免疫力の低下

【症状】
 下痢、細菌・ウイルス感染、皮膚疾患、老年期の病気


illustration:奈路道程

 

 猫や犬、人など高等動物は、感染症などから自分のからだを守る、「免疫力」を持っている。つまり自分のからだ(自己)に侵入してきた自分以外の異物(非自己)、たとえば、細菌やウイルス、あるいはほかの個体、ほかの生物種の細胞や組織などを認識し、それらを攻撃し、排除する防御システムを備えている。
 しかし、生まれたばかりの子猫の免疫システムはまだ不完全なため、母乳(とくに初乳)に含まれる「移行抗体」が子猫のからだをいろんな感染症から守っている。その「移行抗体」は数か月で効力をなくしていくが、子猫たちのからだは成長の過程で、いろんな刺激に反応するなかで、少しずつ、よりすぐれた免疫システムをつくりあげていく。
 だから、免疫システムが不完全な幼少期、あるいは成猫期になっても、免疫力が低下すると、すぐにおなかをこわしたり、ウイルスや細菌、寄生虫に感染しやすくなる。また、若いときは元気でも、免疫力の低下する老年期には、皮膚疾患、肝臓や腎臓病、糖尿病、さらには悪性腫瘍(がん)などにもかかりやすくなる。
 こうした免疫力の低下は、生まれつきの体質や生命力の弱さ、猫エイズ(猫後天性免疫不全症候群)や猫白血病ウイルスといった猫の免疫システムを破壊する感染症、あるいは老化などによって引き起こされるだけではない。
 現在、とくに注目されているのが、活性酸素の”働き“である。

【原因とメカニズム】
 活性酸素が過剰につくられると、細胞を傷つけ、老化やさまざまな病気の要因となる
   猫や犬、人などのからだは、食事による栄養分を血液によってからだ中の組織に送り込む。そして、同じ血液を通じて運ばれてきた酸素の働きによって、栄養分から、生きていくうえで必要なエネルギーを取り出している。その過程で、体内に侵入した細菌やウイルスなどの”外敵“を退治する活性酸素がつくられている。
 しかし、この活性酸素は、●紫外線を大量に浴びたり、●激しい運動をしたり、●大気汚染のなかで生活したり、●食品添加物がたくさん含まれた食べ物を多く摂取したり、●細菌やウイルスがたくさん体内に入り、それをからだの免疫細胞が攻撃したり、●ひどいストレスに悩まされたりしていると、からだのなかで過剰につくられてしまう。必要以上の活性酸素は、”外敵“をやっつけるばかりか、自らの細胞を傷つけたり、変質させたりして、老化を促進する。動脈硬化や糖尿病、心臓病や肝臓病、腎臓病、皮膚病や眼病、がんなど、さまざな老齢疾患の要因になるのである。
 たとえば、活性酸素が細胞内のDNAを傷つけると、”異常“な細胞ができやすく、それらが成長、増殖して命をおびやかす悪性腫瘍(がん)になっていく。

【予防対策】
 活性酸素を減らし、免疫力を高めるために、適切な「栄養・運動・休養」を!
   では、どうすれば、活性酸素の悪影響を減らすことができるのか。
 大気汚染などの環境要因を取り除くことは簡単な話ではない。取り組みやすいのは、たとえば、食品添加物の摂取を減らして自然素材を増やすなど、食生活での対応だ。幸いなことに、自然素材のなかには、活性酸素を無害化するSOD(抗活性酸素酵素)となるビタミンA(カロチン)やビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化成分が豊富に含まれるものがたくさんある。抗酸化成分を、たっぷり含んだキャットフードを与えれば、猫の免疫力強化につながる。
 さらに、食生活だけでなく、適度な運動も免疫力を高めるうえで重要である。近年、室内暮らしの猫、それも避妊・去勢手術を受けた猫たちが増えている。そうなれば、運動の機会も刺激も減って、どうしても、”食べては寝て“の生活になりやすい。つまり、猫がふつうに暮らしていれば、それだけで太りやすくなる。肥満は万病の元といわれるように、太りすぎはいろんな病気の要因となり、免疫力の低下を引き起こす。
 適度な運動を継続すれば、肥満予防のみならず、からだの細胞を活性化して、免疫力を高める効果がある。といって、もともと物陰で獲物となる小動物に待ち伏せ攻撃をする猫は、犬の散歩のような持続的な運動は苦手である。
 猫たちの狩猟本能を刺激するような、ネズミや小鳥形のおもちゃやねこじゃらしなどを使って、日に何度か、飼い主が猫の遊び相手になってあげたりすることが必要だ(とくに猫は、ふつう、二歳をすぎると、あまり遊ばなくなるので、飼い主のほうから積極的に遊びに誘う努力が求められる)。あるいは、子猫のときから二匹一緒に飼って、たとえ飼い主が留守でも、猫同士でじゃれあったり、追いかけっこのできる飼い方もいいだろう。
 また、遊び疲れた猫が、家のなかのお気に入りの場所で、のんびりと休んだり、眠ったりできる快適な隠れ場所をつくってあげることも大切だ。
 とにかく、健康の元、つまり免疫力を高める生活の基本は、猫でも犬でも人でも、「栄養・運動・休養」の三原則にある。そして、免疫力が低下する老年期を迎える前の若いうちから、十分に「栄養・運動・休養」に配慮することが、健康で、快適な生活を長く楽しむ秘けつである。

*この記事は、2003年3月20日発行のものです。

監修/井本動物病院 院長 井本 史夫


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