肉球が腫れ、むくみ、肥大化する
「形質細胞皮膚炎」で肉球がパンパンに腫れることも
猫の肉球がまれにブヨブヨと膨らむことがある。
「形質細胞皮膚炎」という聞き慣れない病気によるもので、特に害はなさそうだが、膨らみが大きくなって腫れてしまうと、猫は歩きづらくなる。

【症状】
猫の肉球が膨らみ、パンパンに腫れることもある

イラスト
illustration:奈路道程

 「形質細胞皮膚炎」とは、猫の足裏にある肉球の病気である。
 猫の肉球が、突然、ブヨブヨと膨らみ始めることがある。それがだんだん大きくなってパンパンに腫れることもあり、そうなれば歩きづらくなる。痛みやかゆみはないが、猫が患部をしきりになめたりして、破れたりすれば、傷口がなかなかふさがらず、面倒なことになる。また、はっきりとした原因は不明で、有効な治療法もない。もっとも、しばらくすれば、自然に治っていることもしばしばある。
 現実に、猫がこの病気にかかることはめったになく、極めて珍しい病気のひとつである。しかし、猫が動くたびに患部が圧迫されるため、症状が悪化すれば治りづらいこともある。
 この病気を形質細胞皮膚炎というのは、肉球の「形質細胞」が何らかの要因で異常増殖して起こるためである。
 では、形質細胞とは何だろうか。
 これは、体を守る免疫システムにかかわる細胞である。免疫には、リンパ球などによる「細胞性免疫」と、免疫グロブリンなどの「液性免疫」がある。病原体などが体内に侵入すると、マクロファージがそれを食べ、リンパ球(T細胞)がその病原体を認識。T細胞は別のリンパ球(B細胞)に情報を送り、その一部が形質細胞になって、IgGやIgMなどの免疫グロブリンを産生し、病原体を攻撃する。
 そのような、猫の肉球にある形質細胞が、なぜ増殖するのだろうか。

【原因とメカニズム】
原因不明だが、免疫介在性疾患の可能性も
 
 先に触れたように、形質細胞皮膚炎のはっきりとした原因は不明である。
 しかし、形質細胞が免疫にかかわる働きを有しているため、広い意味では、免疫介在性疾患とも考えられるかもしれない。とすれば、例えば、猫が歩き回る時に、何らかの「刺激物質」が肉球の形質細胞を過剰に刺激して、異常に増殖を起こしている可能性もなくはない。
 なお、この病気は、「形質細胞腫」ともいわれるが、果たして腫瘍かどうかは不明である。
 診断は、組織細胞を採取して、病理組織学的に判断するのが最も確かだが、肉球の傷は治りにくいため、あまり行わない。また、血液検査で、免疫グロブリンの数値を測定し、その値が異常に高ければ、形質細胞皮膚炎を疑ってもいいかもしれない。もっとも、それが、全身症状の結果か、局所的な反応か、見極めることは難しい。
 なお、アメリカでの症例研究で、形質細胞皮膚炎にかかった猫の50%がFIV(猫後天性免疫不全ウイルス)陽性だったという報告(別の報告では80%の猫がFIV陽性)がある。どんなメカニズムか不明だが、FIVとの関連性を考えることができるかもしれない。

【治療】
自然治癒を待つ。もし、症状が悪化すれば、ステロイド剤などの免疫抑制剤も投与
 
 形質細胞皮膚炎は、痛くもかゆくもなく、また、自然治癒するケースもあるため、この病気と診断されれば、特別の治療を行わず、経過を観察しながら、自然治癒を待つのが一般的な対処方法である。
 もっとも、症状がひどい場合、症状緩和のためにステロイド剤やその他の免疫抑制剤を投与することもある。
 もし、猫がなめて患部が傷つき、破れたりしてどうしようもなくなれば、傷口をふさぐために手術する必要があるかもしれない。しかし、手術することによって症状がさらに悪化することも考えられるので、細心の注意が必要である。
 猫が患部をしきりになめるのなら、なめないように、エリザベスカラーをつけるのもいいだろう。また、歩き回って患部を圧迫、刺激し、症状が悪化しかねないのなら、患部を保護するものをつけたほうがいいかもしれない。

【予防】
症状が悪化しないように、注意深く見守る
 
 このように、形質細胞皮膚炎は、はっきりとした原因が不明なので、有効な予防策はない。ただし、何らかの刺激物質が過剰な免疫反応を起こしている可能性もあるため、猫の行動範囲の中に、何らかの要因が潜んでいるかもしれない。
 また、FIV(猫後天性免疫不全ウイルス)との関連性があるのなら、子猫の時から室内飼いを行うことも、いくらか発症予防につながるかもしれない。
 とにかく、現実には発症例も極めて少なく、また、自然治癒することもあるため、症例研究はあまり進んでいない。
 もし、愛猫の肉球に疑わしい症状が現れれば、動物病院できちんと診断してもらい、症状が悪化しないように気をつけながら、様子を見守ることが大切である。

*この記事は、2007年5月20日発行のものです。

監修/東京農工大学 農学部獣医学科 教授 岩崎 利郎
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