尿石症と尿道づまり

【症状】
 頻繁にトイレに行くが、オシッコが出づらい。あるいは、血尿が出る


illustration:奈路道程

 

 どうもこのごろ、うちの猫、トイレへ何度も行き来しはじめた。トイレの砂の表面がキラキラしているようだ。トイレでしゃがんだあと、砂があまり塗れていない。尿が少しピンク色をしているみたい(血尿)。おかしいな、と思ったら要注意。尿石症・尿道づまりを疑って、動物病院で検査をしてもらったほうがいい。
 オシッコの出が悪くなり、ついには尿道がまったくふさがって、排尿できなくなれば、膀胱(ぼうこう)がパンパンにふくれあがる。そのままにしておくと、尿が腎臓に逆流し、また、腎臓が尿をつくることができず、急性腎不全となって尿毒素が体内をまわり、わずか数日で命を落とすことになる。
 あるいは、膀胱内壁が尿石で傷つき、膀胱炎となれば、オシッコが近くなり、何度もトイレに行ったり、間に合わず、室内のあちこちでオシッコをもらしやすくなる。放置すれば、慢性膀胱炎となって、症状がますますひどくなる。
 なお、尿道づまりはオス猫に多く、膀胱炎はメス猫に多い病気の代表例である。

【原因とメカニズム】
 尿のミネラル成分が膀胱や尿道で結晶化する
   北アフリカの砂漠地帯を故郷とする猫は、「乾燥」に強く、あまり水を飲まずに生きることができる。当然、オシッコの量も少ない。その分、尿の濃縮度が高く、尿にふくまれるリン酸、アンモニウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラル成分が結晶化しやすくなる(それを尿石という)。尿は腎臓でつくられ、尿管を通って膀胱(ぼうこう)にためられ、一定量がたまると尿意をもよおして、尿道から体外に排泄される。尿石は、それら腎臓・尿管・膀胱・尿道でできるが、猫の場合、とくに膀胱内と尿道で尿石ができやすい。
 このような猫の尿石の大多数が、リン酸とアンモニウムとマグネシウムとが結晶化した細かな砂状の「ストラバイト」である。これに膀胱や尿道の炎症による分泌物や粘膜の細胞片などが混じるとネバネバして、ことにペニスの先端部が細いオス猫の尿道につまりやすくなる。
 ストラバイトができる要因は、ふだんの食生活でリン酸やマグネシウムを多くふくむフードを過剰に摂取すること。また、それらの過剰摂取によって、膀胱内の尿のアルカリ化がすすみ、ストラバイトの結晶化が促進されることである。

【治療】
 手術などで尿石を一刻も早く取りのぞく
   X線検査などで膀胱に尿石がたくさんたまっていることがわかれば、まず、膀胱を切開して尿石をとりのぞき、また、低リン酸・低マグネシウムの処方食に切り替えることが大切だ。この処方食を食べると、尿が中性に保たれ、ストラバイト結晶が自然に溶けていくため、その後の再発防止に役に立つ。膀胱内の尿石除去を優先するのは、内服薬や処方食で尿石が溶けるのを待っていれば、その間に尿石によって膀胱内壁が傷つき、膀胱炎になるのを防ぐためだ。
 オス猫の尿道に尿石がつまっていれば、どうするか。もし、尿道づまりが初めてなら、尿道にカテーテル(管)を入れ、水を噴射させて、つまった尿石を膀胱内に押し戻す。それがだめなら、細い金属棒を尿道に入れて超音波で尿石を破砕する方法もある(これは、金属棒が熱をもち、尿道内がヤケドするおそれもあるため、注意を要する)。
 そのような緊急療法が有効でなかったり、尿道づまりを再発したオス猫なら、いわゆるペニスカットによって、尿道の細い、先端部分を切除する手術がある。そうすれば、細かな砂粒状の尿石はオシッコとともに排泄されていく。それと同時に低リン酸・低マグネシウムの処方食に切り替え、その後の再発予防をおこなっていく。

【予防】
 適切な食生活管理を実践する
   ストラバイト結晶による尿石症・尿道づまりを予防するには、子猫のときから、低リン酸・低マグネシウムなどのキャットフードを一日二、三回、時間を決めて与えることが大切だ。ダラダラ食いすれば、尿のアルカリ化を防ぐことがむずかしく、また、食欲がすすんで肥満になりやすい。大食・肥満は、尿石症・尿道づまりの隠れた要因である。
 また、ふだんから水をよく飲み、オシッコの量を増やして、尿中の結晶化しやすいミネラル成分をなるべくはやく体外に排泄する習慣をつけることも必要だ。もっとも、猫に無理に水を飲ませることはできないから、家のなかの複数の場所にたっぷりの水が入ったボールなどを置いておき、飲みたいとき、いつでも簡単に水を飲める環境を整えることもいいだろう。
 とにかく、尿が中性に保たれれば、ストラバイトの結晶化をくい止めることができる。なお、尿が酸性化すれば、別のミネラル成分が結晶化しやすくなったりする。そのほか、肝臓疾患や遺伝的な要因で、尿石症をおこす場合もあるが、それらはごくわずかである。

*この記事は、2002年9月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部 助教授 渡邊俊文


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