元気がなく歯茎が白い
病原体感染が原因になりやすい「貧血」
猫の貧血は、猫白血病ウイルス感染症など、命にかかわる病気が引き金となることが多い。
“元気や食欲がなくなった”、“歯茎が白い”などのサインを見逃さないこと。

【症状】
元気・食欲がなく、歯茎が白い

イラスト
illustration:奈路道程

 「貧血」とは、何らかの要因で赤血球が“異常”に減少していく病気だ。
 動物の体を形成する組織や細胞は、生きているかぎり、それぞれ固有の周期で、知らぬ間に新旧、入れ替わっていく。例えば、胸骨や肋骨、腸骨(骨盤を形成する骨の一つ)などの骨髄で造られる「赤血球」の寿命は約百二十日。その間、体内を循環して、体中の組織や細胞に、エネルギー代謝に不可欠な酸素を供給。不要な炭酸ガスを運び去る。役目を終え、寿命がきた赤血球は、順に脾臓や肝臓、骨髄などで壊されていく(溶血という)。
 しかし、ケガや病気などでたくさん失血したり、栄養不良などで十分な赤血球を造血できなかったり、日々造られる以上の赤血球が、何らかの要因で過剰に壊されたりすれば、必要な赤血球の数が減って貧血となり、体中の組織、細胞は酸素不足になって、衰弱していくことになる。
 もし、愛猫の元気や食欲がじわじわとなくなり、じっとしていたり、ハアハアとあえぐように呼吸をしたり、血尿が出たりした時に、念のために口の中を調べ、歯茎の色が白いようなら「貧血」の可能性がある。すぐにかかりつけの動物病院で診察を受けてほしい。
 猫の貧血の要因で、特に目立つのは、「猫白血病ウイルス感染症」と「ヘモバルトネラ症」だ。その他、「子宮蓄膿症」や「猫伝染性腹膜炎」などによる二次的な貧血もある。
 

【原因とメカニズム】
ウイルス、微生物などの病原体感染が引き金となることが多い
 
●「猫白血病ウイルス感染症」の場合

 猫白血病ウイルス(FeLV)は、感染した猫の唾液などを介してウイルス感染する。主に骨髄の造血機能に悪影響を及ぼし、赤血球や白血球、血小板などが減少する。
 赤血球が減少すれば、貧血を起こす。白血球が減少すれば、体の免疫システムが壊れ、細菌感染などを起こしやすく、一命にかかわる。血液の凝固作用を担う血小板が減少すれば、体の内外のどこかから出血すれば、血が止まらなくなる。
 血中に入った猫白血病ウイルスが赤血球の元になる細胞「赤芽球」に取りついて、赤芽球を壊したり、あるいはこのウイルスが取りついた赤血球が体の免疫システムによって退治されれば、やはり、貧血(免疫介在性溶血性貧血)となる。
 猫白血病ウイルスに感染・発症した猫の約七割が貧血を起こすといわれている。そのうえ、子猫の時に感染・発症すれば死亡率は高く、また、たとえ生き残ったとしても、ウイルス感染が生涯続くことが多い。そして、体調不良や他の病気、ストレス、加齢などによって、体力、免疫力が低下すれば、発症し、命をむしばんでいく(ほとんどの猫は発症後、五年以内に亡くなるといわれる)。


●「ヘモバルトネラ症(猫伝染性貧血)」の場合

 ヘモバルトネラ症とは、「ヘモバルトネラ・フェリス」という病原体(ウイルスと細菌の間の大きさの微生物、リケッチア)が猫に感染して、血管内に入って赤血球に取りつき、赤血球を壊したり、この病原体に取りつかれた赤血球が免疫システムによって壊されたりする病気だ。
 ヘモバルトネラ・フェリスは感染力が強く、広まりやすい。ノミなどの吸血性昆虫が媒介して猫に感染するとも言われるが、いまだに本当の原因は不明である。
 なお、ヘモバルトネラ症にかかる猫の50〜70%が、猫白血病ウイルスに感染しているという報告がある。ウイルス感染症による免疫力低下が、感染・発症の引き金となっているのかもしれない。


【治療】
病気治療と貧血改善のための免疫療法を併用
 
●「猫白血病ウイルス感染症」の場合

 猫白血病ウイルスに感染し、発症すれば、それを治す確かな治療法はない。インターフェロンなどを投与して、いかに低下した免疫力を高め、猫が自力で治すのを手助けするか、である。
 貧血がひどければ、まず貧血を止めること。赤血球を破壊する免疫システムの力をいかに抑えるかが重要だ。そのため、副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)を投与する。それで症状が改善しない難治性の場合、ステロイド剤のパルス療法(大量・集中投与)を行ったり、人の免疫グロブリン製剤や抗がん剤を投与したりすることもある。
 ただし、猫白血病ウイルスに感染・発症すると、猫の免疫力が低下するため、貧血を治療するための免疫抑制療法のやり方には、細心の注意が必要だ。


●「ヘモバルトネラ症」の場合

 ヘモバルトネラ症になれば、この病原体を退治するための抗生物質投与が治療の基本となる。貧血がひどいのなら、免疫抑制療法や輸血などによって貧血の改善をはかる。
 なお、ヘモバルトネラ症は抗生物質での治療によって症状が治っても、病原体は生き残り、無症状キャリアの状態が続く。そのため、老化や病気などに伴う体力、免疫力の低下によって再発する可能性もある。


【予防】
室内飼いの徹底と、子猫の時から必要なワクチン接種やノミ・ダニ用殺虫剤の定期投与
 
●「猫白血病ウイルス感染症」の場合

 猫白血病ウイルス感染症の場合、子猫の時からワクチン接種して、感染を未然に防ぐこと。ただし、ワクチン接種による感染の防御率は80〜90%といわれている。この病気は、屋外での感染猫との接触やケンカなどで感染することが多いため、愛猫の室内飼いを徹底し、極力、感染の可能性をなくすことが求められる。
 万一感染しても、発症を予防するために、猫の飼育環境を整え、栄養管理を行い、できるだけ、猫に大きなストレスをかけない飼い方を実践することが重要だ。ついでに言えば、猫白血病ウイルスに感染した猫の中で、避妊・去勢された猫は、そうでない猫よりも発症率が低くなっている。避妊・去勢は外出意欲の低下にもつながるため、早めに実施することが望ましい。


●「ヘモバルトネラ症」の場合

 ヘモバルトネラ症は、先にも記した通り、ノミなどの吸血性昆虫が媒介すると言われるが、まだ確証はない。いずれにしろ、子猫の時から室内飼いを徹底して、家の外での感染の可能性を極力減らすこと。また、ノミ、ダニなどの感染から猫を守るために、スポット・タイプの殺虫剤の定期投与をするといいだろう。


*この記事は、2005年7月20日発行のものです。

監修/山陽動物医療センター 院長 下田 哲也


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