角膜潰瘍2

【症状】
眼がショボつき、目やにが出る。痛みがひどく、眼が開かない

イラスト
illustration:奈路道程

 

 眼球の前面にあって眼球自体を保護しながら、外界からの光を屈折させ、透過させる透明な膜が「角膜」である。眼を閉じれば、人間なら「まぶた」で、猫や犬なら「まぶた」とその下にある「瞬膜」で守られているが、眼を開けている間、角膜はその表面を潤している「涙」で保護されているだけで、とても傷つきやすい。角膜の表面についた傷口が角膜内部までただれ、えぐれていくのが「角膜潰瘍」だ。
 角膜の表面組織である上皮が傷つくと、眼をショボつかせ、涙をたくさん流して、傷口を保護し、修復しようとする。しかし傷が深く、角膜の内部にまで達すれば、角膜の本体「角膜実質」が細菌感染などによる炎症でただれ、えぐれていく。そうなれば、眼を開けられないほどに痛みが激しく、目やにがたくさん出て、まぶたがふさがってしまう。角膜潰瘍になれば、わずか一、二日で角膜に穴が開き(角膜穿孔)、内部(前房)から房水が染み出して眼球が萎縮。また、眼球内部まで細菌などによる感染症が広がり、全眼球炎を起こして失明する。
 なお、角膜は、外側から「上皮細胞」「基底膜」「角膜実質」「デスメ膜」「内皮細胞」の五層になっている。厚みは猫で約0.8mm。そのほとんどが、コラーゲン線維を主体成分とする「角膜実質」で、ここが融解して潰瘍が「デスメ膜」に至れば緊急事態となる。

【原因とメカニズム】
猫同士のケンカやウイルス感染症、ドライアイ
   角膜潰瘍の要因で気づきやすいのは、ケンカ傷である。猫が戸外に出れば、猫同士の縄張りや異性をめぐる争いに巻き込まれ、相手のつめが眼に当たり、角膜をケガすることも少なくない。傷口が浅く、角膜表面(上皮細胞)だけだと、何日かで自然治癒するだろうが、角膜実質まで傷が到達すれば、つめに付着した細菌が繁殖してコラーゲン分解酵素を出し、角膜実質のコラーゲン組織を分解して、潰瘍がさらにひどくなる。
 では、室内飼いの猫に角膜潰瘍が起こらないかと言えば、そうではない。例えば、アレルギー性の結膜炎などで眼がかゆく、指先でかいているうちに、つめが角膜を傷つけることもある。意外に多いのが、「ネコカゼ」といわれる猫ウイルス性鼻気管炎を引き起こすヘルペスウイルスやカリシウイルス、あるいは猫白血病ウイルス(FeLV)などに感染して結膜炎を起こし、その後、角膜炎となって角膜潰瘍に至るケースである。これらの感染症は、特に野良猫の間では母子感染などでウイルス感染が広がり、道端や公園で拾った子猫などが被害に遭うことも少なくない。
 また、免疫が関与して、涙腺の細胞が損傷を受けて涙の分泌が悪くなり、「ドライアイ」となった猫も要注意だ。角膜は、涙によってゴミやホコリを流し、表面についた傷を修復している。しかし、ドライアイになれば、角膜表面が乾燥し、傷つきやすく、また、細菌やウイルスに感染しやすくなる。結果、角膜潰瘍になることが多い。
 その他、ペルシャやヒマラヤン系統の猫がかかりやすい、「角膜実質」内の組織が黒く壊死する「黒色壊死症」という原因不明の眼病から角膜潰瘍になることもある。

【治療】
潰瘍の進行を止め、角膜の自己修復を助ける
   角膜潰瘍の治療法には、各種の点眼薬を使った内科的療法と外科的療法があり、どちらを選ぶかは、潰瘍の程度にかかわってくる。もし、潰瘍が、角膜実質の三分の二ほどの深さまで進行していれば、すぐに角膜に穴が開く可能性が高いため、緊急手術が必要となる。いずれにせよ、角膜潰瘍の治療法は、潰瘍の進行を止めながら、眼自体の自己修復機能をいかに高めるか、である。
 内科的治療とは、細菌の増殖を抑える抗生剤、角膜実質のコラーゲンを分解させるコラーゲン分解酵素の働きを抑える抗コラゲナーゼ剤、あるいは、炎症により虹彩が縮瞳するのを抑える散瞳剤などの点眼剤を投与して潰瘍の進行を止め、角膜の各組織が自己修復していくのを手助けする方法である。もしドライアイで涙の分泌に支障があれば、人工涙液を日に十回以上も差して、角膜表面の保護と自己修復を補う手助けをする。
 外科的治療には、眼の結膜組織を一部分切り取って角膜の潰瘍部分を覆う「結膜フラップ」や、猫や犬特有の瞬膜の一部分を切り取って覆う「瞬膜フラップ」などがある。よく知られるように、角膜には血管がなく、栄養補給は内部(前房)の房水を取り込み、また、酸素補給は涙を通じて角膜表面から行う。しかし潰瘍などの損傷がひどいと、房水や涙を通じての栄養・酸素補給だけでは不十分。そこで、結膜や瞬膜の一部を切り取って角膜の傷口を覆い、それらの「膜」から血管を通じて、直接、潰瘍部に栄養と酸素を補給して迅速な組織修復を行うのが外科的治療法の狙いである。

【予防】
室内飼いやワクチン接種で、ケンカやウイルス感染を防止する
   すでに述べたように、角膜潰瘍の要因には、猫同士のケンカやウイルス感染症、ドライアイなどがある。子猫の時から、ケンカやウイルス感染の機会をなくすために、室内飼いに徹すること、ウイルス感染予防のワクチン接種を行うことが極めて重要だ。
 かゆくて眼をかきたがる猫には※エリザベスカラーを付けることもある。また、子猫を拾って育てる場合、最初に動物病院で健康診断を受け、ウイルス感染症の有無をよく調べてもらい、万一何かのウイルス感染症にかかっていれば、その治療に専念する。なお、治癒後も、ヘルペスウイルスなどは体内に潜んでいて、体が弱ればまた暴れ出す。常に愛猫の健康管理に注意するように心がけてほしい。
※犬や猫がけがをした時に、傷口をかんだりなめたりしないように、首の周りに付けるろうと状の保護具。

*この記事は、2004年8月20日発行のものです。

監修/奥本動物病院 院長 奥本 利美
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