膿瘍2

【症状】
触ると痛がり、足を引きずる。患部が腫れ、熱っぽくなる

イラスト
illustration:奈路道程

 

 室内だけでなく、戸外に出る猫の心配事の一つが、猫同士のケンカである。成猫となれば、オス、メスともに自らの縄張りを築き、単独生活を基本とするため、ほかの猫たちは潜在的なライバルとなる。とりわけ発情期になれば、オス猫はメス猫の奪い合いですさまじいケンカを繰り広げる。そんなケンカ傷が化膿して発症するのが「膿瘍」である。
 猫同士のケンカ傷だから当然だが、膿瘍になりやすいのは、猫の首の周りや肩から前脚にかけての部位だ。皮下の傷口が化膿し始めると、痛みがひどくなる。結果、飼い主が患部をなでさすっただけで痛みに耐えかね、うなったり、逃げようとしたりする。また、歩けば患部に痛みが走るため、時にはけがをした足を引きずって歩くこともある。だから、飼い主が、「足の骨か関節を痛めたのか」と思って動物病院で診てもらうと、膿瘍だったというケースもある。
 傷口の化膿がひどくなると、あまり痛みを感じなくなるようだが、皮下に膿がたっぷりとたまり、患部が腫れてきて、熱っぽくなってくる。そのまま放置すれば、けがをして一週間から十日余りで皮膚が腐り、肉が崩れて、傷口がぱっくりと裂け、どろどろの血膿が流れ出してくる。
 その後、猫が自ら傷口をなめ、うまくいけば、自然治癒することもあるが、増殖した細菌が猫の体内に入り、胸膜炎などを起こす場合もある。また、患部近くの骨にまで細菌感染が広がって骨膜炎を起こし、治療のため、断脚せざるを得なくなることもある。

【原因とメカニズム】
猫の皮膚の丈夫さと柔軟性が、皮下の傷口の化膿を促進する
   先に述べたように、膿瘍の原因は、ほとんどが猫同士、それもオス猫同士の激しいケンカである。近年は室内飼いの猫が増えてきたが、発情期などに戸外に飛び出して、不慣れな環境の中で、ライバルのオス猫に襲われ、傷つくこともある。
 もともと狩りで暮らし、また異性を争って戦いを繰り返してきた猫(とりわけオス猫)は、自らの体を守るため、皮膚は極めて丈夫で柔軟性に富んでいる。そのため、鋭い牙やつめが体に刺さっても、皮膚の表面にはわずかな傷跡しか残さない。しかし、皮下の組織は、皮膚の動きに伴って大きく傷つくことになる。ついでに言えば、猫はかみついた後、犬のように頭を振り動かして皮膚や肉を切り裂かず、そのまま牙を抜くために、表皮の傷は最小限度にとどまりやすい。
 さらに悪いことに、猫の牙やつめには傷口に入ると繁殖しやすい細菌が潜んでおり、それらの細菌が皮下組織に侵入する。表面の傷口がふさがると、中は、酸素を嫌う細菌が増殖するのに好適な環境になり、急速に増殖して患部がどんどん化膿し始める。
 そのうえ、猫はけがをしたり病気になると、大騒ぎせず、なるべく人目につかない場所に隠れ、自然治癒を待ちがちだ。だから飼い主の症状発見も遅れやすくなり、気づいた時は、皮膚も肉も腐り、崩れて悲惨な状態になっていることも少なくない。

【治療】
症状がひどければ、切開して膿を除去し、患部を消毒する
   症状が初期の段階で、それほど化膿がひどくなければ、抗生物質を投与するだけで治っていく。しかし皮下にたっぷり膿がたまった文字通りの膿瘍なら、皮膚を切開して膿をきれいに除去し、消毒する。なお、傷口を縫うと、また細菌の増殖が始まる恐れが強いため、切開手術後は開放状態に保っておく。猫の皮膚は柔軟で、皮膚と皮下組織の間にすき間があるため、皮下の傷口で化膿した膿が流れ、皮下の広い範囲を汚染して病巣が予想以上に広がっているケースも少なくない。
 皮膚が腐り、肉が崩れていれば、壊死した部位をすべて切除して病巣を一掃する。そして傷口を開放状態にしたまま、ガーゼと包帯で患部を覆い、化膿止めに抗生物質を投与しながら、肉が盛り上がり、皮膚が再生するのを気長に待たなければならない。その間、愛猫を決して外出させないこと。細菌の再感染を防ぐため、患部を保護するガーゼや包帯が外れないように注意すること。また、回復力、治癒力を高めるため、高栄養な食事を摂取させることも必要だ。
 なお、適切な治療を行っても順調に回復しない場合は、すでに猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染していて、免疫力が低下している恐れもある。
 いずれにせよ、これらのウイルス感染は、主に猫同士のケンカによるものであり、もし膿瘍になれば、念のため、FeLVなら三週間後、FIVなら数か月後、抗体検査をして、ウイルス感染していないか調べたほうが安心だ。

【予防】
室内飼いと早期発見
   膿瘍予防には、猫同士のケンカを避けるため、室内飼いに徹するしかない。室内飼いは、FeLVやFIVなど命にかかわるウイルス感染症から愛猫の身を守るためにも重要な予防方法である。そして、春、秋などの発情期には特に注意して、戸外への不意な飛び出しを防止すること。オス猫なら去勢、メス猫なら避妊手術を早めに済ませておくこともいいだろう。
 また、戸外と室内の出入りが自由な愛猫なら、帰宅した時、どこかにケンカ傷がないか、いつもよくチェックしておくこと。万一、けがをしていても発見が早ければひどい膿瘍にならず、また治り方も早い。普段から愛猫のスキンシップとグルーミングを心掛け、早期発見につなげてもらいたい。

*この記事は、2004年5月20日発行のものです。

監修/戸田動物病院 院長 戸田 州信


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