内部寄生虫
-瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)とネコ回虫-

【症状】
 元気がなく、下痢気味だったりすると…


illustration:奈路道程

 

「うちの子猫、元気がない」「下痢気味だ」。そんな時、疑わしい病気の一つが、「瓜実条虫」や「ネコ回虫」などの内部寄生虫の感染だ。
 例えば、愛猫のうんちに米粒大の、白い扁平なウリの種状のモノが混じっていて、よく見ると、伸縮運動をしているようなら、瓜実条虫の体の一部(片節という)だ。あるいは、愛猫が突然吐いて、白い細長いモノがうねうねと動いていれば、ネコ回虫の可能性が高い。「これは怪しい」と思ったら、すぐにうんちや吐瀉物をビニール袋に取り、かかりつけの動物病院で検査してもらうのが賢明だ。
 マダニやノミなど、動物の体表に寄生する「外部寄生虫」に対し、動物の体の内部をすみかとする「内部寄生虫」には、回虫やフィラリアなどの「線虫」類、瓜実条虫やエキノコックスなどサナダムシと呼ばれる「条虫」類、トキソプラズマやコクシジウムなどの「原虫」類など、さまざまな種類がある。そのなかで、猫や犬に感染する内部寄生虫の代表が、瓜実条虫や回虫類(犬に寄生するのが「イヌ回虫」、猫に寄生するのが「ネコ回虫」)である。

【感染のメカニズム】
 瓜実条虫はノミが媒介する
  瓜実条虫は、その名のごとく、ウリの種のような、白い小さな「片節」が、成長に従って、何十と連なっていく寄生虫である(最大で体長四〇センチほど)。頭の部分(頭節)から未熟な片節が生じ、時間の経過とともに育っていくため、全体を三分割して、前端部を「未熟片節」、中ほどを「成熟片節」、末端部を「老熟片節」と呼ぶ。
 一匹の瓜実条虫の、何十と連なる片節一個ずつに雌雄一対の生殖器があり、成熟片節になれば生殖可能となり、通常、同じ動物の腸管内に感染している別個体の生殖器と相互交接(精子のやりとり)する。受精卵は各片節内の子宮に蓄積されて、発育する。しかし、各片節の子宮には「産卵孔」がないため、産卵はできず、多数の虫卵が詰まった最末端部の片節(老熟片節)から順次切り離され、猫(や犬)のうんちとともに排せつされる。そして、腸管のぜん動運動や、体外への排せつ後、乾燥や外圧などで傷ついた片節から、小さな虫卵を産み出すことになる。
 では、瓜実条虫の虫卵は、いかにして、猫の体内に潜り込むのか。
猫の休息場所の周辺には、猫の体表に暮らすノミが産んだ卵がたくさん落ちていて、その卵から孵化したノミの幼虫が、これまた多数生息している。このノミの幼虫が瓜実条虫の虫卵を食べると、ノミの幼虫の体内で、瓜実条虫の幼虫が虫卵から脱出して、発育を開始する。そして、ノミが幼虫からサナギへと発育したころに、その体内に寄生していた瓜実条虫の幼虫も成長して感染能力を持つようになる。サナギから羽化したノミの成虫が猫や犬を見つけてその体表に跳び移ったとき、瓜実条虫の幼虫も動物の体表(まだおなかの中ではない)に乗り移ることができる。
 わが家の愛猫がグルーミングの時に、その成ノミ(中間宿主)を食べてしまうと、瓜実条虫の幼虫は、「終宿主」となる猫の体内に侵入。胃から腸管に到達して成育し、親虫となるのである。

