皮膚の一部が熱く、腫れてくる
ケンカ傷が引き起こす「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」
猫同士がケンカすると、思いのほか相手のつめが食い込み、皮膚の深いところを傷つけていることがある。
そこで細菌が増殖して炎症を起こす症状を「蜂窩織炎」といい、悪化すれば膿がたまる「膿瘍」になりかねない。

【症状】
皮膚の一部が熱を持ち、腫れてくる。小さな傷口がジクジクする

イラスト
illustration:奈路道程

 愛猫の体をなでていると、皮膚の一部が熱を持ち、腫れているのに気づくことがある。よく見ると、小さな傷口があり、ジクジクしている。そんな場合、表皮の下、真皮からその下の皮下脂肪織まで細菌が増殖して感染性炎症を起こすことがある。そんな症状を「蜂窩織炎(=フレグモーネ)」という。
 猫の皮膚は丈夫で、ケガをしても表面の傷口が小さく、皮下の傷口が細菌感染を起こすことがある。飼い主が気づかず、放置していると炎症がひどくなっていく。細菌の増殖を抑えるために白血球など免疫にかかわる細胞が集まってきて、細菌と「戦い」を繰り広げる(そのために、熱を持つ)。しかし細菌の勢いが強いと、表皮下の患部に壊れた白血球や細菌の死骸、血液の破片などから成る膿がたまりだす(化膿し始める)。
 炎症(蜂窩織炎)が悪化すれば、どんどん膿がたまっていき、大きく腫れてしまうこともある。それが「膿瘍」である。そのまま放置すれば、表皮が壊死してただれることがある。あるいは、異常繁殖した細菌が血流に乗って全身に広がり、命にかかわるかもしれない。
 

【原因とメカニズム】
猫同士のケンカやトゲなどによる外傷
 
 蜂窩織炎を引き起こす要因の多くが猫同士のケンカである。出入り自由の猫(特に若いオス猫に多い)が家の外で、他の猫と出会って縄張り争いをすることも少なくない。去勢していないオス猫同士なら、恋の季節、避妊手術をしていないメス猫をめぐって、激しくケンカすることもある。
 先にも触れたが、猫の皮膚は丈夫で、相手の鋭いつめに引っかかれたり、牙を突き立てられても、大きく裂けることは少ない。そのため、表面の傷口が小さくても、皮下組織(皮下脂肪織)にまで傷が達していることがある。そんな場合、つめの間や口中に潜む細菌や皮膚表面に付着する細菌、あるいはカビ(真菌)などが、傷口をなめることによって真皮や皮下組織にできた傷口に付着して異常繁殖しかねない。細菌には「嫌気性細菌」といわれる種類のものがいる。これらの細菌は、酸素の乏しい場所に生息し、皮下など空気にあまり触れないところに感染すると活発に増殖し、症状を悪化させやすい。
 あるいは、猫が庭や空き地を走り回り、鋭いトゲのようなものが皮膚に突き刺さり、皮下まで達する傷をつけることもある。
 もしその猫が体調を崩していたりして、体力、免疫力が低下していれば、皮下の炎症が悪化しやすくなる。
 また、ケンカ相手が猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)や猫白血病ウイルス感染症にかかっていれば、それらの怖いウイルスに感染する可能性も高くなる。あるいは、すでにそれらのウイルス感染症にかかり、免疫力が低下していれば、皮下の細菌感染症がなかなか治らなくても不思議ではない。

【治療】
患部を切開して消毒し、抗生物質を投与する
 
 蜂窩織炎(あるいは膿瘍)の治療はシンプルである。患部の表皮を切開して膿を出し、内部をきれいに消毒。抗生物質を投与して細菌の働きを抑えていく。
 そうすれば、通常、日ごとに症状が改善していく。
 もっとも、異常繁殖している細菌に有効な抗生物質を選んで投与しないと、症状の改善に結びつかないこともある。要注意である。

【予防】
室内飼いの徹底を基本にウイルス検査と予防接種
 
 蜂窩織炎の要因は猫同士のケンカが多いため、予防するには室内飼いに徹することが大切である。先に触れたが、ケンカ相手が猫エイズウイルスや猫白血病ウイルスに感染していれば、傷口からウイルス感染する可能性も高い。
 そうなれば、命にかかわりかねない大問題である。危険なウイルス感染症を防ぐためにも、室内飼いの徹底が重要である。また、ウイルス検査を行って、感染の有無を確かめておいたほうが安心である。
 たとえ室内飼いをしていても、野良の子猫を拾って育てている場合、母猫がそれらのウイルスに感染していれば、出産や授乳期間中に感染しているかもしれない。子猫の飼い始めにきちんと感染の有無を確かめること。また、定期的にワクチン接種を行い、予防できる感染症は予防しておくことが望ましい。
 特に猫の多頭飼いをしているのなら、新参猫のウイルスチェックを確実にして、もし猫エイズウイルスや猫白血病ウイルスに感染していれば、他の猫と接触しないように育てることが大切である。なお、猫白血病ウイルスの場合、体をなめ合ったり、食器を共有することによって感染する。猫同士、仲が良くても安心できない。

*この記事は、2008年11月20日発行のものです。

監修/東京農工大学 農学部獣医学科 教授 岩崎 利郎


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