ノミ対策2

【症状】
猫の過剰なグルーミング行動に注意する

イラスト
illustration:奈路道程

 

 愛猫が突然、体のあちこちをなめたり、かんだり、後足でかき出す行為が多くなれば、ノミがたくさん体に潜んでいる可能性がある。頭のまわりの体毛などに、黒いノミのふんがついていることも少なくない。春から夏へと季節が移り、気温が上昇し、また梅雨が近づき、湿度が上がっていけば、ノミの繁殖活動もさらに活発になり、とくに室内飼育動物の生活環境周辺にはノミの卵・幼虫・さなぎ・成ノミがどんどんと増えていく。
 生活環境にノミが増えれば、人がノミ被害に遭う機会も多い。人獣共通感染症である寄生虫「瓜実条虫」やバルトネラ菌による「猫ひっかき病」など、ノミを媒介者とする感染病にかかる可能性も高くなる。猫自身、ノミアレルギー性皮膚炎になる恐れもある。ひとたび、ノミが大発生すれば根絶するのは難しい。猫、人ともに不快な毎日を送らなければならなくなる。
 完全変態(幼虫の時期の形と成虫の形がまったく異なる)で知られるノミは、すでに五千万年前から確立していたといわれ、昆虫のなかでも、かなり進化したグループに属する。動物の体表に生える毛のあいだをすばやくすり抜けるために、ずっと昔に不要になった羽根を捨て、体は極端に平坦になった。動物の体に跳びつけるよう、脚が高度に発達して、高い跳躍力を誇っている。動物の体から振り落とされないために、体表にはトゲ状の構造物をたくさん備えている。
 地球上にノミの仲間は約二千種類存在するといわれており、猫にはネコノミが、犬にはイヌノミ(人を好むのがヒトノミ)というように、動物と寄生するノミの種類には、ある程度の相性があるものの、それは決して厳密なものではなく、日本獣医畜産大学の調査によれば、猫に取りつくノミの九六%、犬に寄生しているノミの七六%がネコノミとのことで、現在、わが国ではネコノミが優性種になっている。 

【原因とメカニズム】
猫の体と生活環境に適応し、成ノミ→卵→幼虫→さなぎ→成ノミのサイクルで増殖するノミ族
   成虫となって猫の体に跳びついたメスノミは、通常、十日〜二十日間ほどその上で過ごす。その間、吸血活動をしながら、メスの成ノミは毎日、十〜二十個の卵を産む。つまり一匹のメスノミはその短い生涯に最大限約四百個前後の卵を産む(メスノミの数が十匹なら総計約四千個、メスノミ百匹なら約四万個の卵を産む計算になる。つまり、生活環境には、猫の体に取りつく成ノミの何十倍、何百倍もの卵や幼虫が潜んでいるのである)。
 ノミの卵は殻が硬く、表面が滑らかであるため、猫の体から彼らの生活空間となる室内外のあちこちにばらまかれる。卵は通常、三週間から一か月のサイクルで、卵→幼虫→さなぎ→成虫という世代交代を繰り返す。ノミの発育に適当な環境条件は、温度が一五度〜三○度、湿度は高い方が好ましく、湿度五○%を切ると、発育できないという。さなぎの段階は環境に対する抵抗性が高く、五十週間ほど生存可能ともいわれ、生命維持力が強い。
 また、気温が低く、湿度の低い冬場は、ノミの発育が抑えられている季節といえるが、人の住まいの快適化にともない、室内もつねに暖かく、乾燥を防ぐ加湿器の働きもある。じゅうたんの中、結露の起きやすいカーテン裏のガラス近辺、観葉植物や水槽のまわりなど、部分的に湿気の多い場所も少なくない。飼い主側が気をゆるめると、ノミがどんどん増えかねない状況は、生活空間に数多くあるといえるだろう。   

【治療】
成ノミ退治の「殺虫剤」と、卵や幼虫退治の「発育阻害剤」の活用
   増えてしまったノミを退治するには根気がいる。まず目標となるのは、猫の体を闊歩している多くの成ノミたちの駆除だ。しかし、成ノミは、あくまで目標とするノミ軍団の氷山の一角でしかない。水面下には無数のノミの卵や幼虫やさなぎが潜んでいる。猫(と人間)の生活環境からノミ族を一掃できるかどうかが最大の課題なのである。
 猫の体に取りつく成ノミを退治するには、スポット・オンタイプの殺虫剤が大変有効で、これを定期的に投与していくと成ノミの新たな感染を予防することができる。先に述べたが、通常、ノミのライフサイクルは三週間〜一か月で増えつづけるため、一か月か二か月、中途半端に成ノミ殺虫剤を投与しただけでは、ノミ繁殖シーズン中を通じて、ノミの攻撃を防ぎきれない。つまり、生き残ったノミも若干いるであろうし、屋外からノミが新たに侵入して、それが繁殖してしまうこともある。となれば、春から秋にかけてのノミのシーズン期間中、毎月、猫の首筋に殺虫剤を投与しつづけ、室内でのノミの再発もできるだけ防ぎたいものだ。
 生活環境からノミ族を一掃するのに有効な薬剤が、ノミの卵から幼虫が孵化するのを阻止する「発育阻害剤」である。この薬は、昆虫の外骨格を形成する「キチン質」の形成を阻害する働きがある。だから、この薬を服用する猫の血を吸ったメスノミが産んだ卵の中で育つ幼虫は、卵の殻をやぶる「キチン質」の「キバ(卵歯)」を形成することができず、卵の中に閉じ込められたまま、死んでしまう。万一、幼虫が卵から出られても、キチン質の外骨格が形成できないため、体がフニャフニャで脱皮できずに死ぬ。
 あえて問題点をあげれば、いま、吸血活動をしている成ノミや、すでに卵や幼虫やさなぎの状態で生きているノミたちには、効果がないことだ。すでにノミ成虫が寄生している猫では成虫用の殺虫剤を併用すれば、猫をかゆみなどの被害から解放することができ、さらに万一、卵を産んだとしても、その卵は孵化しない。つまり、個体と環境の管理が同時に可能となる。

【予防】
適切な薬剤の投与と清潔な生活環境の保持
   予防のポイントは、繰り返すが、スポット・オンタイプの成ノミ殺虫剤や「発育阻害剤」などを組み合わせて、最低半年以上、前年大きな被害を受けた家庭では翌年の春先から、愛猫に根気よく薬剤を投与していくことだ。もっとも、多頭飼育のときなど、飼い主の負担も大きくなり、全頭に投与しつづけることが難しいかもしれない。かかりつけの動物病院で、実現可能なノミ対策をよく相談していただきたい。
 それ以外に、猫と人の生活環境を清潔に保つ努力が不可欠だ。愛猫を毎日、ノミ取りグシでブラッシングして、成ノミの数をできるだけ減らす(猫は毛づくろいをよくするので、体に付着した成ノミの約八割を自分で落とすともいわれるから、ブラッシング効果はかなり大きい)。じゅうたんやクッション、ソファの下、部屋の角、押入れの中、猫の寝床などを毎日、掃除して、辺りに潜む卵や幼虫やさなぎをできるだけ排除する。フトンやベッドなどの乾燥と掃除、部屋の通風、換気を心がける。猫は「室内飼い」に徹する…などである。

*この記事は、2003年5月20日発行のものです。

監修 サエキベテリナリィ・サイエンス代表
麻布大学大学院客員研究員佐伯 英治


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