猫白血病ウイルス(FeLV)感染症

【症状】
急性期なら発熱や下痢、貧血など。
慢性期なら貧血や細菌感染、さらにはリンパ腫や白血病に伴う諸症状


illustration:奈路道程

 

 子猫や若い猫が突然、元気がなく、熱が出たり、リンパ腺が腫れたり、下痢をしたり、鼻水を垂らしたりすれば、要注意。「猫白血病ウイルス(FeLV)」に感染している可能性がある。もし、FeLV感染症なら、感染一か月前後で発症し、激しい貧血や白血球の減少、血小板の減少など、病気の進行が早い急性期特有の症状が現れる。生後間もなくFeLVに感染すれば、致死率もきわめて高い(ほぼ100%)が、月齢とともに急速に猫の免疫力が強くなり、四か月齢以上になれば回復率が約90%にもなる。
 たとえ、愛猫がFeLV感染症の急性期の病気から生き延びたといっても、まだ安心はできない。急性期の後、四か月ほどの間にウイルス反応が陰性になれば、自然治癒に向かっている可能性が考えられる。しかし四か月たっても陽性の場合、病気の症状がなくなり、治ったように見えても、一、二年後に、慢性期のさまざまな症状が現れてくる。
 その代表例が、体の免疫を担当するリンパ球系のがん(悪性腫瘍)「リンパ腫」である。リンパ腫は、体のリンパ節や内臓などあちこちにできるが、特にFeLVに感染している二、三歳期の若い猫がかかりやすいのが、「胸腺型リンパ腫」だ。これは、心臓の前方部(前縦隔)にあるリンパ系器官「胸腺」のリンパ球が「がん化」して大きな固まり(リンパ肉腫とも呼ばれる)となり、また、周辺に水がたまって(胸水)肺を圧迫し、呼吸困難となる。放置すれば、わずか一、二か月で死に至る。
 なお、慢性期のFeLV感染症では、リンパ腫以外にも、ひどい貧血や白血球の減少、また、免疫低下によって、いろんな細菌感染症や悪性腫瘍になりやすい。

【原因とメカニズム】
感染猫とのなめ合いやケンカによる、経口(だ液)感染
  FeLV(猫白血病ウイルス)感染症とは、「猫白血病ウイルス」と呼ばれるウイルスの感染症だ。リンパ腫という白血球のがんになった猫からこのウイルスが発見されたため、マウスの白血病ウイルスの命名法にならい、命名された。
 このウイルスは猫に感染すると、主に「骨髄」で増殖して造血機能に悪影響を及ぼし、赤血球や白血球、血小板などの減少や異常増殖を引き起こす(骨髄で細胞ががん化した場合を真の白血病と呼ぶ)。赤血球は体じゅうの細胞に生命活動の維持に不可欠な酸素を運び込み、不要な炭酸ガスを運び出す。白血球は病原体を退治する。どちらが悪影響を受けても大問題である。
 FeLVの主な感染経路は、感染猫のだ液による経口感染であり、殊にFeLVに感染した母猫が子猫をなめ、育てるなかでウイルス感染を広げることが非常に多い。猫同士のケンカによる咬傷によっても感染するが、子猫の場合、激しいケンカに巻き込まれることはあまりない。母子感染以外で目立つのは、猫を多頭飼いしている家庭で、お互いがなめ合って、FeLV感染猫から未感染猫にうつるケースである。多頭飼いの家庭では、猫のストレスが重要な因子となる。
 先にも記したが、感染すれば、一か月前後で急性期の症状が現れ、運よくそれを乗り越えたとしても、ウイルス反応が陽性のままなら、一、二年後にリンパ腫など、慢性期の症状が現れてくる。たとえ自然治癒したとしても、リンパ腫の発生率は感染したことがない猫に比べて高い。

【治療】
急性期なら猫の免疫力を高めて、自然治癒を目指す
   猫に感染して増殖するFeLVウイルスを直接退治する治療法はない。最初に感染して一か月前後で発症する急性期、その一、二年後に現れ始める慢性期、それぞれの症状に対応した治療法を行っていくことが大切だ。
 急性期とは、猫が自分の免疫力で懸命にウイルスと闘っている時期である。貧血がひどくて輸血が必要なら、輸血して体力の回復を図り、また、白血球が急減していれば、二次的な細菌感染を防ぐために抗生物質を投与する。そうして、猫用インターフェロンを投与して、ウイルスと闘う猫の免疫力を少しでも高めていき、自然治癒を目指すのが急性期の治療となる。
 FeLV感染症は、生後間もなくウイルス感染すれば、ほぼ100%の致死率だが、離乳期(一か月から一か月半)なら治癒の確率は50%、さらに四か月齢を超える猫の場合、その90%が治癒するといわれる。発症一か月ほど前に、母子感染や室内外での感染猫との接触などが疑われるなら、わずかの体調の変化を見逃さず、動物病院でウイルス検査をしてもらうこと。陽性反応が出ても、すみやかに適切な治療を行えば、助かる可能性が高いだろう。
 急性期を脱した後、四か月たって、まだウイルス反応が陽性なら、明らかな症状はなくても、猫の体内にウイルスが潜んでいることになる。以後、定期的に血液検査をして症状の有無を確かめ、新たな(慢性期の)症状が現れたら、早めに対症療法を行っていく。
 例えば、急性期の一、二年後に現れやすい慢性期の代表疾患「リンパ腫」の場合、放置すればわずか一、二か月の命だが、抗がん剤を投与する適切な化学療法を行い、継続して「がん」をたたいていけば、まず半年、さらに半年と命を永らえ、二年以上生存する猫もいる。あきらめずに、適切な治療法を動物病院でよく相談することが大切だ。

【予防】
室内飼いの徹底と予防ワクチン接種

   FeLV感染症の最も確実な予防策は、当たり前だが、感染猫と接触させないことである。そのためには、室内飼いに徹する必要がある。また、出産後の母子感染の確率がきわめて高いため、ウイルス検査をして感染が明らかなメス猫なら、避妊手術をして、不幸な子猫をつくらないこと。また、多頭飼いの家庭なら、新たな猫を飼うたびにウイルス検査を行って、もし感染猫がいれば、その猫を別の部屋で飼うなどして、ほかの猫と生活環境を区分けする。そして、十分な広さと清潔を保つことで、多頭飼いによるストレスをなくす。
 もちろん、FeLV用の予防ワクチンを接種することも重要だが、ワクチンには100%の予防効果はない。うちの猫はワクチン接種済みだからと、室外に出したり、感染猫と同居させたりすれば、いつの間にかウイルス感染していないとも限らない。
 また、愛猫がウイルス感染していても、先に述べたように自然治癒する確率も高いので、普段から、十分な栄養と休養、快適な生活環境の保持に努めて、免疫力をなるべく低下させないことが求められる。

*この記事は、2003年8月20日発行のものです。

監修/赤坂動物病院医療ディレクター 日本臨床獣医学フォーラム代表 石田 卓夫
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