その食材の成分が原因物質(アレルゲン)となって体が拒否反応を起こし、体のどこかが赤く腫れたり、かゆみが出たりすることである。皮膚ばかりではなく、呼吸器や消化器の粘膜に症状が出ることも少なくない。
 かゆみがひどくなれば、繰り返し、なめたり、かんだり、引っかいたりして皮膚を傷つけ、さらに症状が悪化する。
 なお、同様の症状を示す病気に、人や犬でよく知られる「アトピー性皮膚炎」もある。しかし、遺伝的な素因が明らかでなければ「アトピー」と診断しないのが通例で、猫の場合、特定の品種、血統との関連性が不明のため、「アレルギー」ということのほうが多い。

【原因とメカニズム】
特定の食材への偏りやフードの酸化、劣化が食物アレルギーの引き金になりやすい
 
 一般に、食物アレルギーを引き起こしやすい食材として、高タンパク質の牛肉、豚肉、乳製品、卵などが挙げられることが多い。
 なぜ、そのような食材が問題になりやすいか。それは、簡単にいえば「食べる機会、回数が多い」ためである。
 通常、ある食材を1週間や10日間ほど食べ続けても、食物アレルギーになることはない。だが、半年、1年と長くなれば、体のほうが拒否反応(アレルギー反応)を起こしやすくなる。つまり、短期間だけ与えている食材をアレルギーの原因と考えないほうがいい。
 また、食材の「酸化」、「劣化」も要因のひとつといえるだろう。前述のような“おいしい”食材には「脂肪」分も多く、空気に触れたり日に当たったりすれば、すぐに酸化や劣化したりする。そんなフードを食べると、消化、吸収の過程で体が異常を感じ、排除しようとするのである。
 特定の食材に体がアレルギー反応を起こし始めれば、それを食べるたびに症状が現れる。もし、食材に問題があると気づかなければ、ずっと猫は苦しむことになる。

【治療】
「除去食試験」でアレルゲン(原因物質)を特定し、それを含まないフードに切り替える
 
 治療で最も大切なのは、それらの症状が「食物アレルギー」によるのかどうかを明らかにすることである。そのための方策に「除去食試験」がある。
 まず、今まで食べていた食べ物を一切食べず、食物アレルギーを起こしにくい療法食のようなフードだけを6〜8週間ほど食べさせる。この期間、かゆみなどの症状が改善していけば、何らかの食材による食物アレルギーが原因だと判断できるだろう。
 その次は、食物アレルギーを起こしやすい食材(牛肉、豚肉、乳製品、卵など)を、一品ずつ、そのフードに加えていく。例えば、最初の1週間は牛肉を混ぜ、症状が悪化するかどうかをチェックする。問題がなければ次の1週間は豚肉。それでも問題がなければ乳製品、さらに卵…などを順番に入れ替えて症状の変化を調べていくのである。
 もしその過程で「牛肉」の時に症状が悪化すれば牛肉が、さらに「マグロ」などでも症状が悪化すれば、その両方が、アレルゲンだと特定することができる。
 そこまで明らかになれば、アレルゲンを含まないフードに切り替えればいい。また、アレルギーを起こしにくい療法食をそのまま継続していっても当分の問題はない。
 なお、血液検査でアレルゲンを判定する方法もあるが、この場合、検査で見つかった成分が必ずしも食物アレルギーの要因となっているとはいえないこともある。

【予防】
子猫の時から、新鮮で、偏りのない、良質のフードを与える
 
 どんな食材が食物アレルギーを引き起こすか、事前に予測することは難しい。
 ただし、食物アレルギーを起こしにくい食生活を、子猫の時から実践することはできるだろう。
 先に述べたように、特定の食材への偏りやフードの酸化、劣化などが食物アレルギーの引き金になりやすい。とすれば、子猫の時から良質な、そしていろんな食材のフードを与えることである。また、特定の銘柄のフードばかりを選ばず、例えば、数か月単位で異なった食材、異なった銘柄のフードに切り替えていくのもいいかもしれない。
 特にフードの酸化、劣化を防ぐために、フードのまとめ買いを避け、製造年月日をチェックして、できるだけ新鮮なフードを少しずつ買ってくるのもいいだろう。それから、食事の時、愛猫が一度に食べ切るだけの量をお皿に盛り、食べ残しを出さないようにする。もし食べ残しがあれば、次の食事の時までに処分して、毎回、新鮮なフードを与えるようにする。
 それでも、万一愛猫がおなかをしきりになめたり、首筋をしつこく引っかいたりしていれば、早めに動物病院で検診してもらったほうが安心である。

*この記事は、2007年3月20日発行のものです。

監修/東京農工大学 農学部獣医学科 教授 岩崎 利郎
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