皮膚に硬いしこりができ、内臓が腫れる
異物が原因で起こる「肉芽腫」
木片や注射跡、ウイルス、カビまで、「肉芽腫」の原因となる“異物”は様々。
致死性の極めて高いウイルス感染症によって発現することもあるので、早期発見・早期治療が大切だ。

【症状】
皮膚のどこかが腫れ、硬いしこりができたり、内臓が腫れたりする

イラスト
illustration:奈路道程

 体の中に「異物」が入ると、体の免疫機構が働き、炎症を起こしたりして異物をやっつけようとする。しかし、その異物をうまく処理できないと、免疫にかかわるマクロファージ(貪食細胞)などが炎症部位周辺にたくさん集まってブロックを形成。炎症が広がらないようにする。それら細胞の固まり、ブロックが「肉芽腫」である。
 なお、肉芽腫を発現させやすい異物は、木片などから細菌、ウイルス、カビ(真菌)、さらには注射跡なども含まれる。また、肉芽腫が発現する部位も、異物の侵入にしたがって、体や手足などの皮膚表面や、鼻腔、口腔、内臓など様々である。
 例えば、猫の体のどこかに木片が刺さったり、草の先で切ったり、猫同士のケンカで傷ついたりして赤く腫れる。その後、腫れたところが硬いしこりになる。皮膚にできる肉芽腫は、そのまま自然治癒することも少なくない。しかし、足の指先などにできた肉芽腫が大きくなり、悪性化して指の骨を溶かすこともある。また、カビ(真菌)の一種「クリプトコッカス」が鼻腔内で感染を起こし、目と目の間が飛び出るほどの肉芽腫ができることもある。
 一方、猫コロナウイルスへの感染によって引き起こされる「猫伝染性腹膜炎(FIP)」は、肝臓、腎臓および腹腔内のリンパ節などの内臓に肉芽腫を形成し、致死率の高い疾患である。
 

【原因とメカニズム】
免疫力の弱い猫自身の体が、異物への「防衛反応」のひとつとして肉芽腫を作る
 
 先に述べたように、肉芽腫は、木片から細菌、ウイルス、カビ(真菌)、さらには注射跡など、猫の体の中に入ったいろんな異物に対する、免疫機構による「防衛反応」の所産である。
 すべての猫に肉芽腫ができる可能性があるが、中にはできやすい猫もいる。例えば、虚弱体質で免疫力が弱かったり、猫免疫不全ウイルス(FIV:いわゆる猫エイズウイルス)や猫白血病ウイルス(FeLV)などに感染し、免疫力が低下したりしている場合である。
 このような猫たちは異物にうまく対処できず、健康な猫なら簡単に治ってしまう炎症が慢性化したり、病原性の弱い細菌やカビなどに感染したりしやすく、炎症が慢性化し、肉芽腫を起こすこともある。室内飼いの猫でも、免疫力が弱く、観葉植物などの鉢植えに入っている土壌中に存在するカビ(真菌)に感染して、肉芽腫を発症した例がある。
 また、「マイコバクテリウム」という細菌が傷口などから感染し、体表部に肉芽腫ができることもある。この場合、全身に感染が広がると、一命を落とすことになりかねない。

猫伝染性腹膜炎の場合

 肝臓や腎臓などの内臓に肉芽腫ができる猫伝染性腹膜炎(FIP)の場合はどうだろうか。
 FIPは、猫コロナウイルスによって引き起こされる疾患である。FIPの症状には、胸やおなかの血管に炎症を起こし、胸水や腹水がたまる「ウェットタイプ」と、肝臓や腎臓などに肉芽腫を発現させる「ドライタイプ」がある。
 多くの猫コロナウイルス感染猫は、FIPを発症することなく寿命を全うできるが、一部の猫がFIPを発症し、そして発症した猫の多くが死亡してしまう。
 猫コロナウイルスは母猫から子猫へ、あるいはきょうだい猫間や同居猫間で簡単に感染しやすく、多くの猫がすでに感染していると思われる。FIPを発症するメカニズムはいまだ明確にはされていないが、若齢で感染を起こした猫や、猫白血病ウイルス(FeLV)に同時に感染している猫がFIPを発症しやすいとされている。また、ストレスも発症の要因と考えられており、多頭飼いで、猫が心を落ち着ける空間がなかったり、あるいは、しばらく家出して自分の縄張りを離れ、ストレスの高い、見知らぬ環境で暮らした猫が帰宅後、発症したりすることもある。


【治療】
肉芽腫を起こしている原因を確定し、原因と症状に対して治療を行う
 
 肉芽腫は、何らかの原因によって発現するため、その原因にいかに対処するかが重要である。例えば、木片が刺さっていれば、それを切除する。細菌やカビ(真菌)などの感染によるものなら、それらの治療を行っていかなければならない。
 また、肉芽腫は、炎症が過剰に起こることによって発現するため、ステロイド剤などの免疫抑制剤を投与することもある。
 何よりも問題なのは、FIP(猫伝染性腹膜炎)の場合である。肉芽腫ができるドライタイプの場合、とりわけ診断が難しい。前述したように猫コロナウイルス感染猫がすべてFIPを発症するわけではなく、猫コロナウイルス抗体が陽性であっても、それがFIPだと確定する根拠にならないためである。
 診断には、症状、血液検査、猫コロナウイルスの抗体検査および病理組織検査(病変部の組織を一部摘出し、顕微鏡で観察する検査)などにより、総合的に診断しなければならない。ただし、病理組織検査は麻酔や外科的処置が必要であり、逆に状態を悪化させる可能性があるため、死亡後、解剖によってようやく確定診断がなされるケースも少なくない。
 なお、ドライタイプ、ウェットタイプともに致死性が極めて高く、ことに生後2、3か月から3歳ぐらいまでの若い猫が発症すると、ほとんど助からない。

【予防】
ケガなどの早期の治療。FIPに関しては、子猫の時から健康管理、食事管理、飼育環境に注意する
 
 肉芽腫は、直接的な原因は様々だが、炎症が慢性化した場合にみられることが多い。したがって、小さなケガであっても早期に適切な治療を行い、炎症を慢性化させないことが重要である。特にFIV(猫免疫不全ウイルス)やFeLV(猫白血病ウイルス)感染猫では、猫自身の免疫力が低下しており、炎症が慢性化したり、病原性の弱い細菌やカビ(真菌)に感染したりすることもあるため、ケガや皮膚に異常を感じた場合は、早い段階で治療を行う必要がある。
 そのように、子猫の時から健康管理、食事管理、飼育環境管理に注意して、なるべく元気に育てることが大切だ。特に致死率の高いFIP(猫伝染性腹膜炎)は、過密な飼育などによるストレスの高い環境に暮らす猫が発症しやすいため、子猫の時からできるだけ心穏やかに過ごせる環境を確保してあげてほしい。

*この記事は、2006年5月20日発行のものです。

監修/日本小動物医科学研究所 検査部長 平田 雅彦


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