中毒に苦しむ
ネコの中毒でこわいのは、食べることよりも、からだについた危険物質をなめておこる中毒だ。

ネコと中毒


illustration:奈路道程

 

 雑食で食欲旺盛、人との生活にすっかりなじんだ犬たちとちがい、肉食で味覚にうるさく、また野生時代以来の警戒心が強く残るネコたちが中毒の被害にあうことはそれほど多くない。しかし、おいしそうなにおいに釣られて、台所に残るタマネギ入り料理を食べることもある。また、魚や肉のにおいがついた鮮度保持剤や乾燥剤をかじる可能性もなくはない。食べ物、残飯管理に気をつけるにこしたことはない。
 中毒ではないが、ネコの場合、スルメやカツオ節など、乾物の食べすぎに要注意である。干物、乾物はミネラル含有量が豊富なため、尿結石になりやすい。肥満傾向の雄ネコには、干物、乾物を避けるほうが賢明だ。
 変わったところでは、殺虫剤を電気マットにしみこませる蚊取り器具の、その液状殺虫剤をなめたり、ノミ取り首輪をかじって中毒症状をおこしたネコもいる。妊娠中の母ネコなどは、食欲が増すためか、嗜好が変わるためか、ふだんあまり口にしない殺鼠剤なども食べることがある。いずれにせよ、家のなかでネコが問題をおこしやすいのは、中毒よりも異物の飲み込みだ。遊んでいて、舌にからんだ糸や針を飲み込んだり、残飯をあさって、釣り針を飲み込んだりする場合がある。

農薬、殺虫剤、オイル、消毒液中毒
   注意すべきは、いつも毛づくろいに一生懸命なネコの習性がアダとなることだ。
 たとえば、戸外への出入り自由なネコが、道端や広場にまかれた除草剤やどこかの家の庭や畑で散布される農薬、殺虫剤がからだにつき、それをきれいになめとろうとして、中毒になることもある。冬場など、自宅の車庫や近くの駐車場に止まっている自動車の温かい車体裏にもぐり込み、からだに付着したエンジンオイルをなめて中毒症状をしめすネコ(とくに子ネコ)も少なくない。
 ネコたちが帰宅したら、足の裏や背中などに農薬や殺虫剤、オイルなどが付着していないかどうか、よくチェックしてあげることが大切だ。
 もっとも、室内飼いだからといって、安心はできない。台所や洗面所で塩素系洗剤や研磨剤、さび取り剤などを使うこともある。自宅のネコが、それを知らず、トコトコ歩けば、足につき、なめると口に入る。塩素系洗剤なら、食道や胃の粘膜がただれるし、錆び取り剤なら胃壁に孔があく場合もある。そうなれば、胃洗浄もできなくなる。ネコは、体調が悪くなると、物陰でじっとしていることが多いので、つい、発見が遅れがちになる。嘔吐、下痢などを見逃さないようにしてほしい。
 ネコにとってもっともこわいものの代表が、消毒液のクレゾールである。この液体が少量でもネコのからだに付着すると、それをなめなくても、皮膚から吸収してはげしい中毒症状をおこし、死にいたる。梅雨時前後、下水まわりなどの消毒でクレゾールを散布することもあるから、そのような時期は、ネコを外に出すべきではない。なお、犬の場合だが、クレゾールのまじった水たまりに一瞬、足を入れた犬が足をひきずりだし、検査すると、クレゾールにまけて、足の裏のパッドが真っ赤にはれていたケースもある。

ネコや犬を基準に「安全」を考える
   このように、ネコの場合、中毒症状をおこす物質を食べたり、飲んだりするよりも、からだに付け、それをなめたり、皮膚から吸収して大事になるケースが多くなる。つまり、住宅街でネコが自由に戸外へ出やすいところほど、戸外で散布される農薬、殺虫剤、消毒液などの被害にあいやすいわけである。ウイルス感染症や交通事故の防止ばかりでなく、中毒の防止にも室内飼いが有効というわけだ。
 もちろん、室内でも、台所や洗面所、お風呂場などの掃除で危険な洗剤などを使うときには十分に注意することが大切だ。人の体重の十五分の一や二十分の一という小柄なネコたちには、わずか少量の危険物質をなめるだけで、命にかかわることも少なくない。私たちは、ごく当然のように、人、それも大人を基準に物事を考える。しかし最愛の赤ん坊が生まれ、ハイハイし始めると、手や口の届く範囲に、赤ん坊がなめたり、かんだりするものがあるかどうかに気をつかう。自宅にネコや犬がいる家庭なら、毎日、赤ん坊が動きまわっているのと同じくらいに用心深くしてほしい。ネコや犬にとって、においをかぎ、なめたり、噛んだりすることは、単に食欲を満たすだけなく、世の中のさまざまな物を調べ、学ぶために不可欠な行為である。
 床に落ちていた人用の錠剤を、これは何かな、となめてみて、舌にくっついたまま、飲み込んでしまうことがあっても不思議ではない。そのうえ、飼い主家族が多忙で留守がちなら、ヒマをもてあましたり、さびしくてストレスが高まり、あれこれ食べ物をさがしてまわったり、さまざまな生活用品をかじったりすることがある。少し変わった事例をあげると、自宅での法事で仏壇にお線香をもうもうと焚いた部屋に、心臓の悪い愛犬を入れていて、その愛犬が煙をたくさん吸い込み、肺水腫になったこともある。閉めきった室内での喫煙も、人よりもネコや犬に与える悪影響のほうがずっと大きいにちがいない。
 あれこれ考えると、ネコや犬が自宅内外で中毒に苦しむ要因の多くは、飼い主家族の注意、適切な予防策でふせぐことができそうだ。まず、私たちの日常生活を考え直すことが必要かも知れない。

*この記事は、2002年7月15日発行のものです。

監修/夜間救急動物病院獣医師 片渕千鶴子
大阪府堺市熊野町東4の4の11 tel.072・222・8132
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