膀胱炎・膀胱結石
ネコは犬に比べて泌尿器系統の病気にわずらわされることが多い。
体が、つまり各臓器・器官のつくりが華奢で、おまけにあまり水を飲まずに生きていける体質が災いするようだ。
監修/仲庭動物病院 院長 仲庭 茂樹

何より怖い尿道づまり

イラスト
illustration:奈路道程

 

 今回のテーマは「膀胱炎・膀胱結石」。泌尿器系統の病気にかかりやすいネコだが、こと膀胱炎に関しては、犬と比べて、わずらう機会はごく少ない。ネコのオシッコは濃くて酸性なので細菌が繁殖しづらいことなどが理由と考えられている。膀胱内に腫瘍のできるケースもあまりない。もっとも、尿道づまりなどの治療で尿道から細い管(カテーテル)を入れ、ぱんぱんにふくれた膀胱からオシッコを出してあげる場合に、細菌感染症にかかることもないわけではない(採尿パックを使い、カテーテルを外気からまったく遮断すれば、細菌感染を防ぐことができる)。
 ただし、ネコに膀胱炎が少ないといって安心はできない。以前に取りあげたこともあるが、特に雄ネコには「尿道づまり」が少なくないのである。尿道が詰まって尿が腎臓に逆流すれば、腎臓が汚染されて血液を浄化する腎機能が働かなくなり(腎不全 「Cat Clinic 腎臓病」参照)、体中に尿毒がまわって命をなくすことになる。

尿道づまりのメカニズム
ヒマラヤン(オス)から取り出した膀胱結石。
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尿道づまりの一因となる栓子(細胞片や結晶など)。

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 膀胱結石についても、ネコは犬よりも少ない。それに犬のように大きな結石ができることはあまりない。砂粒か金平糖のような、小さな結石ができたり、成分が結石化せず、結晶のままで膀胱内にたまったり、尿道に流れ出したりする。そのため、もともと尿道が細いネコ、とくにペニス先端部分の狭い雄ネコが尿道に細かい結石や結晶(さらにはく離した膀胱壁の上皮片など)を詰まらせて大変な目に遭うわけである。
 ネコの尿道づまりの主犯は、ストラバイトの結晶である。「ストラバイト」とは、その成分から「リン酸アンモニウムマグネシウム」といわれるように、尿中にふくまれるいろいろの成分がくっついて結晶化したものだ(犬の場合は、何かを核として結晶が付着して大きな結石ができやすい)。従来、マグネシウムやリンの多いフードを食べる雄ネコに多いといわれ、各フードメーカーが改善に努めて、現在ではフードを要因とする尿道づまりは減ってきた。
 もっとも、フードだけが原因と断定することもむずかしく、前立腺の分泌物が「悪さ」をするとか、ウイルス感染によるとかさまざまな見解がある。また太った雄ネコに多いことから、あまり運動せず、あまり水を飲まず、結果、オシッコをあまりしない場合、尿中の結晶がたまりやすくなるのでは、ともいわれている。

太らず、たくさん水を飲むことが予防の近道
   尿道づまりになれば、一刻も早く動物病院に駆け込んで、尿道に詰まったストラバイトをしぼり出してもらうか、管(カテーテル)を通して、尿を排出してもらう。あとは食餌療法と生活改善(運動の促進、水分摂取の向上)を行っていけば、症状がよくなり、それほどひどくなりにくい。再発の可能性が高い場合は、外科手術で尿道(つまりペニス)カットをする方法もある。
 一番の予防法は、ふだんから新鮮な水をたくさん飲む習慣をつけさせることである。実際、冬から春にかけて、つまりネコの水分摂取の少ない時期に尿道づまりが多いという報告もある。飼い主は、フード皿のキャットフードが空だと気にするが、水の補給は気づかないことも少なくない。基本的なことだが、フード皿の隣りに、いつも新鮮な水をたっぷりと用意すること。また風呂場にも、水を入れた洗面器を置いておけば、留守中の心配もない。
 それと同時に気をつけなければいけないことがある。「トイレ」の問題である。ネコは人間以上にきれい好きだから、自分のトイレが汚れたままだと、ついオシッコを我慢する。人間は水洗トイレだからいいが、自分のウンチやオシッコがたまったままのトイレでは、いかにネコ砂が悪臭を取り、水分を吸収してくれたとしても、寄りつきたくないのは人情である。毎日、掃除して、早めにネコ砂を交換する。トイレの数を増やしてあげる。そんな工夫が不可欠である。
 最後になったが、太り過ぎをなくすことが大切だ。フードを食べすぎれば、尿中の結晶成分が増え、また結晶化しやすい環境(尿がアルカリ性が強いとなりやすい)が生まれてくる。また大食して太れば、運動不足になり、水分摂取も減るだろうし、腸内の便の量も増えて水分が吸収され、体の水分不足もひどくなる。

*この記事は、1998年1月15日発行のものです。

●仲庭動物病院
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