アレルギー性皮膚炎2

【症状】
背中のブツブツや唇の潰瘍(かいよう)に注意。症状が不明確の場合も少なくない

イラスト
illustration:奈路道程

 

 猫の場合、犬に比べて、皮膚病にかかる割合が低く、アレルギー性皮膚炎になるケースも犬よりずっと少ない。
 また、たとえアレルギー性皮膚炎になっても、必ずしも犬のような、典型的な症状を示すとは限らない。だから、背中にブツブツができたからといって、それがノミアレルギーか、アトピー性皮膚炎か、それ以外の病気によるのか、詳しく診察してみないと分からないことも少なくない。
 犬歯の当たる唇の部位に潰瘍ができている時など、アレルギー性皮膚炎の症状が疑われることもある。また、おなかのところが脱毛している時など、「アトピー」か「食物アレルギー」かどちらかの可能性がある場合もある。
 そのほか、猫の耳の後ろの毛が抜け落ちている場合、耳の内部に症状がない(外耳炎ではない)場合、そして、おなかなどの脱毛で抜け落ちた毛が成長期のものなら、「アトピー性皮膚炎」やストレスによる皮膚炎の可能性がある。
 いずれにせよ、たとえ、はっきりした症状が確認されなくても、猫が体のどこかをしきりにかいたり、なめたりしていれば、動物病院でよく診察してもらうことが大切だ。

【原因とメカニズム】
体質的な問題とアレルゲンとの接触頻度、接触量
   猫のアレルギー性皮膚炎の原因、メカニズムについては、当然のことだが、犬や人間の場合とあまり変わらない。猫の体質的な問題で起こりやすいかどうかが決まってくる。もちろん、「ノミアレルギー性皮膚炎」の背景に、ノミの異常発生の場合もあるだろうが、わずかなノミに血を吸われたりするだけでも、ノミアレルギー性皮膚炎になることも少なくない。
 ここで簡単に「アトピー性皮膚炎」のメカニズムに触れておく。
 花粉なり、ハウスダストマイトなり、何らかのアレルゲンにさらされると、体の中で、そのアレルゲンに反応するIgE抗体(免疫グロブリンの一種)がたくさん産生される体質の猫や犬、人間がいる。このIgE抗体は、体の中の「肥満細胞」に結合してしまう。そこにアレルゲンとなる物質がくっつくと、肥満細胞の中のヒスタミンなどの顆粒状物質が放出される。このヒスタミンなどの物質の作用によって、周辺の部位に炎症を起こし、くしゃみ、鼻水、かゆみ、発疹、腫れなどの症状が出るのである。
 猫の場合も、一歳から三歳ぐらいの若齢期に初めてアトピー性皮膚炎を発症することが多い。体には、ある程度の許容範囲があるが、個体によって、ある種のアレルゲンへの許容範囲が狭く、それをオーバーした時に発症するといえるかもしれない。
 もっとも、猫の場合、人間と暮らしてきた歴史が犬よりもかなり短く、また、いわゆる繁殖管理など、人為的な交配の影響をあまり受けなかったために、野生時代同様、皮膚が丈夫なのか、あるいは、皮膚病以外の病気で、命にかかわる感染症などが多いために目立たないのか、アレルギー性皮膚炎にかかる割合は、犬に比べてずっと少ない。

【治療】
症状の緩和とアレルゲンの除去
   「ノミアレルギー性皮膚炎」なら、犬の場合と同じく、皮膚のかゆみやただれを抑えながら、まずスポットオンタイプなどの殺虫剤で成ノミ退治をする。それと同時に、家のなかのノミの卵や幼虫、サナギなどを駆除していく。とくに畳やカーペットなどは丁寧に掃除機をかけ、ふとんや毛布、マットなどは天日干しして掃除機をかけるなど、つねに室内環境を清潔に保つ。アレルゲンの除去、つまりノミの駆除が何よりも大切だ。
 「アトピー性皮膚炎」の場合、ステロイドや抗ヒスタミン剤などを投薬したり、必須脂肪酸の入った食品やサプリメントを活用して、かゆみや症状を抑えていくのは犬の場合と同じだが、難点がある。それは、皮膚のバリア力を高めるために行う保湿性シャンプーをするのが、犬に比べてずっと困難なことだ。
 また、猫は皮膚病になれば、いつも以上にグルーミングをする。ザラザラした舌でしきりに患部をなめると、症状が悪化しやすいことは言うまでもない。といって、エリザベスカラー(傷口をなめないように首に取りつける漏斗状のカバー)をつけてグルーミングを防ぐと、体の汚れがたまって不衛生になるばかりでなく、精神的なストレスもたまって、逆効果になりかねない。飼い主が愛猫と一緒に遊ぶ時間を増やして、患部に集中しがちな猫の気分をほぐしてあげるのもいいだろう。

【予防】
アレルゲンとの接触を減らし、心身の健康と生活環境の快適化を図る
  繰り返すが、「ノミアレルギー」や「食物アレルギー」、蚊などの「昆虫アレルギー」の場合、それらとの接触を絶つことが大切だ。しかし、「アトピー性皮膚炎」の場合、室内外の環境中にまん延するアレルゲンをすべて除去することは不可能に近い。とくに室内飼いで一日中家のなかで暮らす猫の場合、ハウスダストマイトなど室内のアレルゲンが問題であれば、室内環境をできるだけ清潔に保つ努力を行うべきである。
 それとともに、猫と遊ぶ機会を増やして、心身の健康保持に心がけること。室内飼いなら、犬のように散歩の機会もないため、運動不足などによる心身の不調を避けるためにも、飼い主があれこれ工夫することを忘れてはならない。とくにアトピー性皮膚炎などは、いったん発症すれば完治の見込みは少なく、生涯、それとつき合う覚悟が必要である。QOL(生活の質)を高めることが何よりも必要かもしれない。


※アトピー性皮膚炎と食物アレルギー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎のなかには、なんらかの食物をアレルゲンとして発症するものもあり、食物アレルギー性皮膚炎と区別しにくい場合がある。しかし、食物アレルギー性皮膚炎が、ある特定の食物をアレルゲンとするのに対して、アトピー性皮膚炎の場合は、なんらかの食物が、花粉やハウスダストマイトなど、いくつかのアレルゲンの一つとなっていることが特徴である。

*この記事は、2003年7月20日発行のものです。

監修 東京農工大学農学部獣医学科教授 岩崎 利郎


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