まぶたのふちが目に入り込む
眼科疾患が引き起こす「眼瞼内反症」
「眼瞼内反症」とは猫版の逆さまつ毛のこと。
結膜炎などが原因となって下まぶたとそのすぐ下の毛が目に入り込み、角膜を傷つけ、放置し続ければ失明する危険もある。

【症状】
目をしょぼつかせ、涙がにじみ出る

イラスト
illustration:奈路道程

 愛猫が痛そうに目をしょぼつかせ、涙がにじみ出ている。そんな時、目の病気かと思ってよく見ると、下まぶた(下まぶただけでなく、目尻の部分が入り込むこともある)の“ふち”が目に入り込んでいることがある。それが「眼瞼内反症」である。
 人のまぶたと違って、猫のまぶたのふちにはまつ毛が生えていない。しかしふちの下には他の体表部と同様に毛が密生している。そのため、下まぶたのふちが目に入り込んでしまうと、それらの毛が目の表面、つまり角膜を刺激する。猫にとってはちょうど人の「逆さまつ毛」と同様の、それよりもっとひどい状態になってしまうのである。
 わずか1本のまつ毛が目に入っても痛いのに、密生している猫の毛が目に入り、角膜を傷つければ、痛みもさらにひどくなり、目を開けていられなくなってくる。また、角膜が傷つけば、表面がただれたり(角膜潰瘍)、角膜が白く濁ったりしかねない。飼い主が気づかずに放置すれば、角膜に穴が開く可能性もある。そうなれば、眼球の内容物が外に流れ出し、失明、失眼してしまう。
 愛猫が目をしょぼつかせたり、涙目になっていたりすれば、自宅で目薬を差して済ませるだけでなく、何が原因か動物病院でよく検診してもらったほうがいい。

【原因とメカニズム】
結膜炎や角膜炎など、猫が目の痛みを感じる病気が引き金となる
 
 では、猫の下まぶたがどのようにして目に入り込むのだろうか。

●結膜炎や角膜炎
 例えば結膜炎や角膜炎などを患うと、猫は目に痛みを感じる。すると痛みのため目をしょぼつかせ、眼球を奥に引っ込めようとする。その結果、眼球の表面とまぶたの間にすきまが生まれ、そのすきまに下まぶたのふちが入り込みやすくなる。
 まぶたのふちが目に入り込み、表皮に生えた毛も眼球の表面(角膜)に当たると、猫はもっと痛みを感じ、激しく目をしょぼつかせ、眼球はさらに奥のほうに引き込まれてすきまも拡大。まぶたがさらに目に入り込み、巻き込まれていく。するとさらにたくさんの毛が角膜を刺激し、角膜表面が傷ついたりすれば、猫はますます痛みを感じて眼球が奥のほうに入り込む、という悪循環を繰り返すことになる。

●ネコカゼ
 もし子猫の時から、いわゆる「ネコカゼ」(ヘルペスウイルスやカリシウイルスなどのウイルス感染症やクラミジア)を患い、慢性的な結膜炎などに悩んでいれば、眼球とまぶたの間にすきまもできやすく、何かの拍子に下まぶたのふちが目に入り込まないとも限らない。ひとたびそんな癖がつけば、いつの間にか習慣化して、まぶたのふちの入り込み方もひどくなるわけである。
 なお、鼻のひしゃげたペルシャ系統の猫の中には、形態的に、成長期に眼瞼内反症となりやすい個体もいる。


【治療】
原因となる目の病気の治療と、まぶたが目に入り込まないように治療を行う
 
 眼瞼内反症の治療は、その原因となる結膜炎や角膜炎、ネコカゼなどの基礎疾患を治しながら、下まぶたが目に入り込まない対策を行うことである。もし、どちらかの治療しかしなければ、一度癖のついたまぶたのふちはすぐに目に入り込み、再発する結果になる。
 具体的に、下まぶたが目に入り込まないための工夫、配慮、治療にはどんなものがあるのだろうか。

●ジェル状の点眼薬や眼軟膏
 まだ初期の段階で、表面の刺激が原因でさらに入り込みやすくなっていて、わずかにまぶたのふちが目に入り込む程度であれば、ねばねばしたジェル状の点眼薬や眼軟膏を目に差して角膜の表面を保護し、痛みを軽減させれば、猫はそれほど目をしょぼつかせず、眼球が奥に引っ込むこともなく、まぶたのふちが目に入り込むこともなくなっていくかもしれない。

●動物用コンタクトレンズ
 あるいは、コンタクトレンズを猫の角膜の上につけ、目をガードする方法も採用されている(動物用のコンタクトレンズは、視力矯正用ではなく、眼帯として治療の補助に使用する)。もっとも、コンタクトレンズは、猫用がなく、犬用が1種類あるだけで、猫の目にうまく合わない。だから猫が前足で目の辺りをぬぐったりすれば簡単に落ちる。そのため、それを防ぐためにエリザベスカラーを着けることもある。また、症状が改善したからとコンタクトレンズを早めに外したりすれば、再発しかねない。あくまでも痛みを緩和して、悪化の原因となっているしょぼつきがなくなるまでの一時しのぎにしかならない。

●外科手術
 下まぶたのふちが目に入り込むのが習慣化していれば、だんだん皮膚が伸びていき、ますます目に入り込みやすくなっている。そんな場合は、外科手術を行ったほうがいい。手術自体はそれほど難しいものではない。
 目に入り込んだ下まぶたのふちの少し下の表皮を凸レンズ状に切り取り、縫い合わせる。すると、まぶたの表皮が外側に引っ張られ(外反)、まぶたのふちが外に現れてくる。


【予防】
目の基礎疾患を早く、確実に治療する
 
 眼瞼内反症は、体質的なものでない限り、結膜炎や角膜炎、ネコカゼなど目の疾患に伴って起こる。そこで、もしそれらの眼科疾患になれば、慢性化させず、できるだけ早く、そしてしっかりと治療すること。
 特にネコカゼなどは季節の変化や猫自身の体調の変化などによって再発しやすいため、猫が目をしょぼつかせ、涙や目やになどが多くなれば、すばやく治療して症状を抑えること。また、自身の抵抗力を下げないように、ストレスを避けること。そして、時々は動物病院で目の状態をよく診てもらい、万一、眼瞼内反症の兆しがあれば、習慣化、慢性化しないように治療してもらうことである。
*この記事は、2009年1月20日発行のものです。

監修/ネオベッツVRセンター 眼科担当獣医師 小山 博美
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