便秘2

【症状】
「食欲不振」「嘔吐」などに要注意


illustration:奈路道程

 

 「このごろ、うちの猫、元気がない。食欲もないし、少し食べても吐いたりする」。そんな時、愛猫がひどい便秘で苦しんでいることもある。便秘がちの人間なら、二、三日から一週間ほど便通がなく、苦しんでいることも多い。ところが我慢強い猫の場合、飼い主が様子がおかしいことに気づいて動物病院に駆け込むと、一か月ほど便通のない、すさまじい便秘に耐えているケースも少なくない。
 もともと猫は、骨格がほっそりして、骨盤はそれほど広くない。そのうえ、結腸(大腸の主要部分)の伸縮性が高いので、骨盤が狭かったり、便意が弱かったりすれば、結腸にたまった便は骨盤腔の手前でストップし、結腸の腸壁を押し広げるだけの結果になりやすい。便が結腸内に滞留すれば、水分だけが吸収されて固くなる。そのうえ、たまった便の太さが骨盤腔の口径より大きくなれば、猫が自力で排便することは不可能になる。
 しかし、外出が自由な猫なら、飼い主が愛猫の便秘に気づくことは困難だ。室内飼いでも、愛猫が便意をもよおすたびにトイレで息み、シブリの痕跡が残っていれば、まさか猫が便秘とも思わず、見過ごされがちだ。とにかく便秘は怖い。どんどん便がたまると、猫が食事をして食べ物が胃から腸に流れても、先詰まりのため、反作用で、食べ物が腸から胃、さらに口へと飛び出してくることがある。また、猫も体をいたわって絶食状態になり、命を削りかねない。

固形物ではなく、水溶性の排せつ物

【原因とメカニズム】
骨盤腔狭窄、肥満、食生活の偏り、クル病など
   このような猫のひどい便秘の原因の一つに、交通事故や落下事故などで骨盤を骨折し、骨盤腔が狭くなったまま自然治癒したケースがある。動物病院でのレントゲン検査で、骨盤の変形、骨盤腔の狭窄が発見され、飼い主が「そういえば、以前、車にはねられた」とか「ベランダから落ちたことがある」と、思い出すこともある(矢田獣医科病院での、猫のひどい便秘症例の半数以上は、事故などの骨折による骨盤腔狭窄が原因)。
 そのほか、食事内容、肥満、クル病、原因不明の特発性巨大結腸症などが、猫の便秘にかかわっている。
 例えば、猫が欲しがるからと、骨の多い魚をたくさん食べさせていれば、便の中に未消化の骨が混じりやすい。そうすれば、猫が便意をもよおし、息むたびに、骨が結腸の腸壁を傷つける。その痛みに耐えかねて猫が排便を我慢すれば、結腸内に便がどんどんたまって便秘になる。
 あるいは、避妊・去勢手術や食べ物の与え過ぎ、運動不足などが重なると、猫は太り、肥満になりがちだ。そうなれば、余分な脂肪が、皮下や内臓ばかりでなく、骨盤の周囲にも付着して、骨盤腔が狭くなったりする。
 また、室内飼いの猫で、あまり直射日光を浴びていないとカルシウムの沈着が悪く、骨が弱くて変形するクル病になることもある。骨盤の骨が弱くなれば、股関節で接続する大腿骨に圧迫されて、骨盤が内側に曲がることもある。結果、骨盤腔狭窄で便秘になるのである。
 そのほか、まれに原因不明の特発性巨大結腸症と呼ばれる、ひどい便秘もある。これは、結腸にかかわる何らかの神経系統の異常で、便意、便通が止まり、便がたまって結腸が拡張する病気である。

【治療】
原因に合わせた適切な内科治療と外科治療
   猫の便秘が触診やレントゲン検査で確認されれば、緊急措置として、便を指や専用鉗子で出す。しかしそれだけでは、いずれまたひどい便秘になりかねない。食べ物が原因なら、食生活の改善を図らねばならない。また、腸の働きを活発にする薬、便を軟らかくする薬、浣腸などの内科的治療も必要だ。肥満なら肥満解消の努力、クル病ならクル病の治療が重要となる。
 交通事故や落下事故などによる骨盤の骨折、変形による骨盤腔狭窄が原因の一つと判明すれば、内科的治療だけでは症状の改善は難しい。そんな場合、猫の狭くなった骨盤を矯正するための外科治療が有効だ。しかし手術の機会を逃し、骨折部が固く固着してしまった症例では、手術の難度が高くなる。そこで、その代替手術として、骨盤結合部(下腹部側)をタテに切り離し、その間にステンレス製の「骨盤腔拡張プレート」をはめ込んで、便が通過できる広さを確保する方法が新たに確立された。適切な手術器具と技術、経験があれば、それほど難しい手術ではない。排便機能が回復した猫は、手術翌日からもりもりと食べ始め、すぐに元気になる。
 特発性巨大結腸症の場合、結腸の全摘出手術を行うが、それ以前に、上記の「骨盤腔拡張プレート」手術だけで症状が改善するケースもある。猫のひどい便秘には、いくつもの要因が絡んでいることも考えられ、そのうちの「骨盤腔狭窄」が解消するだけで排便できる状態になるのかもしれない。


【予防】
室内飼いや適切な生活管理、食生活管理を行う

   骨盤の骨折、変形に伴う骨盤腔狭窄を防ぐには、猫を、事故やけがの危険性の高い屋外、ベランダに出さないよう、室内飼いに徹すること。また、食事、肥満にかかわる便秘を防ぐためには、子猫の時から栄養バランスの良い良質なキャットフードを適正な量だけ与え、よく水を飲ませ、一緒に遊ぶ機会を増やして運動不足を解消するなど、適切な生活管理、食生活管理が大切だ。食事の時、毎回、フードにサラダ油を混ぜて便通を良くする方法もある。便が軟らかくなる処方食もある。特に愛猫が便秘傾向なら、日ごろから十分に注意してあげてほしい。

*この記事は、2003年10月20日発行のものです。

監修/矢田獣医科病院 院長 矢田 新平
Eメール:syata@nsknet.or.jp
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