おしっこが出ない
猫に多い「下部尿路疾患」※1
頻繁にトイレに行くのに、おしっこがうまく出ない。
そんな症状が見られたら、すぐに動物病院へ。オス猫なら、一刻を争う場合もある。

※1 尿石あるいは尿石以外の原因による下部尿路(膀胱や尿道)の閉塞や排尿障害、
あるいは炎症などを含んだ疾病の総称として使用されている。尿石は、腎、尿管、膀胱、尿道にかけて形成される。

【症状】

イラスト
illustration:奈路道程

おしっこがうまくできず、トイレの出入りが多くなる。時には血尿も
 小さな子猫でも、一度、トイレを覚えると、ほとんど粗相することもなく、トイレに駆け込んで用足しをする。そんな、きれい好きで行儀のいい愛猫が、トイレに駆け込んだかと思えばすぐ飛び出し、しばらくしてまたトイレへ、といった落ち着きのない動作を繰り返し始めたら要注意である。そんな時、おしっこがうまくできていないことが多い。
 猫の排せつ、特におしっこにかかわる病気でよく知られているのが「尿石症」や「尿道づまり」だ。尿内に含まれるリン、マグネシウムなどの成分が膀胱などの尿路で結晶化して結石状になるのが、尿石症。その結晶や小さな結石が尿道をふさいでしまうのが、尿道づまりである。結晶には様々な成分のものがあるが、最もなりやすいのが、ストラバイトとも呼ばれる「リン酸アンモニウムマグネシウム」である。
 結晶が膀胱の内壁を傷つければ「膀胱炎」となり、血尿が出る。内壁粘膜からはがれた細胞片が結晶と混ざればネバネバしたもの(結晶分が多いとザラザラした砂状のもの)となり、特にオス猫は尿道先端が狭いので、尿道づまりになりやすい。なかには膀胱炎を併発し、おしっこが出にくいだけでなく、頻繁に尿意を催してトイレに足しげく通ったり、室内の隅やソファなどに少量のおしっこを掛け回ったりするケースもある。
 尿道がつまっておしっこが出なくなると、尿が逆流して腎不全となり、わずか一、二日で一命を落とす結果になりかねないこともある。おかしいと思ったら、一刻も早く動物病院で診てもらってほしい。
 


【原因とメカニズム】
 
結晶のできやすいフード

 オス猫の尿道づまりの主要因となるストラバイト結晶、つまりリン酸アンモニウムマグネシウムができやすいのは、よく知られるように、マグネシウム※2などの成分がキャットフードに含まれているためだ。
 もっとも、現在市販されているフードには、「低マグネシウム」や「FLUTD(猫下部尿路疾患)対応」をうたった製品も多く、以前に比べてひどい尿道づまりのケースは減ってきた。


猫個々の体質

 しかし、猫それぞれの体質によって、マグネシウムなどの吸収量に差がある(つまり、結晶化の程度に差がある)ため、多頭飼いで同じフードを同量食べていても、発症しやすい猫と発症しにくい猫がいる。
 なお、メス猫は尿道が太く短いため、尿中に結晶があっても、命にかかわる尿道づまりにはなりにくい。その代わり、結石が大きくなり、手術しなければならない場合が多い。
 また、尿のpH値※3が高くなる、つまりアルカリ性になると、リン酸アンモニウムマグネシウムの結晶ができやすい。


トイレ環境の悪化

 実は、下部尿路疾患の要因はフードばかりではない。
 猫ほど、排せつ行動に神経質な動物も少ない。そのため、トイレが不潔だったり、トイレの砂が気に入らなかったり、家の中で人の行き来の多い場所にあったり、ほかの猫とトイレを共用せざるをえなかったりすれば、落ち着いて、思いきりおしっこをすることができない。その結果、おしっこを我慢するために、膀胱炎を発症することがある。


太り過ぎも原因に

 そのほか、過食や運動不足、ストレスなどによる太り過ぎの場合も要注意。結晶ができやすかったり、うまくおしっこが出なかったりすることもある。


※2 マグネシウムは、動物のエネルギー代謝や筋肉の収縮に役立ったり、骨の形成を促したり、重要な働きをする。だから、マグネシウムを含まないフードを食べ続けると、活力が衰え、心臓疾患などになりやすく、また骨粗しょう症にもなりやすくなる。
※3 pH(ペーハー、あるいはピーエッチ)とは、水素イオン濃度のことで、pH7.0が「中性」。それ以上が「アルカリ性」、それ以下が「酸性」(pH7.0〜6.5の間が弱酸性)となる。リン酸アンモニウムマグネシウムは尿がアルカリ性になると結晶化しやすく、pH6.6以下の弱酸性なら結晶化しないといわれる。

【治療】
 
食事療法が中心。必要があれば外科手術も

 尿道づまりでおしっこが出なければ、先に述べたように、一、二日で一命にかかわる事態になる。すぐにペニスの先端から尿道にカテーテル(管)を入れて尿道をふさいでいる物質を取り除き、排尿させる。その後、尿検査やエコー検査などを行って、どんな成分の結晶がどの程度、膀胱や尿道にたまっているか、尿のpH値はどうか、などを調べていく。
 リン酸アンモニウムマグネシウムの結晶が主犯なら、食事療法が治療の中心となる。低リン、低マグネシウムの療法食を毎日、愛猫に食べさせる。療法食には、尿のpHを弱酸性に保つ成分も入っていて、日々、食事をするうちに、膀胱や尿道内の結晶が溶けていく。以後、まず一週間後、次いで二週間後というように、一定間隔で尿検査を継続して尿中の結晶の有無を確かめながら、食事療法を続けていく。大抵は一か月、遅くとも二か月ぐらいで治ることが多い。
 なお、膀胱炎を併発していれば、細菌を退治するために抗生物質を併せて投与していく。また、膀胱内に大きな結石があれば、開腹手術をして取り出す必要がある。
 そのような治療を行って症状が改善しても、すぐに再発するケースも少なくない。「再発防止」が、尿石症や尿道づまり対策の重要なポイントになる。



【予防・再発防止】
 
尿検査とフード選択

 低リン、低マグネシウムのキャットフードを与えるのが病気予防、再発予防の基本となる。しかし体質によって、尿中に結晶ができやすい猫もいる。そんな場合、動物病院で定期的に尿検査を行って、結晶の有無、尿のpH値をチェックして、問題がありそうなら、早めに対処する。


トイレ環境の整備

 それと同時に、家庭内での猫のトイレまわりの環境整備を行っていく。トイレの配置はどうか。なるべく人の行き来の少ない場所に置く。
 また、トイレの数は十分か。基本は猫の頭数プラス1。2匹いれば、3個用意することだ。もちろん、トイレの汚れに気づいたら、すぐに汚れた砂やうんちを取り除き、新しい猫砂を追加する。時々トイレを洗浄し、猫砂を入れ替えること。
 さらに、愛猫がトイレを使用中、じっと“観察”していたり、排せつが終わるとすぐトイレ掃除をしたりすれば、逆に猫は落ち着いておしっこができなくなる。
 トイレの形や猫砂の種類はどうか。愛猫のお気に入りを探すことが大切だ。とにかくトイレへの不満が高じて、尿道づまりなどの引き金にならないように注意してほしい。


*この記事は、2004年12月20日発行のものです。

監修/井本動物病院 院長 井本 史夫


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