中 毒

【症状】
嘔吐、下痢、ふらつき、痙攣など

イラスト
illustration:奈路道程

 

 体に害のある、何らかの薬物や化学物質、食べ物などをなめたり、食べたり、吸い込んだり、皮膚から吸収したりして、体のどこかに機能障害を引き起こすことを「中毒」という。好奇心と食欲旺盛で、何でもすぐになめたり、かんだり、食べたりしがちな犬と違い、神経質で注意深く、食の細い猫の場合、犬ほど中毒になる危険性は少ない。しかし、猫は体が小さく化学物質に弱いため、油断大敵。どこでどんなモノに触れるか分からない。外出自由の猫なら、なおさらだ。
 例えば、愛猫が急に気分が悪くなり、嘔吐した、下痢をした、足元がふらついて痙攣を起こし始めた、などの症状があれば、念のため、中毒の可能性を疑ってみることも必要かもしれない。
 動物の体は、うまくできている。体に害のある物質(毒物)が体内に入れば、できるだけ速やかに体外に排せつしようと懸命になる。何かをなめたり、かじったりして、味に異常を感じたら、すぐに吐き出す。その物質が胃に到達し、胃粘膜を刺激すれば、嘔吐する。腸に入り、腸粘膜を刺激すれば、吸収せず下痢をして体外に出す。腸粘膜で吸収されれば、肝臓で代謝され、血液循環によって腎臓に運ばれて尿とともに体外に出そうとするわけだ。その過程で、胃や腸の粘膜がただれたり、肝機能や腎機能が低下したり、脳神経に悪影響を与えたり、嘔吐や下痢が続いて脱水症状になったりしかねない。毒性が強ければ、命にかかわることもある。

【原因とメカニズム】
家の内外の、猫の生活空間で、いかに毒性物質と遭遇するか
   猫が中毒を起こすのは、どんな物質、どんな場合が多いのだろうか。
 冷静に考えれば、家の内外には有害物質がいろいろある。例えば、猫が命にかかわる中毒症状を引き起こす消毒液がクレゾールである。クレゾールが猫の手足や体につくと患部が赤く腫れる。そればかりか、クレゾールが皮膚から直接吸収され、血液循環によって肝臓や心臓、肺、脳神経などに障害をもたらし、痙攣や呼吸不全、多臓器不全などで死に至ることもある。
 あるいは、ナメクジ駆除剤や殺鼠剤なども危ない。普通、猫はそのようなモノを食べることはほとんどないが、半野良状態で妊娠中の母猫などが食べてしまうことがある。殺虫剤中毒も要注意だ。多頭飼いの家庭などで、他の猫の首についているノミ取り首輪を誤飲したり、他の猫の首の後ろに滴下されたスポットオンタイプのノミ駆除液が乾かないうちになめ、ふらふらになったり、痙攣を起こしたりするケースもある。これら駆除剤、駆虫剤は動物の神経系統に作用するため、誤飲すると神経症状を引き起こす。
 家のガレージでコロコロ転がって体にエンジンオイルなどが付着し、それをなめて肝臓障害になる猫もいる。
 室内だって危険だ。香水を吸い込んで興奮状態になる猫もいる。あるいは、暑く湿度の高い日、飼い主が閉めきった自宅に帰ってくると、愛猫がよだれを流し、体をよろつかせるといった神経症状を起こしていることもある。飼い主の話を聞くと、部屋の壁紙を引っかいて、壁紙の接着剤などから染み出した化学物質を吸い込んだことを疑わせる(シックハウス症候群)ケースもある。
 中毒とはいえないが、ヘアスプレーなどを吸い込んで、アレルギー性肺炎を起こす猫もいる。化学物質に敏感な猫にとって、人間の住まいは必ずしも安全ではない。
 家の内外で何かの毒性物質をなめたり、体につけたりするのは、遊び盛りの子猫が多い。

ノミ取り首輪は誤飲後、数時間から半日ぐらい後に症状が出ることがある。

【治療】
毒性物質の排せつと、症状に合わせた適切な対症療法
   中毒治療の基本は、できるだけ早く原因物質を特定し、中毒物質を猫の体外に排せつさせることだ。しかし猫の場合、原因不明のケースがほとんどだから、症状をよく観察し、血液検査や尿検査のデータを分析してその原因を想定し、素早く対症療法を行っていかなければならない。
 嘔吐や下痢を繰り返しているのなら、点滴をして、脱水症状を防ぎながら、体力の維持を心がける。意識が薄れ、ぐったりしていれば、口からチューブを入れて、胃内の内容物を吸引したり、胃洗浄したりする。もっとも、塩素系の台所用漂白剤などの場合、強アルカリ性なので胃酸と激しく反応して胃などの消化管がただれるので、胃洗浄はできなくなる。
 あるいは、肛門からチューブを入れて直腸洗浄したり、活性炭を腸内に入れて、毒性物質を吸着させ、体外へ取り出す。同時に、点滴して体内の代謝を促進させ、残存する毒性物質をできるだけ尿や便として排せつさせる。   
 また、肝機能が低下していれば、肝臓の働きを助ける薬剤を点滴に混ぜる。例えば、ナメクジ駆除剤を誤飲すると、体内のカルシウム量が下がるので、カルシウムを補充する。動物の神経系に作用する殺虫剤や駆除剤の場合、痙攣などの神経症状を引き起こすので、抗てんかん薬を投与して症状を抑えることが重要だ。
 このように、できる限りの対症療法と体力維持を図りながら、猫の回復を待つ。

【予防】
室内飼いの徹底と、猫に害のある化学物質の使用・保管に要注意
   戸外での中毒を避けるには、室内飼いに徹するほかはない。万一、戸外で毒性物質をなめたり、食べたりしても、飼い主が異常に気づくことも遅れがちで、原因を特定することが難しいため、対症療法も後手になりやすい。
 室内では、猫の活動範囲で、猫にとって危険な台所用品、生活用品、化粧品などを使用する時は、愛猫を別の部屋に隔離すること。留守がちの家庭では、愛猫が安全、快適に留守番できる部屋を確保しておくことがいいかもしれない。
 先に、暑く湿気の高い時期、閉めきった室内で壁紙を引っかいていた猫が中毒症状を起こすケースがあることについて述べた。はっきりとした因果関係は不明だが、人間でも、体が小さく、化学物質に敏感で体力の弱い乳幼児などに、シックハウス症候群の被害が多い。家の新築や増改築、引っ越しなどの場合、十分に注意してほしい。

*この記事は、2004年7月20日発行のものです。

監修/夜間救急動物病院 獣医師 片渕 千鶴子
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