呼吸がしづらく、肩やおなかで息をする
呼吸困難になる「アレルギー性気管支炎」
「気管支炎」には、咳などの症状が出にくいアレルギー性のものがある。
症状が悪化すると、うまく呼吸ができずにもがき苦しむことになるので、早期発見・早期治療を。

【症状】
初めは元気がなく、だんだん肩やおなかで息をし、ついにハァハァとあえぎだす

イラスト
illustration:奈路道程

 猫の「アレルギー性気管支炎」は「猫ぜんそく」とも呼ばれ、アレルギーを引き起こす何らかの原因物質(アレルゲン)が気管支を刺激して炎症を起こし、気管支を収縮させ、呼吸作用に悪影響を起こす病気である。
 人のぜんそくと同じような呼吸困難が見られるが、猫では、咳などの症状が出ないことも多い。そのため最初、「このごろうちの猫、元気がなく、じっとうずくまっている。どこか悪いのかな」と思っても、それ以外、目につく症状も見つからない。そこで、「そのうち元気になるだろう」と、飼い主が独り合点して、そのままにしていたりする。
 実際、人のぜんそくと同じように、調子が良くなったり悪くなったりするが、そのうち症状が悪化してくると、猫は呼吸しづらくなって、肩やおなかで息をするようになる。もっとひどくなれば、犬の「オスワリ」のような姿勢のまま、横にならなくなる。そして、やはり犬のように口を開け、ハァ、ハァとあえぎだすこともある。さらにひどくなれば、ほとんど呼吸ができず、もがき苦しむことになり、気管支炎の状態がさらに悪くなる。最悪の場合、呼吸不全で死に至ることもある。

【原因とメカニズム】
アレルゲンが空気の通り道(細気管支)を刺激して収縮させるため、呼吸困難に
 
 アレルギーとは、体質的な要因で、何らかの原因物質(アレルゲン)に触れたり、食べたり、吸ったりすると、体の免疫機構がそれ(アレルゲン)を体から排除しようと“過剰反応”し、体を痛めつける現象である。猫のアレルギー性気管支炎の場合、家庭内のハウスダストマイト(ホコリダニ)などがアレルゲンとして疑われている(猫のアレルギー検査を行うことはできるが、アレルゲンが特定されて治療できるケースはあまりない)。
 では、気管支炎がひどくなれば、どうして呼吸ができなくなるのだろうか。
 その前に「気管支」について簡単に述べる。哺乳動物は、「肺」で空気中の酸素を血中に取り入れ、体内の二酸化炭素を血中から放出して生きている。その「ガス交換」を行う「肺胞」と「喉(咽頭)」とをつなぐのが「気道」である。また、気道の中で、喉から肺の入り口までの部位を「気管」、気管の端から左右の肺へ枝分かれしているのが「気管支」である。
 この気管支の末端は、さらに奥に行けば極めて細い「細気管支」となって無数に枝分かれし、極めて小さな、無数の肺胞につながっている。
 この細気管支がアレルギー反応を起こして収縮すれば、空気抵抗が大きくなり、うまく呼吸できなくなる。聴診器で聴けば、肺が笛のように、ヒューヒュー、ゼイゼイと音を立てているのが分かる。気管支炎がさらにひどくなれば、細気管支がふさがって窒息状態となる。
 なお、アレルギー性気管支炎を起こしやすい猫は、体を横たえると、肺が圧迫されるためか、さらに呼吸が苦しくなる。そのため、うずくまったり、座ったりしていることが多い。

【治療】
急の発作時、気管支拡張剤投与で症状緩和。長期的にステロイド剤などで発症を防止
 
 アレルギー性気管支炎の発作がひどく、呼吸困難を起こしている場合、気管支拡張剤を投与すれば、30分から1時間ぐらいで効果が現れ、呼吸が楽になる。もっとも、薬によっては、あまり頻繁に投与していると、効力が薄れていくこともある。
 また、症状が悪化して呼吸困難の状態では、猫はもがき苦しみ、冷静さを失っていることもある。その状態でさらに興奮させると、酸素の要求量が増えて症状が悪化し、窒息状態になることがある。安静を保ちながら治療する必要がある。
 注意すべきは、激しい発作を繰り返すと、ガス交換する肺胞の細胞がだんだん壊れていき、線維化していくことである。そのため、できるだけ発作を起こさないように、症状の軽いうちに病気を発見し、治療を行うことが大切である。
 通常の治療では、アレルギー反応を抑えるステロイド剤などの薬剤を定期投与していく。例えば、当初、何か月間かは毎日投与し、症状が改善し、状態が安定しているのなら、様子を見ながら、少しずつ回数や量を減らしていく。
 とにかく、愛猫の呼吸がおかしいと感じたら、動物病院で診てもらうこと。なお、気管支炎には、アレルギー性以外にも、細菌やウイルス感染によるものがある。すぐに「アレルギー性」かどうか確定診断するのは難しいが、いわゆる「ネコカゼ」などのウイルス性の病気なら、目やにや鼻水などの症状が現れやすい。また、細菌感染による気管支炎や肺炎なら、レントゲン検査や血液検査で異常を発見しやすい。アレルギー性の場合は、レントゲン写真では確認しにくいことも多いが、聴診すれば、炎症のため、気管支の閉塞に伴う喘鳴音や気管支の分泌物がプツプツと鳴る音が聞こえる。ただし、調子の良い時にはまったく異常が見られないことも多いので、調子の悪い時に診察を受ける必要がある。

【予防】
アレルゲンが特定できれば、生活環境から除去。難しければ、早期発見・早期治療
 
 アレルギー性気管支炎を予防するのは簡単ではない。ひとつには、猫の場合、あまりアレルギー検査がなされておらず、血液検査などで特定のアレルゲンへの反応が見られても、本当に病気の発生に関連しているか分からないからである。
 もし、アレルギー検査でアレルゲンが特定できれば、生活環境からそれを取り除く努力が必要である。もっとも、万一、アレルゲンがハウスダストマイトだと判明しても、食物アレルギーと違って家庭内に常在するものなので、いかにこまめに掃除をしても、根絶することは難しい。
 やはり、早期発見・早期治療で、軽い段階で適切な治療を始め、症状を抑える努力を続けることである。とにかく、肺にダメージを与えないように、発作を起こさないことが一番である。そのためには、長期間、ステロイド剤を投与していかなければならないことが多い。ステロイド剤の副作用は、猫の場合、人よりもずっと軽いが、それでも、食欲が増していき、太ってきたり、糖尿病になったりする可能性もある。

*この記事は、2006年11月20日発行のものです。

監修/東京農工大学農学部獣医学科 助教授 桃井 康行
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