何度もオシッコをしようとする
原因不明の「特発性膀胱炎」
膀胱の内壁に炎症が起こる「膀胱炎」。
今回は膀胱炎の中でも特に猫に多い、原因不明の「特発性膀胱炎」に注目した。

【症状】
トイレに行く回数が増えたり、血尿が出たりする

イラスト
illustration:奈路道程

 自宅の猫が何度もトイレに行って、オシッコをしようとする。トイレでしゃがむ時間が長い。オシッコに血が混じっている。そんな時、「膀胱炎」になっている可能性がある。
 膀胱炎、つまり何らかの要因で膀胱の内壁に炎症が起こると、膀胱内にあまり尿がたまっていなくても尿意を催し、頻繁にトイレに通ったり、長時間トイレにしゃがみこんだりしやすくなる。犬では細菌感染によって発症することが多いが、猫(とりわけ1〜5、6歳ぐらいまでの猫)では原因不明の膀胱炎(特発性膀胱炎)が非常に多い。そのため有効な治療法もなく、再発を繰り返すことも珍しくない。
 膀胱炎はどんな要因で発症しても再発しやすい病気のひとつである。再発を繰り返すと膀胱の内壁が分厚くなり、尿があまりたまらず、また内壁が過敏になって炎症を起こしやすく、尿意を催しやすくなる。そうなると治りづらく、ますます慢性化して症状が悪化する。もし愛猫が膀胱炎を疑うような症状を示したら、できるだけ早く動物病院で検診してもらい、何が問題で発症したのかを明らかにすることが大切である。
 なお「特発性」以外の膀胱炎としては、犬と同様に「細菌感染性」や「尿路結石(膀胱結石や砂粒症)性」などがある。通常、猫の尿はとても「濃い」ので細菌が繁殖しづらい。しかし高齢期になり、腎臓病や糖尿病などを患うと、腎機能が低下してオシッコが「薄く」なり、細菌感染が起こりやすくなる。また膀胱結石や尿路結石は、食べ物の成分に尿中で結晶化しやすいものが多かったり、あまり水分を摂取しなかったりすればなりやすい。いずれにしろ、それらは尿検査(細菌感染)や、レントゲンやエコー検査(結石)で判明しやすい。それらの検査で異常がなければ、特発性膀胱炎の可能性が高い。

【原因とメカニズム】
「原因不明」だが、ストレスが発症の引き金になる可能性が高い
 
 猫の特発性膀胱炎とは原因不明の膀胱炎のことである。しかし(まだはっきりと因果関係が証明されたわけではないが)、これまでの症例研究で、心身への「ストレス」が発症の引き金になって膀胱の機能、排尿のメカニズムに異常が現れやすいとも考えられる。
 猫にとっての大きなストレス要因は、例えば、引っ越しで見知らぬ家に連れてこられた。結婚や出産で新しい家族が急に増えた。猫が嫌がる振る舞いをする人が来た。新たに犬や猫を飼い始めた。飼い主がいつもと違う生活パターンをとりだした。近所で大きな物音や振動を伴った工事が始まった。急に暑くなって冷房を入れ始めた、など「突然の生活環境の変化」によるものが多い。
 また、「多頭飼い」によるストレスも重要な問題である。例えば同居猫の数が多過ぎて、不安を感じた時やゆっくり休みたい時、逃げ隠れしたり、くつろいだりする場所がない。相性の悪い猫がいて、落ち着いて食事をしたり、トイレを使用したりすることができない。いつもトイレが汚れていて排せつしづらい、などである。
 「食事や飲み水」の問題も、特発性膀胱炎の発症にいくらかかかわっている可能性もある。例えば、ウェットフードよりドライフードを食べている猫、水をあまり飲まない猫のほうが発症しやすいという報告もある。
 とにかく、何に大きなストレスを感じるか、ストレスに強いか弱いかは猫の個体差によるところも大きい。飼い主が猫の排尿の回数や状況をチェックする「行為」が新たなストレス要因になって、症状が悪化しないとも限らない。要注意である。

【治療】
ストレス軽減対策が大切
 
 例えば細菌感染による膀胱炎なら抗生物質を投与する。膀胱結石など結石によるものなら、結石を溶かす、もしくは結石ができにくい成分の入ったフードを与えたり、外科手術で結石を除去したりする。
 特発性膀胱炎の場合は、原因不明で有効な治療法はない。ただし発症後、猫のストレス緩和のために、精神安定剤やフェロモンを使用することもある。
 ストレスとのかかわりが強いと考えられるため、まず、何が大きなストレス要因かを見つける必要がある。そしてストレス要因をできるだけ少なくする努力、工夫を行っていく。例えば引っ越しが問題だとしても、元の家に戻ることはできない。そこで新しい家の中に、できるだけ早くその猫が落ち着ける場所を確保する、などの対策が必要となる。
 また、結婚や出産で家族の中に見知らぬメンバーが増えた場合、無理に仲良くさせようとせず、猫になじみのある人しか入らない部屋を確保して、お互いの接触を最小限にしながら、猫が自発的に新しいメンバーを受け入れるまで気長に待つことである。
 不意の来客、訪問者や近所の工事などの場合、数日すれば膀胱炎の症状が治まることも少なくない。実は、これが特発性膀胱炎の特徴のひとつで、はっきりとしたストレス要因が不明のまま症状が治まり、1年以内に再発するケースがよく見られる。そのまま放置していると、高齢期になって細菌性膀胱炎を発症することもある。
 多頭飼い対策については「予防」のところで述べる。

【予防】
それぞれの猫が安心、快適に過ごせる生活環境をいかに保つか
 
 猫のストレス対策の基本は、家の中に、いかに安心して過ごせる場所を確保するか、である。とりわけ多頭飼いの場合、猫の頭数、部屋数、相性の良し悪し、飲食やトイレの場所、独占的に甘えられる人の存在などを考え、個々の猫たちができるだけ心安らかに生活できる環境をどうつくり、維持できるかにかかわってくる。
 例えば毎日、くつろいで休息や睡眠をとる場所や時間があるか。飼い主(仲のいい家族)がそれぞれの猫とある程度の時間、遊んだりくつろいだりできるか。気晴らしに、窓から外を眺める場所と時間があるか。排尿に直接関係することをいえば、好きな時、好きなところでたっぷりと水が飲めるか。他の猫の存在、においなどを気にせずに使用できる“清潔な”トイレがあるかなど、飼い主が配慮すべきことはいろいろある。
 そうして、トイレに行く回数が増えだした、トイレ以外の場所でオシッコをするなど排尿に関する“異常”があれば、すぐに動物病院で検診してもらい、特発性膀胱炎が疑われるなら、ストレス要因の特定とストレス軽減対策を行ってほしい。

*この記事は、2007年12月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部附属動物病院 腎・泌尿器科 三品 美夏


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