骨が弱くなり、変形したり骨折する
栄養不良の子猫がかかる「クル病」
「クル病」は栄養不良の子猫がかかる、骨に異常が出る病気だ。
放置すると手足や骨盤などの骨が変形しかねないので、早めに適切な対処を。

【症状】
成長期の子猫の骨が弱くなり、曲がったり、折れたりする

イラスト
illustration:奈路道程

 成長期の子猫が栄養不良になると、骨格の発達が妨げられ、骨が弱く、曲がったり、折れたりしやすくなる。それが「クル病」である(成猫の場合は「骨軟化症」という)。
 通常、子猫は生後、母猫の母乳を飲んで育ち、離乳期以降、心身の発育に必要な栄養価の高いフードを食べてすくすくと育ち、生後10か月ぐらいで一定の骨格、体格を備えた若猫に成長する。
 しかし、例えば野外で暮らす野良の母猫に育てられ、十分にお乳も飲めないままに離乳期を迎え、残飯など不十分な栄養の食べ物を不十分にしか食べずに育った子猫は、骨格形成に必要な栄養が不足してもおかしくない。
 すると、手足の骨が細く、薄く、変形したり、背骨が曲がったりしやすくなる。また、未発達な骨盤が大腿骨の圧力を受けて内側に曲がり、骨盤腔が狭くなれば、ひどい便秘に悩まされることもある。さらに症状が悪化して手足や骨盤などが骨折すれば、動くことも、どこかで残飯などを食べることもできなくなる。
 またカルシウムが不足すると、神経や筋肉の働きが低下し、体の衰弱がひどくなる。
 以下、もう少し詳しく骨の形成とクル病発症のメカニズムについて考えてみる。

【原因とメカニズム】
カルシウムやリン、ビタミンDなどの栄養素が欠乏して、骨形成ができなくなる
 
 草食動物も肉食動物も、海生動物も陸生動物も、自らの骨格を形成し、さらに神経や筋肉を働かせるなど、生体の維持、発達に一定量のカルシウムを必要とする。 
 もっとも、カルシウムのほとんどが骨や歯となって蓄えられ、血液中に含まれるごく微量(動物の血中のカルシウム濃度は約10mg/dlといわれる)のカルシウムの約半分が自由に移動して、骨の形成や組織の重要な働きに関与している。
 動物がいったん成長すれば、体内の維持に必要なカルシウムを摂取すればいいが、発育途上ならより多くのカルシウムが求められる(もちろん多過ぎてもだめで一定の割合であることが大切)。しかし、栄養の質と量が不十分だと、骨形成に必要な量のカルシウムを確保できなくなる。
 骨には、新しい骨をつくる骨芽細胞と古い骨を破壊する破骨細胞があり、それぞれの働きを行っている。しかしカルシウムとリンの結合した「リン酸カルシウム」が不足すると、骨芽細胞のつくる軟らかい骨の元(類骨)が骨化(石灰化)せず、軟らかいままとなる。
 またビタミンDが不足すると、骨芽細胞や破骨細胞の働きが低下して、骨の代謝が損なわれる。同時に腎臓において、尿中に排出されたカルシウムをうまく回収できなくなる。あるいはリンを過剰に摂取して血中のリン濃度が増えれば、さらに骨からカルシウムを余分に吸収し、骨への石灰化を妨げることになる。
 つまり、体内にカルシウムが不足したり、リンが増え過ぎたり、ビタミンDの合成がうまくできなかったりといった、いろんな栄養素の不足、アンバランスがクル病の背景に潜んでいるのである。
 さらに問題がある。
 体に必要なカルシウムが不足すると、甲状腺に付随する上皮小体(副甲状腺)の働きが活発になり、上皮小体ホルモンをたくさん分泌。骨格を形成する骨を過剰に吸収させてカルシウムを血中に補給する。カルシウム不足の骨格がさらにカルシウム不足となって、骨がさらに弱く、薄くなっていくのである(上皮小体機能亢進症)。
 このように、クル病は症状が出始めると、どんどん悪化していく病気である。

【治療】
できるだけ早く、質・量ともにいい食事に切り替える
 
 成長期の子猫のクル病、つまり骨格の形成異常が分かったら、すぐにバランスの取れた良質なフードを継続して食べさせていけば、骨はだんだんとしっかりしていく。
 しかし子猫のカルシウム不足が何か月も続き、すでに手足や背骨、骨盤などの骨が変形したり折れたりしていれば、元の形に戻ることはない。日常生活に不自由を感じるほどであれば、整形外科手術で治せるところは治したほうがいいだろう。
 特に骨盤が変形して内側に曲がっていれば歩きにくいだけでなく、日々の排便に苦労し、ひどい便秘に悩まされかねない。そんな場合は、内科的に便を軟らかくする薬剤を投与したり、それで便秘が解消しないのなら、変形した骨盤をいったん切断して、骨盤拡張プレートを装着するなどの骨盤拡張手術をする必要がある。

【予防】
成長過程に合った、栄養バランスのいい食事と適度な運動
 
 子猫の時、成長時期に合った栄養バランスのいいフードを与えていれば、ほとんどクル病になることはない。
 大切なのは「栄養バランス」であり、カルシウムだけを増やせば、かえって体内のカルシウムを活用する機能が低下しかねない。また先に述べたように、カルシウムが必要量含まれる食べ物でも、リンの割合が多過ぎると、骨への石灰化を妨げることになる。体内ではカルシウムとリンはお互いが恒常性を保つ密接な関係にある。
 通常、カルシウムとリンの割合は1対1、あるいは2対1程度といわれている。例えば肉ばかりだと、カルシウム1に対してリン10ほどの割合となる。ごはんや魚の血合いなどもそうである。偏食は要注意である。
 骨の代謝、カルシウムの回収に役立つビタミンDの合成には紫外線が不可欠だが、たとえ室内飼いでもガラス窓からの太陽光を浴びる機会があればそれほど不足することはない。ただしカルシウムやリンが不足している場合、紫外線不足でビタミンDの合成が不十分になれば、カルシウム不足が加速するといえるだろう。
 さらに運動不足になると、カルシウムがうまく骨に定着しなくなりやすい。家の中でよく子猫と遊んであげることも大切である。
*この記事は、2008年3月20日発行のものです。

監修/寝屋川グリーン動物病院 院長 長村 徹
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