元気や食欲がなくなる
異常に気づきにくい「肝疾患」
初期はほとんど症状がなく、状態が悪くなってから発見されがちな「肝疾患」。
肝疾患には、どのような猫がなりやすく、何が原因になりやすいのだろうか。

【症状】
初期はほとんど無症状。やがて元気や食欲がなくなり、黄疸が出ることも

イラスト
illustration:奈路道程

 肝臓は、体に必要な栄養素の合成・分解・貯蔵、食べ物(脂肪分)の消化を助ける胆汁の合成、体に有害な物質の処理など、動物が生きるために不可欠な機能を果たしている。そのため、状態がかなり悪くなるまで、はっきりとした症状を出さずに働き続ける。「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんである。
 そこで、「このごろ、うちの猫、元気や食欲がない」と動物病院に連れて行き、重い肝臓疾患と診断されることもある。また、「白目の辺りが黄色くて…」と、黄疸症状が明らかな場合は、重症のケースである。
 では、猫の肝疾患にはどんなものが目立つのか。その代表は、「脂肪肝(肝リピドーシス)」である。この病気は、太り気味の猫が何らかの理由で食欲不振に陥り、3日以上絶食状態が続いた時に発症しやすい。その他、病原性細菌などの感染症が引き金になる「胆管炎」や「胆管肝炎」、あるいは、薬物性の「肝障害」、肝臓で発症する「腫瘍」などである。
 

【原因とメカニズム】
太り過ぎ、細菌感染、薬物、腫瘍など
 
脂肪肝(肝リピドーシス)

 「脂肪肝(肝リピドーシス)」は、肝臓に過度の脂肪が蓄積した状態で、脂肪の代謝やホルモン異常などの様々な原因で起こるが、原因不明(特発性)のものも多い。
 猫は脂肪体質で、犬よりも皮下脂肪が多く、脂肪の代謝能力もそれほど高くはない。通常、猫が3日以上食べ物を食べなかったり、慢性的な栄養不足に陥ったりすると、猫の体は皮下や内臓周辺に蓄積された脂肪を分解してエネルギー不足を補おうとする。その時、分解された中性脂肪が大量に肝臓に流入すると、処理できない脂肪分が肝細胞に取り込まれ、肝機能に障害が起きていく。重篤な場合は肝不全を起こし、死に至る。
 肥満や太り気味の猫は、やせている猫に比べて脂肪肝になりやすく、別の病気のために数日間以上、十分な食事を取ることができないような場合でも、合併症として脂肪肝を引き起こす危険がある。


胆管炎・胆管肝炎

 胆管とは、肝臓内にたくさんある細い管で、肝臓内で造られる胆汁を肝管(胆汁を肝臓から排出する管)に送り出す役目を果たしている。肝臓は、腸管から門脈という血管を通して栄養分を取り入れているため、腸管内に繁殖する細菌が侵入しやすい(十二指腸から総胆管を逆流して細菌が侵入することもある)。体調を壊し、また、ウイルス感染症などで免疫力が低下していると、それらの細菌が異常繁殖して肝臓に至り、胆管に炎症を起こすこともある。胆管炎の炎症が周辺の肝細胞に広がった場合を「胆管肝炎」という。
 なお、細菌の働きが活発で、急性の症状を現すのが「化膿性胆管肝炎」。炎症が慢性化して免疫異常を起こしたものが「リンパ球性胆管肝炎」で、治療方法はまったく異なる。胆管とその周辺の炎症がひどくなると、胆管がふさがり、胆汁が肝臓にたまる。その後、血流に乗って胆汁色素(ビリルビン)が全身に広がるため、白目が黄色くなったり(顕性黄疸)、オシッコが山吹色になったりする。


薬物性肝障害

 猫の肝臓は、有毒物質の代謝能力が犬ほど高くないため、与えられた薬物をうまく分解できず、肝障害を起こすこともある。よく見られるのが、ネコカゼなどで鼻水、鼻詰まり、発熱などの症状が現れた時、飼い主が、人間用の解熱・鎮痛剤を与える場合である(ネコカゼは猫特有のウイルス感染症で、人間の「カゼ」と似た症状を示すが、まったく別の病気)。人間用の解熱・鎮痛剤に入っているアスピリンやアセトアミノフェンなどの成分は、猫ではしばしば肝障害を起こし、重篤な肝不全を引き起こすことがある。
 また、白癬菌の治療薬(飲み薬)を投与すると、体質的に肝障害を引き起こしやすい猫もいる(特にペルシャ猫の場合は要注意)。


腫瘍

 猫の肝臓にかかわる腫瘍で目立つのは、「胆管がん」である。これは、胆汁を排せつする胆管細胞ががん化したもので、早期発見が難しく、気づいた時には手遅れの状態であるケースが少なくない。また、肝臓がリンパ腫や肥満細胞腫などに侵される場合もある。悪性腫瘍が肝臓全体に広がり、「おなかが大きいのに、元気や食欲がなく、やせてきた」と飼い主に連れてこられ、肝生検(肝細胞を採取して病理検査を行うこと)によって確定診断されることもある。


【治療】
病因を確定診断して、適切な治療を選択
 
 肝臓の病気は、血液検査や肝生検などで確定診断を行わないと、有効な治療法を選択できない。

脂肪肝(肝リピドーシス)

 例えば、脂肪肝の場合、一刻も早く栄養補給を行い、「猫の体内脂肪の分解→肝臓での脂肪の蓄積」という悪循環をストップさせなければならない。しかし、食欲不振の猫に食べさせるのは難しく、のどや胃に直接チューブを挿入して、強制的に栄養補給するケースも少なくない。


胆管肝炎

 胆管肝炎の場合、急性の化膿性胆管肝炎なら、抗生物質を投与して細菌繁殖を抑える。しかし、慢性のリンパ球性胆管肝炎なら、ステロイド剤を投与して免疫の過剰反応を抑える必要がある。もし「化膿性―」なのに、「リンパ球性―」と誤診してステロイド剤を投与すれば、免疫力が低下して逆効果である。


薬物性肝障害

 薬物性肝障害なら、点滴治療を行って毒性物質の代謝を促進し、肝機能の回復を待つ(白癬なら、代替治療薬を投与する)。


腫瘍

 リンパ腫、肥満細胞腫なら、肝臓全体に広がっているケースが多い。その場合、外科手術が適応できず、抗がん剤治療が中心となる。


【予防】
日ごろの食事管理、健康管理と定期検診
 
 太り過ぎの猫が脂肪肝になりやすく、胆管炎や胆管肝炎の引き金となる細菌感染なども、体調不良やウイルス感染症などによる免疫力、体力の低下にかかわっている。このことからも分かるように、肝臓疾患の予防には、日ごろの食事管理、健康管理が極めて大切である。
 また、肝臓はかなり機能障害が進むまで明らかな症状を現さないため、外見的な健康チェックだけでは後手に回りがちである。例えば、年に一度でも定期的に血液検査をして、肝酵素の数値をチェックしていれば、初期の肝機能の異常を発見できる可能性が高い。さらに、猫は薬物性の肝障害にもなりやすいため、人間用のカゼ薬を与えるなど、誤った“素人療法”は決して行うべきではない。

*この記事は、2006年9月20日発行のものです。

監修/井笠動物医療センター 小出動物病院 院長 小出 和欣


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