かゆくて頭をかきむしる
猫の間でも広がりつつある「疥癬」
「犬の皮膚病」と考えられていた疥癬が、猫の間でも流行の兆しを見せている。
感染すれば、激しいかゆみから耳や頭をかきむしり、悲惨な状態になることも少なくない。

【症状】
赤い発疹と激しいかゆみ、引っかき傷による出血やかさぶた、化膿など

イラスト
illustration:奈路道程

 かつて、「疥癬」といえば「犬の皮膚病」と考えられていた。しかし、近年は犬の症例が減り、猫の症例が増えているようだ。
 疥癬を引き起こすヒゼンダニというダニは、宿主(寄生対象動物)によって種類が異なる。猫に寄生するのは体長0.15〜0.3ミリほどの「猫ヒゼンダニ」。犬に寄生するのは体長0.35ミリほどの「犬ヒゼンタニ」だ。
 ダニの寄生部位も、猫と犬では異なっている。猫の場合、まず耳(耳介)に寄生し始め、その後、頭部から頚部に広がることが多く、体や四肢にはあまり寄生しない。一方、犬の場合は、耳やわきの下、おなかなどに寄生しやすい。
 猫の疥癬はかゆみが激烈で、猫が鋭いつめでダニの寄生する耳や頭部を“狂ったように”かきむしり、頭全体の毛がまるで“ハゲタカ”のように抜け、ひどい引っかき傷で出血し、傷口に雑菌が入って化膿し(膿皮症)、ただれることも少なくない。放置すれば、耳や目も悲惨な状態になりかねない。さらに、細菌感染がひどくなれば、敗血症で命を落とさないとも限らない。
 猛烈なかゆみの要因は、ヒゼンダニの出すふんや分泌物質によるアレルギー反応と考えられている。このダニが猫の耳や頭部に取りつくと、交尾を終えたメスダニが、皮膚の角質層にトンネルを掘って卵を産み出す。その卵がかえって成長し、どんどん増殖していく。
 


【原因とメカニズム】
感染動物と接触することで感染し、ダニのふんや分泌物質によるアレルギー反応で症状がひどくなる
 
 ヒゼンダニは、宿主の体から離れると、一日〜一日半程度しか生存できないといわれている。そのため、ほとんどの場合、ヒゼンダニの寄生する動物と直接接することによって感染すると思われる。
 もっとも、自然界でも、湿度97%、温度10℃の環境下ならば十九日程度は生存できると考えられるため、猫が外出時、ダニが寄生している野良猫の通り道に落ちたダニを拾う可能性もある。また、飼い主がダニの寄生する野良猫の頭をなでた時、飼い主の衣服にダニが飛びつき、自宅で愛猫にうつす可能性もなくはない。
 近年の、猫疥癬の増加の背景には、野良猫からの感染の増加という要因がありそうだ。
 猫の頭部に取りついたオスとメスのヒゼンダニが交尾すると、メスは産卵するために皮膚の角質層にトンネルを掘り、その中で卵を産む。卵からかえった幼ダニは体表面に出てきて成長し、若ダニとなり、ついで成ダニとなって、繁殖行動を行う。そしてメスダニがまた角質層にトンネルを掘って卵を産み、という生活を繰り返す。
 なお、卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニという、ヒゼンダニの生活サイクルは、十七〜二十一日間程度。メスの成ダニは、一日に二〜三個の卵を産みながら、四〜五週間程度は生存すると思われるから、感染して一、二か月すれば、かなりのダニが寄生していることになる。ちなみに、計算上では寄生しているダニの数は百万匹にも達するが、実際には色々な要因で制限が加わり、猫一匹で千匹以内といわれている。
 ダニの個体数の増加に伴って、ダニの出すふんや分泌物質などのアレルゲンも急増し、かゆみなどの症状もひどくなる一方だ。もっとも、症状の程度は猫の体質や免疫力の強弱などによって異なる。

【治療】
ダニの生活サイクルに合わせた継続的な殺ダニ剤の投与と、飼育環境の掃除を徹底する
 
 皮膚病は、当然のことだが、原因によって治療方法が異なる。まず、患部の皮膚を少しこすり取って、ダニのふん、幼ダニ、若ダニ、成ダニを検出して診断。治療にあたる。
 治療方法としては、疥癬はヒゼンダニの感染によるため、殺ダニ剤の投与が中心となる。同時に、ダニの潜む可能性が高い寝床、マットなどを焼却処分(あるいは50℃で10分間の熱処理)すること。そして、室内を徹底的に掃除し、殺ダニ剤を散布して、猫の生活環境からダニを一掃する。多頭飼いの場合は、同居する猫を同時並行的に治療していかなければならない。
 ただし、治療方法の選択には注意が必要だ。犬の場合は、薬用シャンプーと薬浴(七日ごとに五週間)、注射投与(二週間隔で二、三回)が一般的である。しかし、猫は薬浴用剤への感受性が高く、薬浴後、体をなめて中毒症状を起こす可能性もあるため、注射投与か経口薬投与(注射液剤と同種の薬剤で、通常、注射と同様に二週間隔で二、三回)を行うほうが良い。
 なお、薬剤はダニの卵には効かないため、症状が改善したからと途中で治療を中止すれば、卵からかえった幼ダニが成長して、繁殖し、症状が悪化する。

【予防】
室内飼いの徹底と、スポット・タイプのノミ・ダニ殺虫剤の定期投与など
 
 疥癬は、ヒゼンダニが寄生する動物との直接的な接触によって感染する確率が高い。だから、疥癬を疑われる野良猫との接触を避けるため、室内飼いに徹することが大切だ。だが、発情シーズンなどは、ドアや窓の開閉時に脱走する猫も少なくない。成猫になる前に去勢、避妊を済ませておけば、外出願望もそれほど高まらないだろう。
 疥癬はいったん治癒しても、外出して再感染するケースが多い。なお、スポット・タイプのノミ・ダニ殺虫剤を皮膚に直接滴下する(スプレータイプもある)など、定期的に投与していけば、かなりの程度、ヒゼンダニ感染の予防も期待できそうだ。
 ただし、スポット・タイプの薬剤は、滴下する日の前後二日間はシャンプーをしないこと。また、六週齢以下の子猫には使用すべきではない。

*この記事は、2005年6月20日発行のものです。

監修/佐藤獣医科医院 院長 佐藤 正勝
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