耳の中にデキモノができる
高齢期に発症しやすい「耳垢腺の腫瘍」
高齢猫の耳の中にぽっこりとデキモノができていたら、それは「耳垢腺の腫瘍」かもしれない。
猫の場合、犬に比べて悪性腫瘍であることが多いので、「ただのイボ?」と放置しないことが大切。

【症状】
デキモノができ、外耳炎を併発して、耳の中がかゆく、くさくなる

イラスト
illustration:奈路道程

猫の耳の構造  愛猫が、後肢で耳をしきりにかいている。気になって耳の中をのぞくと、イボのようなデキモノができていて、外耳炎を起こしている。そんな時、耳垢腺の腫瘍の可能性がある。
 耳垢腺とは、耳の中、正確には外耳道にある汗腺の一種「アポクリン腺」のことである。その腺組織が腫瘍化したものが耳垢腺の腫瘍で、良性のものを「耳垢腺腫」、悪性のものを「耳垢腺がん」という。猫の場合、犬に比べると発症例は少ない。しかし、困ったことに、良性腫瘍の多い犬に対して、悪性腫瘍の割合がずっと多く、症例の半分前後となっている。
 そのうえ、形(イボ状からキノコ状、ドーム状など)や色(白や肌色、赤紫など)、大きさや数が様々で、外観だけでは良性か悪性か判別することは難しい。皮膚と同じ白っぽいイボのようだからと放置していると、実は悪性腫瘍でどんどん大きくなり、動物病院を訪れた時にはすでに他に転移してしまっていることもある。
 さらに、耳垢腺は、外耳道の奥のほうにもたくさん分布しているので、「く」の字に曲がった奥(水平耳道)にできると、それが大きくなって外耳道をふさぎ、細菌が異常繁殖して外耳炎を併発してしまう。進行して猫がかゆくて後肢でカリカリとかきだす(つめが当たって出血することも多い)まで飼い主が気づかないことも多いのである。
 中には、腫瘍が奥に浸潤し、鼓膜を突き破って中耳から内耳に影響を及ぼすこともある。そうなれば、外耳炎から中耳炎、さらには内耳炎を併発し、首が傾いたり(斜頸)、眼球が動いたり(眼振)といった神経症状さえ現れてしまうことにもなりかねない。
 

【原因とメカニズム】
原因は不明だが、高齢期に発症しやすい
 
 腫瘍がなぜ発症するのか、正確な「原因」を突き止めることは難しい。これは猫の耳垢腺の腫瘍に関しても同じである。しかし、耳垢腺の腫瘍を発症するのは、高齢期の猫に多いため、大方の腫瘍、がんと同様に、年を取るにしたがって、体力、免疫力が低下して、異常な細胞が生まれ、育ちやすくなっている可能性があるかもしれない。また、腺組織は働きが活発な細胞のため、細胞分裂の速度も早く、それだけ異常な細胞も生まれやすいかもしれない。
 ここで、猫(や犬)の耳と耳垢腺のかかわりについて考えてみる。耳、といえば、普通、頭の外に飛び出した耳介のことを考えるが、耳介はいわば集音器で、大切なのは外耳道の奥にある「鼓膜」である。外部の音が外耳道に入って鼓膜を振動させることによってその「音」を識別することができる。その鼓膜にゴミやホコリがつけば、感度が悪くなる。そこで動物の体には、鼓膜の表面や周辺についたゴミやホコリ、鼓膜の古い細胞片などを洗い流したり、湿度を適切にしたりすることで、鼓膜の状態を整える種々の工夫が備わっている。サラサラした水分から成る耳垢腺の分泌液もそのひとつである。
 実は、外耳道にはもうひとつ腺組織がある。それが、ベタベタした脂質を分泌する皮脂腺である。これには飛来したゴミやホコリ、あるいは雑菌などをからめ取る作用があると考えられる。

【治療】
外科手術で、腫瘍を「根元」まで切除する
 
 腫瘍治療の基本は、外科手術によって切除することである。もっとも、イボのような形だからと外側だけを切除すると、内部に「根」が残り、再発することもある。再発すれば悪性度も高くなっていく可能性があるので、最初にきちんと手術することが大切である。
 耳垢腺の悪性腫瘍は気づいた時には大きくなり、頸部のリンパ節に転移したり、耳道の軟骨を越えて深く浸潤したり、鼓膜の奥に入り込んでいたりするケースもある。そうなれば垂直耳道も水平耳道もすべて切除して、治療しなければならない。しかし、それでもがん細胞をすべて切除できないこともある。
 外耳道の入り口近く、特に垂直耳道の外側(頭と反対側)なら手術も簡単だが、奥のほうまで手術しなければならない時には、ちょうど垂直耳道と水平耳道の分かれ目辺りに顔面神経が走っているために、傷つけないよう細心の注意が必要となる。入り口近くの手術とは比べものにならないくらい大きな手術になり、猫の負担も大きくなってしまうのである。
 鼓膜の内側は、聴覚やバランス感覚などを司る感覚器官や感覚神経のある重要なところである。腫瘍が大きく深く浸潤する前に、そして肺など他の部位へ転移する前に発見し、治療することが大切である。

【予防】
高齢期になったら、定期的に耳の中の健康診断を
 
 耳垢腺の腫瘍は、例えば乳腺腫瘍と性ホルモンとの関係のように、はっきりとした因果関係が不明なため、有効な予防手段はない。
 繰り返すが、大切なのは早期発見、早期治療である。しかし、外耳炎になりやすい犬なら、ペットショップや自宅で耳掃除をする機会もあるが、猫は外耳炎と縁のないことも多く、何年も一緒に暮らす飼い主でも、愛猫の耳の奥まで観察するケースはあまりないかもしれない。
 耳垢腺の腫瘍は、高齢期になると発症しやすいため、愛猫が6、7歳以上になれば、身体検査の際に他の部位と一緒に動物病院で検診してもらったほうがいいだろう。
 もっとも犬の場合と違い、猫は普段はおとなしくても、他人(獣医師)に耳の中を触られるのを嫌い、手をかんだり、引っかいたりすることもある。子猫の時から、いろんな人にかわいがってもらい、人慣れするように育てるのも、健康管理のひとつといえるだろう。

*この記事は、2009年2月20日発行のものです。

監修/Vet's Office S・AOKI (日本動物高度医療センター 皮膚科・耳科科長) 青木 忍
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