ネコ回虫は、うんちや母乳を通じても感染する
   ネコ回虫に感染した猫のうんちに混じって排せつされる虫卵は、地面の上で二〜三週発育して、感染力のある成熟卵になるが、これを猫が食べると胃を通過して腸管に到達する。虫卵から孵化した幼虫は腸壁に入り込み、さらに血管に侵入して血液とともに肝臓→心臓→肺の順に移行する。肺でしばらく発育したのち、気管支・気管から痰と一緒に飲み込まれた幼虫は小腸に戻り、ここで初めて成虫となり、産卵を開始する。
 一部の虫体では幼虫のまま血流に乗って猫の体内を移動し、筋肉や臓器に潜むものもいる。メス猫に寄生して体内に潜むネコ回虫の幼虫は、その猫が妊娠すると母体のホルモンバランスの変化を察知して活動を再開し、血流に乗ってメス猫の乳腺に移行する。子猫が生まれて乳を吸うと、乳腺を通過したそれらの幼虫は子猫の体内に移り、五週間ほどで成虫となって産卵を始める。つまり、ネコ回虫は母親猫(の乳腺)から子猫へ垂直感染するのである。
 なお、イヌ回虫の場合、子犬が六十日齢から九十日齢の間は、ネコ回虫と同様に血液の流れとともに、幼虫は犬の体内を一周したのち犬の腸管に戻り、成虫となって産卵を開始する。しかし寄生した犬が成犬の場合、幼虫は血流に乗って犬の体内を移動し、幼虫のまま筋肉や臓器に潜み、成虫にまで発育することはほとんどない。
 その後、メス犬が妊娠して四十日齢ほどに育つと、体内の幼虫は再活性化して血流に乗って胎盤に移行し、胎盤感染により子犬(胎仔)の体内に侵入したり、母犬の乳腺から乳とともに子犬に感染したりする。また、イヌ回虫に感染した犬の体毛には、ほぼ100パーセント虫卵が付着しているため、犬はもちろん人への感染源となる恐れがある。

【治療】
 検便と駆虫薬の投与で徹底駆除
   検便して、猫のうんちに瓜実条虫やネコ回虫の虫卵が検出されたら、すぐに駆虫薬を投与する。一度投薬すれば、ふつう、腸管内にいる寄生虫をほとんど全部駆除することができる(ただし、筋肉や臓器に潜む幼虫には効果がない)。しかし、感染している寄生虫の数や猫の体調、年齢、あるいは体重(成猫か幼猫か)などの問題で、腸管内で生き残る寄生虫がいる可能性もある。念のため、二週間後にもう一度検便して虫卵の有無を再確認し、万一、虫卵が検出されたら、もう一度駆虫薬を投与する。多頭飼いの家庭で、その中の一匹だけに虫卵が検出されても、すべての猫に同時期に駆虫薬を投与して、一斉に駆虫することが大切だ。
 なお、アメリカのネコ回虫駆除プログラムでは、母子感染した子猫の場合、出生後五週齢目に一度駆虫し、以後、二週おきに三回駆虫薬を投与。以降は、年に数回、検便を繰り返し、万一、虫卵が検出されれば、そのたびに駆虫薬を投与して、根絶を図る。

【予防】
 ノミ退治や室内環境の清掃、室内飼いの徹底
   瓜実条虫の予防には、瓜実条虫の駆除だけではなく、中間宿主となるノミの駆除が必要である。ノミは、猫の体表に暮らす成虫の何十倍、何百倍もの卵や幼虫が生活環境のなかに潜んでいるため、ノミのシーズン中は継続的に成虫駆除と卵や幼虫の駆除を続けなければならない。
 またネコ回虫の予防には、ネコ回虫の駆除だけではなく、愛猫のグルーミングやシャンプー、猫トイレの掃除、室内の掃除をこまめに行うこと。また、野外での感染の可能性をなくすため、室内飼いに徹することも大切だ。なお、瓜実条虫もネコ回虫も(イヌ回虫も)、人に感染する場合がある。

*この記事は、2003年7月20日発行のものです。

監修/サエキベテリナリィ・サイエンス代表 麻布大学大学院客員研究員  佐伯 英治


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