しきりにお尻を気にしだす
“不潔”などが原因になる「肛門周囲」の病気
グルーミングの時、猫がしきりにお尻を気にしたり、なめ回したりしていたら、肛門周りに問題が起きている可能性がある。
悪化すると肛門嚢という“におい袋”が破裂することもあるので、適切な対処が欠かせない。

【症状】
肛門嚢が腫れ、化膿がひどくなれば破裂する

イラスト
illustration:奈路道程

 毛づくろいの時、愛猫がしきりにお尻をなめ回していることがある。どこかいつもと違う、と感じたら、そっと抱き上げ、お尻、つまり肛門の周りをチェックしてみたほうがいいだろう。
 犬と異なり、猫の場合は肛門周りの病気に煩わされることはそれほどない。しかし、下痢気味で排便後、肛門周りが汚れ、それが気になってなめ回しているのかもしれない。
 肛門の左右にひとつずつある「肛門嚢」が腫れている可能性もある(肛門嚢炎)。さらには肛門嚢の炎症がひどくなり、化膿して、破裂してしまうことも起こり得る。
 その他、何らかの要因で肛門周囲に問題が起こり、ウンチがスムーズに排せつされないケースも考えられる。
 肛門嚢とは、肛門腺が分泌する各動物特有の「におい」を発する液体をためる“袋”である。通常、ウンチが肛門から排せつされる時、肛門の筋肉の収縮作用で肛門嚢が圧迫され、内部にたまった分泌液が幾分かウンチに付着するように絞り出される。これは、自らの縄張りを宣言するマーキングの一種となる。
 また、外敵に出合った時など、一気に分泌液を噴射して相手を威嚇したりすることにも活用されている。
 そんな肛門嚢がなぜ炎症を起こすのだろうか。

【原因とメカニズム】
下痢や太り過ぎなどで肛門周りが不潔になる
 
●肛門嚢炎と肛門嚢破裂
 あまり暴飲暴食をせず、また鮮度の高い食べ物を食べてきた猫は、犬ほど下痢に悩まされることはない。しかし、体が小さく体力の弱い子猫期になど、飼い主がつい食べ物やミルクなどを与え過ぎたり、かわいいからと、しきりに抱っこしたりなで回したりして体調を崩し、下痢になることもある。
 親子同居の場合など、母猫がグルーミングし過ぎて、肛門周囲がただれてしまうこともある。成猫でも、長毛種などでは(飼い主の)手入れ不足でお尻の辺りに毛玉ができ、不潔になることもある。またおなかの中の腸管にリンパ腫などの腫瘍ができたり、直腸炎などになって下痢が続くこともある。あるいは、太り過ぎのため、お尻周りをうまくなめることができなくなることもある。
 そんな場合、不潔になった肛門周りに付着する便などの残滓が肛門嚢の分泌液の出口をふさいでしまったり、雑菌が肛門嚢内に侵入したりして増殖。炎症を引き起こして腫れてくることもある。不快な思いに悩んだ猫がいつも以上に熱心に患部をなめ回して、症状がさらに悪化しないとも限らない。
 そして内部に膿がだんだんたまり、何かの拍子に肛門嚢が破裂して、肛門周辺に膿が飛び散り、ひどい状況に陥ることもある。

●直腸や大腸の炎症
 下痢が続き、直腸が過度に刺激されて炎症状態になると、肛門近くの直腸の一部がリング状に線維化して狭くなり(線維輪)、排便が困難になるケースもある。あるいは、ストレスなど何らかの要因で大腸炎が慢性化して出血すれば、血便が出ることもある。


【治療】
炎症や化膿を抑える内科療法や下痢を抑える食事療法、患部を切除する外科療法
 
●肛門嚢炎と肛門嚢破裂
 肛門嚢炎になれば、抗炎症剤、抗生物質を投与して炎症を抑え、必要があれば、腫れが引いた時点で肛門嚢をそっと絞り、中にたまった分泌液を絞り出してあげる。
 一度肛門嚢炎にかかった猫は、分泌液の出る導管が狭くなり、再発しやすい。
 肛門嚢が破裂した場合、患部を消毒し、肛門周辺の被毛を刈り取って清潔に保ち、抗生物質などで化膿を抑えながら自然治癒するのを待つ。その後、再発を繰り返すようだと、肛門嚢だけでなく、患部に残る肛門腺と導管をすべて切除して再発を予防する。

●直腸や大腸の炎症
 直腸の炎症によって線維輪ができ、排便しづらい場合、麻酔をかけ、円すい形の治具を肛門から挿入して線維輪を断裂させて直腸の狭窄した部位を広げていく。何回か実施して、便が通過できる空間を確保する。
 慢性の大腸炎の場合、免疫を抑える薬剤を投与したり、食事療法によって腸管の状態を改善するなどの工夫を行う。食事療法には、繊維質の多いフードを与えて排便をスムーズにさせる方法と、消化吸収のいいフードを与えて大腸の負担を軽減する方法がある。また、食物アレルギーとのかかわりがあるかもしれないので、低アレルギー食を与えるなど試行錯誤しながら、症状改善に効果的な食事療法を探っていく。

●腸管の腫瘍
 腸管の壁にリンパ腫などの腫瘍がある場合は、放置すれば腸管に穴を開ける恐れもあるので、まず腫瘍を切除し、その後、化学療法を行っていく。


【予防】
適切な食事管理、健康管理と肛門周りのチェック
 
 肛門嚢炎や直腸の線維輪など肛門周辺の疾患は下痢が引き金になることも多いので、暴飲暴食を避け、子猫の時から良質のフードを適切に与えて消化器官への負担を減らすことが大切である。
 また普段から肛門周囲をチェックして、不潔になっていないか、肛門嚢が腫れていないかを確かめ、汚れが目立つのなら食事管理、健康管理のあり方を再考したほうがいい。
 猫はストレスや運動不足などが高まれば過食や肥満になりやすい。また、太り過ぎになればグルーミングも不十分になりやすい。
 成猫の場合、もし下痢が続くようなら、慢性の大腸炎や腸管の腫瘍などの病気が隠れている可能性もある。動物病院で検診してもらったほうが安心である。
*この記事は、2008年4月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部附属動物病院 腎・泌尿器科 三品 美夏


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