角膜潰瘍
ネコ(や犬)の眼の病いで、白内障、緑内障と並んで多く、眼の三大疾病の一つと言われるのが角膜潰瘍である。
放っておけば、短期間に角膜が溶け、穴が開き、眼がつぶれてしまう。
監修/奥本動物病院 院長 奥本 利美

ケガや炎症による細菌・ウイルス感染で発症

イラスト
illustration:奈路道程

 

 角膜潰瘍という病名をご存じでしょうか。
「角膜」とは、言うまでもなく、眼球の一番外側にあり、外界と接し、光を通す透明な膜。「潰瘍」とは、かの胃潰瘍で知られるように、体の表面や内腔のどこかがただれたり、くずれたり、裂けたりすること。つまり、ネコ(や犬)がケンカや事故などで傷ついた角膜に細菌が感染して、角膜がただれて溶けていく病気である。
 あまり耳慣れないが、角膜潰瘍はネコや犬たちにとって、白内障、緑内障と並んで眼の三大疾病の一つと言われるほどに症例が多い。ことになわばり争いや恋の季節の異性をめぐる熾烈(しれつ)な闘いの多いネコ族にとって、何よりも気をつけるべき病いと言える。
 とにかく、ケンカばかりでなく、ネコ同士がじゃれあってもつい本気になって互いに爪を立て合って、あちこちひっ掻き傷をこしらえるのが日常茶飯事のネコにとって、角膜に傷を受けるのはそれほどめずらしいことではない。
 人間なら、ほんのわずか角膜を傷めただけで耐えられないほどの痛みを感じるが、痛みに鈍なネコや犬にとってはそれほどの大事という意識はない。
 しかし角膜の傷口に細菌が付着して炎症をおこせば、細菌から角膜を溶かす酵素がどんどん産生され、角膜がただれてくる。あるいは、傷を受けなくても、真菌やヘルペスウイルスが角膜や結膜に炎症をおこし、(早ければ、4,5日で)角膜潰瘍になるケースもある。そのほか、涙腺の病気で涙の分泌がなくなり、いわゆるドライアイとなって角膜に炎症がおこり、角膜潰瘍になることも少なくない。

角膜が破れる前に、一刻も早く治療する
角膜潰瘍
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白内障

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 ネコの角膜は厚みが0.8mmほどで犬(1mmほど)よりも少し薄く、角膜潰瘍になって治療が遅れると、ついに角膜に穴が開き、眼球の内容物が外に出てきて、眼がつぶれることが多い。潰瘍の程度が浅ければ、抗生物質で細菌を抑えながら、角膜を溶かすコラーゲンの働きを抑制する抗コラゲナーゼ剤の目薬を点眼し、角膜が再生するのを手助けする。
 角膜は外から上皮・固有層・デメス膜・内皮の四層からなりたっていて、固有層の3分の2ぐらいまで無事なら、点眼などの内科治療でいい(上皮までなら、2,3日で治る)。しかしデメス膜まで潰瘍が進んでいれば、外科的な治療、つまり手術の必要がある。手術の方法には、眼の結膜を一部分切って角膜の傷口をおおう「結膜フラップ」か、ネコや犬の瞼の下にある瞬膜をかぶせる「瞬膜フラップ」がある。角膜には血管が通っていないため(房水や涙から養分を供給)、結膜や瞬膜をくっつけてそこから血液を供給し、角膜の修復をはかるというわけである。また再発をくり返す、角膜の上皮びらんは傷口周辺の角膜を針で突ついて刺激を与え、修復をはかる方法もある。
 とにかく、角膜が破れたら、万事休す。房水が流れだし、あっと言う間に眼がペチャンコになってしまう。いったん角膜潰瘍となったら、わずか1日24時間で角膜の溶解がかなり進む。愛猫が眼をショボショボさせ、涙目となり、目やにがたまるようなら、すぐに動物病院にかけこんで、角膜の状態を検査してもらうこと。

目やに、涙目、ショボショボ眼に要注意
   ネコは、このようにケガや細菌・ウイルス感染などによって、結膜や角膜に炎症をおこし、角膜潰瘍となったり、ドライアイから角膜が白く濁ったり、角膜の一部が変性したり、あるいは近親交配傾向の洋種(ペルシアやヒマラヤンなど)ネコでは遺伝的に角膜の中心が黒くなる角膜黒色変性症にかかったり、眼の病いに苦しむことが少なくない。
 さらにケンカなどで角膜ばかりか水晶体まで傷を受け、それが元で白内障になるネコもいる。また近年は、アトピーなどのアレルギー疾患と白内障の関係も注目されている(人間でも、アトピーから白内障に至るケースもある)。
 古来、眼は心の窓、と言うが、「心の窓」ばかりでなく、動物の体で「臓器」が外界に直接さらされる唯一の器官である(視神経は脳の中枢神経の一部である)。それだけ、ケガや細菌・ウイルス感染などでさまざまな病いにかかることも避けられない。ことにネコは、人間同様に視覚の役割がことのほか大きい動物で、眼の病いが致命的になる。
 愛猫とくつろぐとき、ふだんからよく眼の状態をチェックして、目やに、涙目、ショボショボ眼など、何か変化があればすぐ動物病院で検査してもらうのが一番だ。

*この記事は、1998年9月15日発行のものです。

●奥本動物病院
 大阪府箕面市外院2-16-2
 Tel (0727)29-1204
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