黄疸になる
白目や肌が黄色くなっていたら要注意
白目や肌が黄色く見える「黄疸」。
腫瘍や脂肪肝、ウイルス感染症などの様々な病気が原因となるので、日ごろから健康管理と適正な食事の管理が必要だ。

【症状】
白目や地肌、オシッコが黄色くなる

イラスト
illustration:奈路道程

 「うちの猫、元気がない」。
 どうしたのかと飼い主が様子をうかがうと、目(白目)や地肌、オシッコなどに「黄疸」が出ていることがある。
 猫の体が黄色くなるのは、「ビリルビン」と言われる「胆汁色素」が血液中にたくさん混じり、皮膚や粘膜、白目などを黄色く染めるためである。
 胆汁は、食べ物に含まれる脂肪分の消化を助ける重要な分泌液であり、肝臓で休むことなく造られている。そして、肝臓内の胆管から肝臓外の肝管に流れ、胆嚢にいったん蓄えられる。食べ物を食べると、胆嚢が収縮して蓄えられた胆汁が総胆管から十二指腸に流れ込み、小腸内で脂肪分が消化されやすいように「乳化」する。その乳化作用を行うのが胆汁の主成分・胆汁酸であり、ビリルビンはその色素成分である。
 胆汁酸はコレステロールから造られるのに対し、ビリルビンは、古くなって壊された赤血球中のヘモグロビンが処理(再利用)されて造られる。なお、肝臓から分泌された胆汁酸のほとんどは小腸で吸収され、再び肝臓に運ばれて再利用される。ビリルビンは小腸から大腸に至り、便に混じって体外に排せつされる。ウンチが黄色いのはそのためである。
 ところが、何らかの要因で胆汁の流れが止まると、胆汁は肝臓から静脈の流れに乗って心臓に至り、全身に循環し、体が黄色くなっていく(これを「顕性黄疸」という。体が黄色くならない「不顕性黄疸」もあるので要注意)。また、「総胆管閉塞症(後述)」の場合は、腸管に胆汁が流れないため、ウンチの色が灰色など白っぽくなる。
 

【原因とメカニズム】
肝臓内の異常か、肝臓外の総胆管閉塞か、赤血球の過剰破壊(溶血性)の問題か
 
 胆汁の流れを止め、体を黄色く染める「黄疸」は、その閉塞状況によって、大きく次の三つに分類される。

(1)「肝性黄疸」

肝臓内を巡る胆汁の流路「胆管」が閉塞するケース(肝臓内に胆汁がたまる病態を「胆汁うっ滞」という)


(2)「肝後性黄疸」

肝臓外の総胆管(胆嚢から十二指腸まで)が閉塞するケース


(3)「肝前性黄疸」

赤血球が過剰に破壊されて起こる溶血性黄疸


 (1)肝臓内に異常がある場合、細菌やウイルス感染症によって肝臓や肝臓内の胆管が炎症を起こしていたり(化膿性胆管肝炎)、慢性的な免疫異常による炎症(リンパ球性胆管肝炎)、腫瘍や脂肪肝(肝リピドーシス)、肝不全、肝硬変など、様々な要因がある。
 例えば、感染症の場合、十二指腸から細菌が総胆管を逆流して肝臓内に至ったり、腸内に異常繁殖した細菌が門脈から肝臓内に侵入したり、肝臓内に生息する微生物が、猫の免疫力低下によって肝臓内で炎症を起こしたりすることがある。
 脂肪肝には様々な要因がある。その中で目立つのは、太り気味の猫が病気やケガなどの体調不良で食欲をなくし、絶食状態が三日以上続いた場合である。食べられないと、体が自らのエネルギー源を補給するために、体内に蓄えられた脂肪分などを分解し、余分な脂肪が肝臓内に蓄積され、肝不全を起こしかねない。
 (2)肝臓外の総胆管閉塞の場合、胆石(犬には多いが猫には少ない)や、周辺の腸や膵臓の炎症や腫瘍によって圧迫されている可能性がある。
 (3)「溶血性黄疸」の場合、タマネギなどの中毒、猫白血病ウイルスや猫エイズウイルス、微生物(リケッチャ)のヘモバルトネラなどによる感染症による病気(免疫介在性溶血性貧血)のことも考えられる。
 なお、(3)の「肝前性黄疸」や、その他の原因による場合でも、軽度であれば体が黄色くならない不顕性黄疸であることも多く、発見が遅れやすい。

【治療】
症状発現の要因を確定診断し、適切な治療を行う
 
 肝臓内に異常がある場合、細菌感染などによる「化膿性胆管肝炎」なら、抗生物質と利胆剤(胆汁の分泌を促進する薬剤)を1、2週間投与すれば、治癒することが多い。しかし、慢性的な免疫異常などによる「リンパ球性胆管肝炎」なら、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤を投与しなければ症状が改善しない(感染症なのに、誤ってステロイド剤を投与すると逆効果になる)。
 腫瘍なら、腫瘍の種類、悪性度や大きさなどによって、治療法が異なってくる。
 脂肪肝なら、何よりも栄養補給が大切である。しかし、何らかの要因で食欲をなくしたり、食べられなかったりするため、直接、胃にチューブを入れて強制的に栄養補給したり、栄養価の高い点滴をして症状を改善させると同時に、その原因を明らかにして、その治療をする必要がある。
 とにかく、肝臓内に異常がある場合、要因を特定(確定診断)できなければ、的確な治療を行うことが難しい。血液検査(血中ビリルビン値やいくつかの肝酵素の値を調べる)によってある程度のことは分かるが、それだけでは不十分で、肝臓組織を一部分採取して検査する「肝生検」が必要となることも少なくない。
 肝臓外の総胆管閉塞の場合、胆石や腫瘍によるものなら外科手術を行う。
 さらに、赤血球が過剰に破壊される溶血性黄疸の場合、猫白血病ウイルス感染症やヘモバルトネラ症なら、ウイルスや微生物に感染した赤血球を自己の免疫が破壊して起こる。赤血球の破壊で「貧血」がひどいと、輸血をしながら、各病因に対応した対症療法を行う。

【予防】
健康管理と食事管理、定期検査による早期発見・早期治療
 
 黄疸にはウイルス感染が引き金となるケースもあるため、ワクチン接種や室内飼いの徹底などで感染予防を行うこと。脂肪肝は、太っている猫がなりやすいため、適正な食事管理、健康管理が必要だ。なお、ダイエットのため、急に食事制限すれば脂肪肝の要因になることもあるので要注意。
 定期検査によって、肝機能の状態をチェックし、気がかりな点が見つかれば、精密検査を行うなど、早めの検診、治療が大切と言えるだろう。

*この記事は、2005年12月20日発行のものです。

監修/井笠動物医療センター 小出動物病院 院長 小出 和欣


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