足を引きずる
ネコの場合、犬に比べて、足を引きずるようなケガや病気になる割合は低いが、
検査のために歩かせることもできないからケガや病気の発見が遅れがちだ。
監修/岸上獣医科病院 獣医師 長村 徹
大阪市阿倍野区丸山通1丁目6の1 TEL 06-6661-5407

ネコと犬を比べると

イラスト
illustration:奈路道程

 

 なぜ、ネコは、犬ほど足を引きずるケガや病気が少ないのか。
 その要因のひとつは、ネコが人間と暮らしはじめて日が浅く(犬は何万年・ネコは約五千年)、また、これまで永らく放し飼い状態で、人間による特定の品種作出の歴史が犬に比べてずっと短いためだ。そのため、雑種の度合いが強く、ごく一部の品種をのぞき(太りすぎは別の話だが)、ほとんどのネコは体型も体重もある程度の大きさ・重さを維持して来たので、足腰への負担はあまりかからず、遺伝的な病気もそれほど顕在化してこなかった。
 先に犬のページでふれたように、犬には特定の品種にかかわる(遺伝的な)体質の特徴によっておこる「股関節形成不全」のような病気が少なくない。また、体型・体重の大小も極端で、大型犬は重い体重が足腰に大きな負担となるし、また、成長期に急激に大きくなり、体重増加に骨格の成長が追いつかず、その時期、はげしい運動をさせれば、関節が不安定なままに成犬となりやすい。とくに関節は、若いときの無理がたたって、後年、変形性関節症など、痛く、つらい慢性病をひきおこすことが多い。一方、小型犬は、より小さく、より可愛く、という方向に進むために、骨や関節は弱化の傾向をたどり、少しの衝撃でケガをしたり、足・腰、内臓などに遺伝的な病気もめだってくる。

「落下事故」や「膿瘍」
   といっても、室内・屋外を問わず、放し飼いをもっぱらとするネコには、足腰をいためるケガはかなり多い。とくに高層マンションの窓やベランダから落ちる事故が増えている。ネコは反射神経がいいので、ほとんどの場合、落下しても、足から着地する。そのとき、最初に着地する前足に重みがかかり、骨折しやすいのである。室内でも、太り気味のネコなら、タンスや戸棚の上からジャンプして、同様のケガをすることも少なくない。
 交通事故では、骨盤が折れて、その後、自然治癒などで、変形したまま骨がくっつき、歩行の異常や便秘などの後遺症に悩まされることもある。言うまでもないが、これらは外科手術で治療する。
 犬のページでもふれたが、骨折の場合、折れた骨が皮膚をつきやぶって飛び出すと、折れた部分が外気にさらされて細菌感染をおこしやすくなる。そうなれば、骨の内部にまで感染がひろがり、骨髄炎となって骨組織全体が壊死するおそれもある。適切な治療が求められるのである。
 また、術後、自宅で足裏を刺激したりするリハビリを行うことも大切だ。
 ネコのケガには、ネコ同士のケンカにかかわることも少なくない。屋外で、野良ネコたちとケンカして、傷つくと、皮下の傷口が細菌感染して、炎症をおこし、腫れ、膿んでくることがある(「膿瘍」という)。それが肉から骨に到れば、骨髄炎になりかねない。
 屋外から帰ってくれば、ネコのからだをやさしくなで、さすり、ケガがないかどうかを確かめることも必要だ。

「がん」や「心臓病」
   では、病気のほうはどうか。
 最初にあげるべきは、足にできたがん(悪性腫瘍)が原因で、歩行困難になるケースである。犬やネコの足のがんでとくに多いのは、骨肉腫といわれるものだ(犬に多く、犬の骨にできるがんの85%といわれる)。よくできるところは、前足なら足首の周辺か肩の近く、後足なら、膝周辺のモモやスネの骨である。おもに七、八歳ぐらいの老年期にめだってくる。老年期の犬やネコが足を引きずりだせば、まず疑うべきは、骨肉腫である。
 この病気は、進行がとても速く、また、はげしい痛みをともなうために、犬やネコへの負担は非常に重い。手でさわっただけで、飛び上がるほどの痛みを感じるので、歩けなくなるばかりでなく、痛みから食欲もなくなり、衰弱がはげしくなる。これは犬の場合だが、骨肉腫は早い段階から肺などへ転移するため、外科手術しても、一年後の生存率は十%ほど、二年後なら二%ほどの難病だが、はげしい痛みをとりのぞくことを目的に、がんのできた足を切断する治療もよく行われている。早期発見・早期治療で少しでも痛みを軽減する方法をさぐることが大切だ。
 原因は不明だが、犬では大型犬に多く、若いときに骨折をおこした部位に発症するケースもある。
 ネコに特徴的な病気によって、足に影響を与えるものをいくつかあげる。そのひとつは、発育期に十分な栄養、とくにカルシウムを摂取しなかったためにおこる病気である。病名は、ふつうの人間には音読するのもむずかしい「上皮小体機能亢進症」という。「上皮小体」とは、のどの甲状腺近くにある内分泌器官で、体内のカルシウムバランスをととのえるホルモンを分泌する。だから、野良の子ネコなどが十分な栄養を摂れないと、この上皮小体の指令で、骨格を形作る骨からカルシウム分を溶かして血液中に放出し、栄養とする。結果、骨が薄くなったり、背骨が曲がってしまったりする。
 あるいは、ネコに多い、心臓の筋肉の壁がぶあつくなる、「肥大性心筋症」が原因する場合もある。この病気になると、心臓内に血の固まり(血栓)ができる。その血栓が動脈を通じて全身に運ばれ、後足の血管につまり、後足に血が通わなくなって、マヒをおこすこともある。足の血管がつまりだすと、大変痛く、我慢強いネコでも、ギャーギャーとなきわめく。要注意である。

*この記事は、2000年9月15日発行のものです。



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