急に足がふらつき、立てなくなる
大動脈が詰まる「大動脈血栓塞栓症」
腹部の血管に血の固まりが詰まって発症する「大動脈血栓塞栓症」。
心臓病などが原因となって発症し、一刻も早く適切な処置を行わないと手遅れになることもある。

【症状】
急に立てなくなり、後肢に激痛が走って大暴れし、呼吸も速くなる

イラスト
illustration:奈路道程

 ある日突然、愛猫の足がふらつき、下半身(後肢)がマヒしたように動かず、立てなくなる。呼吸が荒くなり、激痛のため叫び、暴れだし、足のパッドの色がどす黒くなってくる。そんな場合、「大動脈血栓塞栓症」の可能性がある。できるだけ早く動物病院で検診を受け、適切な治療をしないと命が危ない。
 大動脈血栓塞栓症とは、心臓にできた血の固まり(血栓)が大動脈に流れ出し、(その多くが)大動脈の末端(腹部で、動脈が左右に分岐する部位)辺りで血管を詰まらせて発症する病気である。
 全身に酸素や栄養を供給する動脈が詰まると大変なことになる。
 血栓が頭部の血管を詰まらせると「脳梗塞」となるが、猫や犬は頭部に向かう血管が狭いため大きい血栓は大動脈を下っていく。途中、腹部大動脈から腎動脈への分岐点で詰まれば急性腎不全を発症する。血栓がさらに下方に流れ、腹部大動脈の末端、左右の後肢に向かって動脈が分岐するところで詰まれば、両方の後肢に血液が供給されず、後肢の細胞が壊死していく。
 通常、血液が正常に循環していれば血栓はできにくい。心臓に問題があってうまく循環しなくなると、心臓内に血液が滞留して血栓ができやすくなる。もし大きい血栓が腎動脈の入り口や腹部大動脈の末端などで詰まれば、ただちに命にかかわる事態になる。

【原因とメカニズム】
肥大型心筋症などによって、具合の悪くなった心臓内にできる血栓が問題を起こす
 
 猫の心臓病で症例が多いのは心臓を構成する筋肉(心筋)に問題が起こる「心筋症」。その中で特に目立つのが、心臓の壁が厚くなる「肥大型心筋症」である。
 これは心臓の壁、とりわけ左心室の「壁」が内側に向かって分厚くなり、内部の空間が狭くなっていく病気である。
 心臓は血液循環の要で、大静脈から右心房に入った血液が右心室から肺動脈で肺に送られ、ガス交換(炭酸ガス→酸素)したのち、肺静脈から左心房に入り、次いで左心室に送られ、そこから大動脈を通じて全身に送り出されていく。
 ところが左心室の壁が分厚くなって内部が狭くなると、左心房から左心室へ血液が送られにくくなり、肺から戻ってきた血液が左心房内に滞留していく(そのため、左心房が大きくなる)。大きな左心房内で血液のよどみができて血栓が形成される。そんな血栓が左心室から大動脈へ流れていき、どこかの血管を詰まらせるのである。
 肥大型心筋症は、生まれながら病気になりやすい素因のあるもの(原発性)と、何らかの病気で発症するもの(二次性)に分けられる。「原発性」のものは何らかの遺伝子の異常によると考えられている。一方、二次性肥大型心筋症を引き起こす病気の代表が「甲状腺機能亢進症」である。これは老齢期の猫がかかりやすい病気で、細胞の働きを活発にさせる甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、エネルギーをたくさん使う体中の細胞に過剰な酸素や栄養を供給するため心臓に大きな負担がかかり、急激に衰弱していく。その過程で肥大型心筋症を併発することも珍しくない。

【治療】
病態に合わせ、血栓を溶かす内科療法か、血栓を除去する外科療法を適切に判断、実施する
 
 大動脈血栓塞栓症で後肢に血液が循環しなくなれば、細胞はすぐに壊死し始める。ただちに治療をすべきだが、ほとんどの猫はその激痛のため大暴れするので、鎮痛剤などを投与して痛みを緩和する必要がある。
 その後、急いで大動脈に詰まった血栓を除去する治療を行うが、その治療法には内科療法と外科療法がある。内科療法とは、薬剤を投与して血栓を溶かす治療法である。もっとも急激に血栓を溶かす“強い”薬を投与すると問題を生じることがある(が、血栓が溶けなければ治療効果が上がらない)。長時間血管が詰まっていれば、後肢に老廃物がたくさんたまっている。それらの老廃物が血流の回復によって、静脈を通って一挙に心臓内に戻ってきて心停止することもある。いろんな“強さ”の薬剤を混ぜ合わせながら慎重に治療していかなければならない。
 外科的療法では腹部を切開し、大動脈に詰まった血栓を除去する手術を行う。その際、血栓を除去するだけでなく、同時に静脈も切開し、後肢にたまっていた老廃物を洗い流すことも必要である。
 内科療法、外科療法ともに技術と経験が不可欠な治療法で、病態に合わせて適切な方法を採用する。しかし動脈がストップすれば後肢の細胞がすぐに壊死し始めるため、手遅れで死亡するケースもある。そのうえ、幸運にも一命を取り留めても、発症の原因となる心臓病のため、再発する可能性が非常に高い。同時に心臓病の治療を行うことが大切である。
 といっても、肥大型心筋症などの心臓病を治す治療法はない。あくまで血管を広げる薬剤を投与して心臓への負担を減らしたり、血液を凝固させる血小板の働きを抑える薬剤を投与したり、といった症状緩和の対症療法である。

【予防】
定期検査によって早めに心臓や甲状腺の異常を発見し、適切な治療を開始する
 
 大動脈血栓塞栓症を防ぐには、その前提となる肥大型心筋症などの心臓病対策が重要である。先に心臓病の治療は、「症状緩和の対症療法」と記したが、心臓の具合が悪化する前に治療を開始すれば、かなりの延命効果が期待できることも少なくない。
 猫の場合、犬のように一緒に散歩していて体の異常に気づくようなケースはほとんどないため、飼い主も異常の発見が遅れがちである。そこで毎年1回は、きちんと健康診断を受けること。心臓の検査で異常があれば、早めに治療を開始する。
 また老齢期の猫に目立つ甲状腺機能亢進症の場合、血液検査にて甲状腺ホルモンなどを測定すれば、この病気を発見できる。早期発見すれば、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する薬剤を投与する内科療法や、甲状腺を切除する外科的療法などによって症状の悪化を抑制していく。

*この記事は、2008年1月20日発行のものです。

監修/山根動物病院・米子動物医療センター総院長
(財)鳥取県動物臨床医学研究所評議員 高島 一昭
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