アレルギー性皮膚炎
ネコの背中にハゲやブツブツがある。そんなときは「ノミアレルギー性皮膚炎」を疑ってほしい。 ノミ取りは飼い主の仕事。これから夏にかけて特に注意したい。
監修/岐阜大学農学部家畜病院 教授 岩崎 利郎

ネコに多い「ノミアレルギー性皮膚炎」

イラスト
illustration:奈路道程

 

 幸いなことに、「アレルギー性皮膚炎」にかかるネコは犬に比べてかなり少ない。アレルギーが動物の「人間化」によって多くなったといえるのなら、人類と暮らし始めて数万年の犬より、数千年のネコのほうが少ないのは当然のことなのかもしれない。犬でも、純粋種より雑種(近年はミクスドという)のほうが病気に対して強いから、現代でも「野良」の伝統を保つネコ族の名誉といえるかもしれない。もっとも、人間との関係が犬より希薄な分、獣医学の分野でネコの病気についての研究が遅れているのもしかたがない。獣医学の発展とともに病気のメカニズムが解明され、治療技術が格段に進むから、今後、ネコのアレルギー性皮膚炎の症例も増えていくだろう。
 それはともかく、ネコに圧倒的に多いアレルギー性皮膚炎が「ノミアレルギー性皮膚炎」である。皮膚炎が起こるのは、背中の腰からお尻にかけての部分で、ひどくなると毛が抜け落ち、皮膚一面に赤い、粟粒状のブツブツができる。原因はノミ。対策はいかにノミを退治するかに尽きる。ノミが最も多い季節は初夏から夏にかけて。気温が35度以上(0度以下)になると繁殖力が落ちるから、真夏は比較的少ない(しかし冬でも室内気温が暖かなので、いなくなることはほとんどない)。
 近年は、ノミの遺伝子に作用して、昆虫の殻をつくるキチン質の合成を阻害する「飲むノミ薬」や、ネコの背中に1滴たらして、ネコの血を吸う昆虫(つまりノミ)の成育を生理学的に阻止する薬剤が出てきた。まさしく特効薬といえるが、ノミのライフサイクルを絶つ薬剤のために、効果が現れるまでに数ヵ月かかる。また、これらの薬剤はノミだけでなく、昆虫すべてに作用するから、全国的に使用量が増えれば、将来、それらの薬剤が外の環境に混入して、生態系に大きな影響を与えるおそれもなくはない。あくまで乱用はひかえるべきである。

「疥癬」はヒゼンダニが寄生して起こる
   ネコ(もちろん犬も)のアレルギー性皮膚炎とまぎらわしい病気もいくつかある。よく目につくのは、疥癬(かいせん)虫と呼ばれるヒゼンダニが引き起こす寄生性皮膚炎である。このヒゼンダニにかまれると、ピンク色のブツブツが出て、とてもかゆくなる。わずか1匹でもあちこちかみまくるので、被害が広がる。しかし体長0.2〜0.4mmぐらい(ノミと同じでメスのほうが大きい)なので顕微鏡でしか見えず、発見が遅れることが多い。ひどくなると、顔や頭にかさぶたができる。
 ところで、ヒゼンダニには犬に付くのとネコに付くのでは種類が違い、犬に付くものは人間に移って体をかみまくる。犬やネコなら注射を打って退治するが、人間の場合、体に寄生せず、ときたま体にとりついて皮膚をかむだけなので、かゆみ止め軟膏を塗るぐらいが関の山。外を出歩くネコは、どこかで疥癬のネコと出会ってヒゼンダニに取り付かれることも少なくない。もしわが家の愛猫か愛犬がノミかダニに悩まされているなら、家のなかを丹念に掃除(駆除)しなければならない。

「精神性皮膚炎」に要注意
   最後に、やはりアレルギー性皮膚炎ではないが、最近ネコに目立ってきた「精神性皮膚炎」についてふれよう。
 ネコが自分の体の特定部分をなめまくり、ついに毛がぬけて皮膚がただれることがある。この場合は、家庭に、つまり飼い方に問題がある場合が多い。以前は飼い主がよく遊んであげたのに、このごろは仕事や遊びが忙しくてあまり相手をせず、ネコは寂しさと退屈がつのって、病的に体をなめることがある。
 また1軒の家に2匹のネコがいる場合、どちらかが強く、どちらかが弱い立場になりやすい。ネコ同士では強弱の関係で安定したつき合いが保たれていても、そこに人間が割り込んできて、彼らの関係がこわれることがある。つまり、自分勝手な正義感にとらわれた人間(飼い主)が弱いネコに味方する。そうすれば一時的にネコの間の強弱が逆転する。しかし人間がどこかに出かけ、ネコだけの世界に戻ると、我慢していた強いネコが鬱憤をはらすように弱いネコをいじめる。そのストレスが高まって、弱いネコがわが体を病的になめまわして毛が抜け、皮膚炎となるケースがある。人間はネコ同士の関係をかき乱してはいけない。ふびんなようだが、強いネコ、強い犬に味方するのが、ネコの世界、犬の世界を平和に保つ最善の手段なのである。
ついでに言えば、犬の場合は、あまり飼い主にかまわれないと、前足をやたらになめまわして潰瘍をつくるケースがある。
とにかく、ネコのアレルギー性皮膚炎は症例も少なく、「ノミアレルギー」以外、獣医学的にあまりわかっていない。といって、先の精神性皮膚炎のような場合もある。心身の健康は毛艶や皮膚の状態にあらわれる。日頃からグルーミングを絶やさず、スキンシップと健康管理を大切にしてあげたい。

*この記事は、1997年5月15日発行のものです。


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