咳をしたり、吐いたりする
猫にも感染する「フィラリア症」
「フィラリア症」は犬だけの病気と考えられがちだが、実は猫にも感染する。犬よりも重い症状が出ることもあり、
場合によっては突然死することもあるので、何よりも予防が大切だ。

【症状】
咳などの呼吸器症状や嘔吐などの消化器症状を起こす

イラスト
illustration:奈路道程

 自宅の猫がコフォ、コフォと咳をする。ひどいとぜんそくのように咳き込むことがある。あるいは、嘔吐をしたり、食欲をなくしたりする。そんな時、「ネコカゼかな」「花粉症みたいな、アレルギー疾患?」「胃腸の具合が悪いのかも」などと思っていると、大きな間違いを起こすことがある。
 犬の病気として有名な「フィラリア」に猫が感染した場合に見られる典型的な症状のいくつかが、HARD(犬糸状虫随伴呼吸器疾患)と呼ばれるこれらの呼吸器症状や、消化器症状である。
 厄介なことに、猫にフィラリアが感染、寄生してもまったく症状を現さずに病状が進行することもある。また、ある日、激しいアレルギー症状(アナフィラキシー・ショック)を起こして突然死することもある。
 猫のフィラリア症について、日本ではまだ調査研究もそれほど進展せず、関心も高くない。これまでの限られた調査結果などによって、猫のフィラリア感染率は10%前後と予測されている。しかし、感染後の症状自体、見分けにくく、さらに多くの飼い犬のように、毎年、定期的に感染の有無を調べる検査を行い、初夏から晩秋にかけて予防薬を定期服用している猫はまだまだ少ないため、正確なデータは不明である。とりわけ犬にフィラリア感染の目立つ地域では、もっと感染率が高い可能性もある。猫にフィラリアが寄生していれば、呼吸器症状や消化器症状だけでなく、いつ、突然死するかも分からない。
※アメリカでは、フィラリアに感染した猫が引き起こす咳やぜんそくなど呼吸器関連の症候群は、HARD(Heartworm Associated Respiratory Disease=犬糸状虫随伴呼吸器疾患)と呼ばれている。
 

【原因とメカニズム】
感染犬の体内で増殖したミクロフィラリアが蚊を媒介にして、猫に感染、寄生する
 
 フィラリアは、「犬糸状虫」といわれるように、犬を本来の宿主として、蚊を媒介に犬を始め猫やフェレット、タヌキ、キツネなど多くの動物に感染、寄生する内部寄生虫である。
 犬の体内(肺動脈や心臓)に寄生するフィラリアの親虫から生まれた仔虫(ミクロフィラリア)が血管内を浮遊し、犬の血を吸った蚊の体内に入り、二度脱皮を繰り返して第3期幼虫となる。すると、その蚊が次に犬や猫などの血を吸った時、唾液腺から動物の表皮に出て、皮膚に開いた孔から皮下に入る。そして皮下組織で2回脱皮を繰り返して第5期幼虫に成長し、血管に侵入。静脈を伝って心臓に入り、右心室から肺動脈に移って定着し、親虫になる。
 しかし、フィラリアが本来の宿主である犬とうまく適応してきたのに対し、猫に感染しても、それほど上手に寄生、繁殖できるわけではない。例えば、犬の体内でフィラリア(成虫)は、多ければ何十匹も肺動脈や心臓に寄生できるのに対し、猫の場合、せいぜい多くても数匹程度しか寄生することができない。また、寿命も犬の体内では5、6年に対し、猫の体内では2、3年。体長も犬に寄生すれば、メスなら15〜20センチ、あるいはそれ以上にまで成長するが、猫の体内ではその3分の2程度という。
 つまり、フィラリアに対する猫の(体の)拒否反応が犬に比べてずっと強いのである。そのため、たとえ1匹でも猫の体内で生き残ったフィラリアが死ねば、その虫体から出た有害物質が肺の血管に悪影響を及ぼし、猫はショック状態に陥り、突然死することも珍しくない。

【治療】
予防薬の定期投与や外科的な親虫のつり出し手術
 
 フィラリアが寄生しているかどうか検査するには、いくつかの方法がある。そのひとつがフィラリアに対する猫の免疫反応を調べる抗体検査である。しかし、抗体検査だけでは、フィラリアと同じ線虫である回虫がいても陽性反応を示すため、その次はフィラリアの排せつ物などの有無を調べる抗原検査を行う(寄生する親虫の数が少ないため、チェックできないことがある)。これら抗体&抗原検査で引っかかれば、エコー検査やレントゲン検査で親虫の姿や数、肺の血管異常などを確認する。
 しかし、猫の場合、犬よりも治療が難しい。犬の場合、成虫駆除薬を投与してもそれほど大きな障害がない場合が多いが、猫の場合、1匹でも体内で死ねば、突然死する恐れもある。そこで、フィラリアの予防薬の定期投与を続けて再感染を防ぎながら、体内の親虫を弱らせる方法を行う。あるいは、頸静脈から細長い鉗子を挿入して、親虫をつり出す手術を行う。
 ただしこれらの治療中、猫が激しいアレルギー反応を起こさないように、抗アレルギー剤(ステロイド剤)を投与することが大切である。

【予防】
シーズン中、毎月、確実に予防薬を投与する
 
 猫の場合、フィラリアの親虫が1匹でも体内に寄生していれば命にかかわりかねないため、予防が何よりも重要になる。
 予防方法は犬と同様に、蚊とフィラリアの活動、成長、繁殖が活発になる5月か6月から11月ごろまで、毎月、定期的にフィラリア予防薬を投与すればいい。なお、完全室内飼いでも蚊に刺され、感染する可能性はあるので、予防をしたほうが安心だ。
 しかし、経口の予防薬を毎月、確実に猫に飲ませるのはなかなか難しい。錠剤ばかりでなく、チュアブルタイプの薬でも、味やにおいに敏感な猫はなかなか口に入れさせず、飼い主が飲ませたつもりでも、後でこっそり吐き出していることもある。
 そうした薬を飲むのが苦手な猫の場合には、背中の首筋に滴下するスポットタイプの予防薬で、フィラリアだけでなく、ノミやミミヒゼンダニ、回虫など複数の寄生虫を同時に駆除・予防できる薬剤もあるので、動物病院で相談するといいだろう。

*この記事は、2008年5月20日発行のものです。

監修/茶屋ヶ坂動物病院 院長 金本 勇


犬猫病気百科トップへ戻る
Copyright © 1997-2009 ETRE Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載の記事・イラスト・写真など、すべてのコンテンツの複写・転載を禁じます。