血尿が出る
ネコの場合、血尿から疑われる病気の
代表が「尿石症」と「膀胱炎」である。ときには、命にかかわる腎臓疾患になることもある。

尿石症と尿道づまり

イラスト
illustration:奈路道程

 

 ネコの血尿にかかわる病気でことに多いのは、膀胱結石や尿道結石などの「尿石症」だ。次が、膀胱炎。あるいは腎臓に起因する場合もある。犬にめだつ前立腺疾患や腫瘍などはあまりない。
 尿石症によってひきおこされる「尿道づまり」はネコの飼い主たちの大きな関心事で、その要因のひとつとされるキャットフードも、尿石症をおこしにくい「低マグネシウム」をうたった製品が多数つくられてきた。そのためか、近年は、以前より症例数も減ってきたようだが、現実には、まだまだ多い病気である。
 犬のページで述べたように、尿のなかには、尿素をはじめ、ナトリウム、カリウム、塩素、アンモニウム、リン酸、カルシウム、マグネシウムなど多くの成分がふくまれており、それらが結晶化したのが「尿石」である。もっとも、膀胱結石でいえば、ネコよりも犬のほうが症例は多い。ただし、犬の膀胱結石が、まるで石の固まりのようになるのに対して、ネコの場合は、砂粒のような、細かな「尿石」が多く、尿道が長く、先細りする雄ネコが「尿道づまり」をおこしやすいのである。
 それに、フード由来の「尿道づまり」の主要因子として知られる、尿中のマグネシウムとリン酸などが結晶化した「ストラバイト」は、「石」や「砂」というよりも、細かな結晶成分からなる、ねばねばした粘度の高い物質なので、いったん詰まると、尿道を密閉してしまい、まったく排尿できなくなる。排尿できないと、尿が膀胱か腎臓に逆流して、腎臓に障害をおこし、「尿毒」が体内を循環して、わずか2日前後で死亡する。
 尿道に詰まっているのが、ねばねばした「ストラバイト」なら、しぼりだしたり、管を入れて、急いで尿を出さないといけない。また、細かな「石」「砂」の類なら、尿道に細い金属棒を入れ、それに超音波を伝えて「尿石」を破砕する方法もある。もっとも、そのとき、金属棒が加熱されるので、注意しないと、尿道内を「やけど」することもある。
 再発防止のためには、低マグネシウム・低リンのフードに切り替えること。また、膀胱内の尿がアルカリに傾くと、「ストラバイト」の結晶化が進むので、食餌時間を決めたり、食餌量を減らすなどして、尿のアルカリ化をおさえることも必要だ。さらに、よく運動させ、水分の摂取を増やして、体の代謝を活発にさせ、オシッコの量と回数を増やすことを心がけるべきである。
 なお、「尿道づまり」再発防止のため、ペニスカット手術をする場合も少なくない。

急性膀胱炎と慢性膀胱炎
   オシッコが出づらい、出なくなるのが「尿石症」による「尿道づまり」なら、反対に、オシッコの回数が増えるのが膀胱炎である。
 膀胱炎は、おもに膀胱内に侵入した細菌が膀胱内壁で繁殖して炎症をおこす病気で、尿道が短く、膀胱が細菌感染しやすい雌ネコに多いということは、すでに犬のページ で述べた。
 ふつう、膀胱内は弱酸性に保たれ、細菌の侵入を防いでいるが、尿がアルカリに傾くと、細菌が侵入しやすくなる。つまり「尿石」ができやすく、また、膀胱壁や尿道壁に傷ができれば、細菌に感染しやすくなり、膀胱炎を併発することが多いのである(なお、犬の場合、細菌感染がおこって膀胱内がアルカリに傾き、膀胱結石になるケースが多い)。
 急性膀胱炎なら、抗消炎剤、抗生剤を、症状に合わせて数週間服用させれば、治る。しかし、薬を飲みだして、炎症がおさまり、血尿が見られなくなると、服用期間の途中で、ネコへの投与を中断する飼い主も少なくない。そんなとき、膀胱内で細菌が生きのび、しばらくして、また膀胱炎を再発しかねないのである。
 そうなれば、慢性膀胱炎となって、薬を服用しても、なかなか治らなくなる。
 病気が慢性化すれば、膀胱の内壁が厚くなり、膀胱内に十分尿をためることができなくなる。オシッコをがまんできないネコは、しかたなく、たびたびオシッコをもらしてしまう。よく家のなかで、ネコがあちこちオシッコをして困るケースがあるが、慢性膀胱炎に起因することも少なくない。安易に「問題行動」と決めつけるべきではない。ときには、慢性膀胱炎がひどくなり、膀胱壁に潰瘍(かいよう)ができることもある。動物病院で正確な診断を受け、じっくり、治療に専念すべきである。

腎臓の疾患
   これまで、膀胱や尿道にかかわる「血尿」の病気について述べてきたが、最後に尿をつくる腎臓にかかわるものにふれる。
 腎臓になんらかの炎症があれば、そこから出血して血尿となる。よく見られるのが、「腎盂(じんう)腎炎」である。これは、膀胱炎で膀胱内で繁殖した細菌が尿管をのぼって腎臓下部の尿の出口である「腎盂(じんう)」にいたり、細菌感染をおこした場合などにおこる。治療が不完全だと慢性化して、腎不全にいたることもあるから要注意だ。そのほか、腎臓内に「尿石」ができる「腎結石」や、たまには腎臓の腫瘍などもある。
 血尿が出ただけでは、実際のところ、腎臓から膀胱、尿道、前立腺などのどこに病因があるか不明である。なお、簡単な血尿の見分け方について述べると、排尿時、最初に血尿が出て、その後きれいなオシッコが流れる場合は、尿道付近に問題がある。腎臓や膀胱に問題があれば、膀胱内で尿と血液が混じり合っているために、最初から最後まで血尿状態が続く。
 しかし腎臓から赤血球が出ても、膀胱がんによる出血と同じで、最初は肉眼で「血尿」と判断することはむずかしい。安易な思い込みで、「血尿=膀胱炎や尿石症」と 見なしていると、万一、腎障害や腫瘍などがひそんでいたときに、手遅れになりかねない。
 そのために、ぜひ、若いころから尿検査などの定期検診をおこなうようにしてほしい。とくに六、七歳以上になれば、体力や免疫機能の衰えなどで感染症にもなりやすく、悪性腫瘍の心配も大きくなる。また腎臓もいったん悪くなれば回復が不可能で、腎不全は老齢期のネコたちの代表的な死因ともなっている。

*この記事は、2001年11月15日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部助教授 渡邊 俊文
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