首がねじれる
内耳や脳幹が障害されて起こる「捻転斜頸」
「斜頸」とは文字通り首が片方に傾く症状である。原因は大きく分けて二つあり、その確定診断が不可欠。
猫の首に異常が見られたらすぐに動物病院へ。

【症状】
首がねじれ、「眼振」が起こる

イラスト
illustration:奈路道程

猫の耳の構造  「おかしいな。愛猫の首が片方に傾き、ねじれているように見える」。こんな症状を「捻転斜頸」といい、前庭系神経障害の可能性がある。すぐに動物病院で詳しく検診してもらったほうがいい。
 捻転斜頸とは、内耳の「前庭部」(三半規管と蝸牛の間の部位)が障害された場合において認められる症状のひとつである。前庭障害には「末梢性神経症状」と、生命維持に不可欠な「脳幹」が障害されて起こる「中枢性神経症状」とがある(人にも首が傾く病気「斜頸」があるが、これは首の筋肉の病気で神経症状ではないため、動物の場合、それと区別して「捻転斜頸」という)。なお、猫の場合、犬に比べると発症するケースは少ない。
 前庭障害が進行すると、首のねじれがひどくなり、体が回転したりうまく歩けなくなることもある。また、眼球が不随意に左右(水平)や上下(垂直)、あるいは振り子のように揺れ動く「眼振(眼球振盪)」が現れたり、吐き気が出ることもある。
 この眼振の動き方で障害部位を判定できる場合があり、「水平眼振」の場合は末梢性、「垂直眼振」や「振り子眼振」の場合は中枢性と考えられる。また、末梢性の場合は眼球の運動を調節する神経が障害され、通常、悪い側の眼球が縮瞳して奥の方に引っ込み、瞬膜が出てくる症状(ホルネル症候群)が現れることもある。一方、中枢性の場合、顔面まひや手足の運動異常などの脳神経症状が現れることもある。
 

【原因とメカニズム】
前庭障害を起こす原因は中耳炎・内耳炎から耳管内ポリープ、脳腫瘍、脳炎などがある
  ●末梢性前庭障害の場合
 耳は、頭部の外に開く耳介から外耳道が内部に通じている。その奥に鼓膜があり、鼓膜の奥(中耳)には空洞(鼓室胞)がある。鼓室胞の奥(内耳)には、三半規管や蝸牛があり、前庭部とはその間の部位である。通常、首がねじれている側の外耳道が細菌や真菌(カビ)、寄生虫(耳ダニ)に感染して炎症を起こし(外耳炎)、その炎症が鼓膜の奥(中耳・内耳)にある鼓室胞に広がり、前庭部が障害されることによって捻転斜頸などを発症する。
 また、原因を特定することができない「特発性前庭障害」と診断されるケースも多い。
 まれなケースとしては、中耳や内耳の周辺にリンパ腫などの腫瘍ができたり、鼓膜の奥にある鼓室胞と咽頭を結ぶ耳管内にポリープ(鼻咽頭ポリープ)ができ、それが前庭部に悪影響を与えて発症することもある。

●中枢性前庭障害の場合
 前述の感染症が脳内に普及するケースの他に、脳幹(間脳・中脳・橋・延髄など)にできた腫瘍や、猫伝染性腹膜炎(FIP)などのウイルス感染症で起こった脳炎によって発症するケースもある。「前庭障害」では、脳幹の病変が進行することで、昏睡状態に陥ることもある。


【診断と治療】
確定診断して適切な原因治療と対症療法を行う
 
 捻転斜頸などの前庭障害の症状が末梢性であるのか中枢性であるのかを、身体検査や神経学的検査、X線検査などによって鑑別することが重要である。
 場合によっては脳脊髄液検査やCTあるいはMRI検査といった断層撮影を実施し、診断に至るケースもある。
 細菌や真菌、寄生虫などが認められた場合には、微生物の同定検査や薬剤の感受性検査も必要になることがある。そして抗菌剤や駆虫薬の投与を行うことになる。また外科的治療としては、鼓膜に穴を開けたり、鼓室胞という骨状ドームに直接穴を開けて洗浄したりするケース、まれにポリープの切除が必要になることもある。
 脳幹部に発生した腫瘍の場合、外科的な治療が困難であることが多い。この場合、脳炎のケースを含めて症状の緩和を目的とした投薬治療が中心となる。
 特発性前庭障害など前庭障害のケース全般に言えることだが、吐き気が強く食欲不振があれば制吐剤の投与や点滴治療などの対症療法を実施する。

【予防】
外耳炎や口内炎があれば、早めに治療する
 
 愛猫が外耳炎で耳垢がたまりやすいのなら、すぐに動物病院で診察してもらうことが大切である。例えば子猫の時、母猫から感染した耳ダニによる外耳炎が慢性化し、炎症が鼓膜の奥に広がっていくケースも少なくない。
 なお、外耳炎の場合、耳垢が出やすくなるが、飼い主が素人判断で綿棒などで耳垢掃除を続ければ、外耳道が炎症を起こしやすくなり、かえって外耳炎が悪化しかねない。要注意である。
 口中の雑菌が耳管を通って中耳炎や内耳炎を引き起こす可能性もあるため、口内炎、歯周病があれば、早めに治療することも予防の一つである。

*この記事は、2007年9月20日発行のものです。

監修/渡辺動物病院 院長 渡辺 直之
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