お腹をくだす
繊細・神経質なネコは、フードの変化など、 ちょっとしたことで下痢をする。
ときには、下痢には、命にかかわるウイルス感染やがんなど、重い病気がひそんでいることもある。
監修/岸上獣医科病院 獣医師 長村 徹
大阪市阿倍野区丸山通1丁目6の1 TEL(06)6661-5407

「食べ物」「異物」の飲み込みと下痢

イラスト
illustration:奈路道程

 

 ネコの場合でも、下痢の原因は、「食べ物・飲み物」「寄生虫」「ウイルス」「細菌」「原虫」などの感染、内臓の病気やがん、その他の病気など、犬と大同小異である。
 もっとも、一般に食欲旺盛で、拾い喰いを好む犬とちがい、ネコは、それほどドカ喰いをしないし、道端に食べ物が落ちていても、確かめもせず、パクリと食べてしまうこともあまりない。「食べ物」が原因でネコが下痢をするのは、急にフードの種類を変えたり、食べ慣れないモノを与えたりしたときが多い。ネコが味にうるさいのは、食べ物の許容範囲も狭いということにもなるだろう。だから、フードの種類を変えるとき、しばらくはこれまでのフードに新しいフードを2、3割ほどまぜて、お腹のならし運転をおこなう必要がある。
 また、子ネコを飼いだして、牛乳を与えるのも、下痢をひきおこす要因になる。ネコや犬には、牛乳にふくまれる乳糖を消化する消化酵素をもっていない子が多いのである。人でも、その消化酵素がないと、大人でも、牛乳を飲むと下痢をする。ネコや犬には、なるべく牛乳を与えないほうがよいだろう。
 そのほか、ネコは、家の中で、油や、においのついたビニール、糸くずなどをなめることも少なくない。そんなとき、別に食べるつもりはなくても、異物が舌にからまり、飲み込んでしまったりする。糸などは、小腸にからまると、腸が切断されることもある。異物を飲み込んだときは、すぐに動物病院へかけ込み、一刻もはやく取り出してもらわなければならない。

「原虫」「ウイルス」「細菌」感染と下痢
  寄生虫や原虫、ウイルスなどは、野良の子ネコを拾って飼った場合、母ネコから感染していることが多い。犬のページでもふれたが、ノミを媒介にする瓜実(うりざね)条虫などは、野良出身の子ネコに多いかもしれない。瓜実条虫は、ひしゃげた米粒がつながったような虫で、ひとつずつがばらばらになり、ウンチにまじっていることがある。
 回虫などの寄生虫はウンチにまじるタマゴで発見できるが、単細胞で細胞分裂で増殖する原虫の場合、ウンチを調べても見つけにくいこともある。それはともかく、コクシジウムやジアルジアなどの原虫が、体力と免疫力の弱い子ネコの腸内で増殖すれば、はげしい下痢による栄養失調と脱水症状で、命を落とすことも少なくない。
 また、ワクチン未接種の子ネコが強力なネコパルボウイルスに感染すれば、わずか一晩で亡くなってしまうことも多い。なお、パルボウイルスは、生命力が強く、自然環境のなかで半年以上も感染力を保ったまま、生き続ける。そのため、新たに子ネコを飼いはじめても、また感染して、悲劇をくりかえす恐れがある。また、多頭飼いで、ワクチン未接種のネコがいれば、すぐに感染が広がってしまうだろう。
 細菌については、もともと、大腸(結腸)には、一般に大腸菌や乳酸菌、サルモネラ菌などの細菌が生息して、食べかすなどの消化を助け、病因菌から腸を守っている。いわゆる善玉菌である。しかし、食べすぎなどで消化不良の食べかすが小腸から大腸(結腸)に入ってくると、大腸菌がそれらを消化しようとして、大量のガスが発生する。そのガスのせいで下痢をおこすこともある。また、一部のブドウ球菌や大腸菌(O157で有名)など、毒素を出す悪玉菌が体内に入り、増殖すると、はげしい下痢をひきおこす。また、病気治療のために抗生物質を投与すると、善玉菌が死滅して、腸のバランスがくずれ、下痢をしたりする。

「甲状腺機能亢進症」と下痢
  そのほか、がん、その他の病気にかかわる慢性の下痢については、犬のページを参照してほしい。ひとつ、年とったネコなどにみられる「甲状腺機能亢進症」のことにふれておく。
 のどのところにある甲状腺は、体の新陳代謝にかかわるホルモンを分泌する。甲状腺ホルモンが不足すると発育障害をひきおこすが、その反対に過剰に分泌すると、体の新陳代謝が異常に活発になり、細胞のエネルギー消費量も増大する。この病気になった年老いたネコは、エネルギー補給のためにガツガツとフードを食べるが、間に合わずやせていく。また、過食で、腸の動きが過剰なため、食べ物の消化・吸収が不十分になり、結果、下痢状態が続き、さらにやせていく。最後は、心臓や肺などが能力の限界をこえてしまう、残酷な病気である。
 近年、ネコの老年病のひとつとして、この「甲状腺機能亢進症」の症例発見が急増してきた。現在、ホルモン抑制剤を投与して、ホルモン分泌をおさえたり、甲状腺を外科手術で切除したりする治療法がおこなわれている。
このように、「下痢」の症状をしめす病因は多種多様で、命にかかわるものも少なくない。「下痢ぐらい」と、安易な判断をくだすと、取り返しのつかないことになりかねない。
 なお、最後に少し下痢便の見分け方をのべると、小腸の働きが悪く、栄養分を消化吸収できなければ、一度に大量の液状のウンチがドッドッと対外に出ていくはめになり、白っぽくすえたような臭いがする。ウイルス感染や激しい下痢で腸の粘膜が破壊されれば、出血し、体外に出るまでに酸化して黒い血便になる。また大腸が原因であれば、これは反対に血便は赤く、下痢便も少しずつ何回にもわたって排泄され、しきりにきばる姿勢をとる。

*この記事は、2000年5月15日発行のものです。

監修/岸上獣医科病院 獣医師 長村 徹
大阪市阿倍野区丸山通1丁目6の1 TEL(06)6661-5407


犬猫病気百科トップへ戻る
Copyright © 1997-2009 ETRE Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載の記事・イラスト・写真など、すべてのコンテンツの複写・転載を禁じます。