腎臓病2

【症状】
 発熱、食欲不振、元気喪失、多飲多尿…


illustration:奈路道程

 腎臓は、猫や犬、人など動物のからだに害を及ぼす老廃物を血液中から濾しとり、尿として体外に排せつする重要な機能を果 たしている。その働きが悪くなると、猫は食欲も元気もなくなり、やせていき、毛づやも悪くなる。また、衰えた老廃物の排せつを補おうと、たくさん水を飲み、たくさんオシッコをしたりする。
 腎臓の機能を簡単に述べると、心臓から送られた血液は、腎臓内にあるたくさんの「糸球体」と呼ばれる毛細血管のボール群で濾過(からだに必要な赤血球やタンパク質などが回収)されて、原尿がつくられる。原尿はそれぞれの糸球体から、細尿管といわれる組織に送られ、そこで、からだに有用なブドウ糖やミネラルや大部分の水分が回収され、害のある尿素体窒素などの老廃物が(原尿の百分の一ほどの)尿に混ぜられ、尿管を通 して膀胱に送ら れる。
 この、からだに有用な物質を回収し、害のある老廃物を含んだ尿をつくる「糸球体」と「細尿管」のセットを「ネフロン(腎小体)」と呼び、猫の腎臓には二十万あるといわれている。もっとも、ネフロンは、いったん障害を受けて壊れると再生できないため、ふだんはその三分の一程度が働いており、残りは予備役として休んでいる。
 なお、ネフロンの約七十五%がダメージを受けると、いわゆる「腎不全」と呼ばれる重大な腎機能障害となり、一命にかかわる状態となるのである。

【原因とメカニズム】
 ウイルス&細菌&原虫感染、尿道づまり、中毒、心臓病、老化…
   猫は、腎機能に障害を与える病気になりやすいが、その要因にはいくつかある。
 その一つに、猫特有の感染症問題がある。たとえば、猫の三大ウイルス疾患のうちの「猫白血病ウイルス(FeLV)」や「ネコ伝染性腹膜炎(FIP)ウイルス」に感染すると、たとえ運良く命をながらえても、腎臓内で原尿をつくる「糸球体」腎炎になりやすい。また、子猫以外、ほとんどの猫にとってあまり問題とならない原虫「トキソプラズマ」に感染しても、「糸球体」腎炎になることがある。そうなれば、ネフロンが壊れていき、腎機能が低下して慢性腎不全になっていくのである。
 あるいはオス猫に多い「尿道づまり」でオシッコが逆流し、腎臓内のオシッコの出口にあたる「腎盂」腎炎になったり、膀胱炎をおこす細菌が膀胱から尿管を伝って「腎盂」腎炎をおこしたり、心臓病で心臓から腎臓への血液の流れが減り、尿素体窒素が体内にたまったりして、急性腎不全になることがある。また、猫が、車庫などに放置された、車の不凍液をなめたりして中毒症状をおこし、急性腎不全になる場合もある。
 そのうえ、からだの老化が進むと、再生不可能なネフロンが徐々に壊れていき、十歳ぐらいの猫では、たとえ腎臓病でなくても、腎機能は若年時の六十%ほどに低下していると考えられる。とすれば、年老いた猫にとって、腎機能を支える正常なネフロンはわずかしか残っていないことになる。そんな老齢期に、前記のような、いろんな要因が重なって腎機能がさらに低下すれば、いつ、末期の腎不全となって万事休すとなるか、わからない(なお、腎臓では、骨髄の造血作用を促進するホルモンもつくられているので、腎臓が悪くなれば、貧血状態となる)。

【治療】
 感染症治療、点滴・排尿促進、処方食
   尿道づまりや膀胱炎などの細菌感染による腎炎や、心臓病、中毒などによる腎炎、急性腎不全などの場合、早期発見・早期治療で、すばやく尿道を閉鎖している尿結石を除去したり、抗生剤で細菌をやっつけたり、心臓病の治療をしたり、点滴や利尿剤などで体内にたまった老廃物や中毒物質を早く体外に排せつしたりできれば、腎機能は回復する。
 しかし、老齢化に並行しながら、さまざまな要因で徐々にネフロンが壊れていく慢性腎不全の場合、病気発見につながる症状が明らかになったときは、ネフロンのダメージも大きく、腎機能の低下がかなり進行していることも少なくない。
 そんなときは、腎臓への負担の少ない低タンパク質などの処方食に切り替えて、少しでも腎機能の低下を抑える療法が基本となる。
 腎不全がひどくなれば、脱水症状が進行するので、点滴などで水分を補給することが大切だ。また、低タンパク質の処方食だけだと、食欲不振に栄養不良が重なって、かえって症状を悪化させるケースもある。そんな場合は、あえて愛猫の好きな高タンパク質の食べ物を与えて体力の維持に努めることが大切だ。雑食タイプの犬と違い、純粋な肉食タイプの猫は、基本的に良質なタンパク質をたくさん摂取する必要がある。
 末期症状になると、尿毒症が進行して多臓器不全をおこし、脳神経、心臓、肝臓などどこもかしこも悪くなり、助からない。

【予防】
 ワクチン接種、食事管理、ストレス対策、定期検診
   予防の基本は、腎不全につながるウイルス感染や細菌感染、尿道づまりなどをおこさないように、子猫のときからワクチン接種や健康管理、食事管理、あるいは室内飼いなどを励行することだ。そして、六、七歳ごろから、少なくとも年に一度はかかりつけの動物病院で定期検査を受けて、腎臓の状態をチェックしておくこと。とくに十歳をすぎ、老化が進んで腎機能が低下してくると、寒さや引っ越しなど、心身のストレスが急増するだけで、一挙に腎不全が進行することもある。生活環境の変化に十分注意することが必要だ。くり返すが、腎機能を支えるネフロンは、ダ メージを受けた部分は決して回復、再生することはない。

*この記事は、2002年2月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部 助教授 武藤 眞
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