耳の先が赤くなり、出血したり、かさぶたができる
白猫がなりやすい「日光皮膚炎」
紫外線が強い季節に、愛猫の耳の先などが赤くなったりしていたら、「日光皮膚炎」の可能性も。
白猫や淡い毛色の猫がなりやすい皮膚病で、毎年繰り返すと耳の先端が変性し、がん化することもある。

【症状】
耳の先が赤くなり、出血したり、かさぶたができたりする

イラスト
illustration:奈路道程

 毛色の白い(あるいは淡い色の)猫がなりやすい皮膚病として知られているのが「日光皮膚炎」である。
 紫外線の強い春から秋にかけて、白い猫がよく直射日光にあたっていれば、毛の少ない耳の先端部分(ほとんど両耳にできる)や鼻先などが赤くなり、ひどくなると出血し、かさぶたができたりする。あまり日光にあたらなくなれば自然に症状も改善するが、また強い直射日光にあたったりすれば再発する。
 そんなことが毎年繰り返されていれば、耳の先端が変性していき、悪臭を放ち、がん化することもある。
 なお、若い猫には発症例は少なく、老齢期に目立つ病気のひとつと言える。
 たまに、猫の耳の先端が赤く腫れて一部が盛り上がり、かさぶたができたりして日光皮膚炎を疑われ、よく調べると、「蚊アレルギー」だったケースもある。
 蚊アレルギーとは、蚊に刺された跡に赤いブツブツができ、それを猫が引っかいたりすると傷つき、化膿したりするもので、症状が似ていることもある。また、蚊が活発に活動する初夏から秋にかけて発症し、同じ時期に悪化しやすいため、間違われることもある。
 日光皮膚炎の場合、直射日光のあたらない室内に入れていると、それほどひどい症状でないかぎり、やがて治っていく。
 なお、日光皮膚炎は、時に「日光過敏症」と言われることもある。しかし、「過敏症」とは、例えば、服用した薬剤の成分が皮膚周辺に残存していて、そこに日光があたり、アレルギー反応を起こすような症状を言う。日光自体が猫の体にアレルギーを引き起こすかどうかは明らかではない。

【原因とメカニズム】
メラニンの少ない白い猫に強い紫外線があたって皮膚炎となる
 
 日光皮膚炎の原因は、人間の日焼けと同じく紫外線によるものである。
 紫外線には、長波長のUV-A、中波長のUV-B、短波長のUV-Cという3種類が知られている。最も有害なUV-Cは、地球の上空を覆うオゾン層でほぼ完全に吸収され、地上へは到達しない。UV-Aは長波長のため、雲やすりガラスなどを透過して皮膚の深部(真皮)に到達し、皮膚の光老化、つまりシワなどの要因となる。
 皮膚の日焼けや皮膚がんの要因となるのが中波長で、皮膚の浅い層に悪影響を与えるUV-Bである。
 もっとも、哺乳動物は、有害な紫外線(UV-B)から皮膚を守るために、皮膚や毛包に含まれる色素細胞が色素(メラニン)を産生。そのメラニンがUV-Bを吸収している。
 人間の場合、色黒の人は皮膚にメラニンが豊富に含まれているのに対し、色白の人はメラニンが少ないため、紫外線に弱いと言われるが、それは動物も同じで、白(淡い毛色)の猫の体毛にはメラニンが少ない(体毛の色合いは、2種類のメラニンの組み合わせによって決まる)。そんな猫が強い直射日光にあたれば、特に毛の少ない耳の先端部分や鼻先の皮膚がUV-Bによって皮膚炎を起こしやすいのである。

【治療】
直射日光を防ぐのが治療の基本
 
 日光皮膚炎による炎症がひどければ、抗炎症剤などを塗って炎症を抑えることになる。
 しかし、それだけではいずれ再発する。問題は、いかに有害な紫外線を防ぐかである。出入り自由の猫なら、紫外線の強い春から秋にかけてはできるだけ室内飼いにするのがいい。また、患部が赤く腫れだしたら、いわゆるUVカットのサンスクリーンを耳や鼻先に付けてやるのもいいかもしれない。
 先に記したが、何度も日光皮膚炎を繰り返していると、患部がただれ、変性して、ひどくなれば皮膚がん(扁平上皮がん)になることもある。そのため、がんになる前に、耳の先端などの患部を切除することもある。
 もっとも、扁平上皮がんは悪性腫瘍だが、遠隔転移するケースは少ないため、がん発見後、できるだけ早く外科手術で患部周辺を切除すれば、命にかかわることはあまりない。

【予防】
室内飼いに切り替えたり、患部にサンスクリーンを塗る
 
 予防の第一は、「治療」のところで記したように、特に紫外線の強い春から秋にかけては室内飼いを行うこと。子猫の時から室内暮らしに慣れさせておけば、たとえ白い猫でも、日光皮膚炎にかかることはほとんどないだろう。
 室内飼いへの切り替えが難しい場合、いつも両耳や鼻先をチェックし、日焼け、日ぶくれのように、赤く腫れ始めているようなら、朝、猫が外出する前に、UVカットのサンスクリーンを両耳や鼻先に塗ってやれば、ある程度の予防効果が期待できる。

*この記事は、2006年6月20日発行のものです。

監修/東京農工大学 農学部獣医学科 教授 岩崎 利郎
この病気に関しては、こちらもご覧ください


犬猫病気百科トップへ戻る
Copyright © 1997-2009 ETRE Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載の記事・イラスト・写真など、すべてのコンテンツの複写・転載を禁じます。