嘔吐や下痢をする
様々な原因が引き金になる「胃腸炎」
猫が吐いたり下痢したりしている。
いつものことだからと放置しておくと、命を落としかねない重大な病気を見逃すことになるかも。

【症状】
嘔吐や下痢、食欲不振や体重減少

イラスト
illustration:奈路道程

猫の消化器  胃腸炎など消化器系の病気になると、嘔吐したり、下痢したりしやすくなる。胃や十二指腸、あるいは小腸上部(空腸)などに問題が生じれば嘔吐し、小腸中部以降(回腸)や大腸に問題を生じれば下痢をする。嘔吐と下痢は、いわばコインの表と裏のような関係にある。
 とりわけ、猫は嘔吐しやすい動物である。フードの種類を突然変えたり、一気に食べたりして胃腸に負担がかかれば、すぐに吐く。そのため、飼い主も愛猫が嘔吐することに慣れ、たとえ嘔吐の背景に厄介な病気が潜んでいても気づかないことも多い。
 嘔吐した後、ごく普通に動き回っていたり、毛づくろいしていたり、またフードを食べたりしていれば、それほど心配ないかもしれない。しかし嘔吐の後、ぐったりしていたり、繰り返し吐いたり、やせてきたりすれば、動物病院で調べてもらったほうがいい。胃腸炎以外で、例えば高齢猫がかかりやすい慢性腎不全になると、尿毒素をうまく排せつすることができず、血中の尿毒素の値が高くなり、吐き気が激しくなったりする(胃潰瘍になることもある)。
 嘔吐と同様に下痢の場合も、繰り返し下痢をしたり、ぐったりして食欲がなければ要注意である。
 

【原因とメカニズム】
食事性やウイルス感染、毛球症、異物誤食など
   猫の胃腸炎の要因は、食事性から、毛球症との関連、炎症性腸疾患、ウイルス感染、さらには異物の誤食(特に糸くずなどが多い)など多種多様で、注意深く検診する必要があることも少なくない。

●胃腸炎と毛球症
 食べ過ぎたり、フードが体質に合わなかったりすれば、胃腸への負担が増して消化不良を起こし、胃腸の粘膜を傷め、嘔吐や下痢をする。
 また、春から初夏にかけて、あるいはストレスで、愛猫が毛づくろいに励み、抜け毛をたくさん飲み込めば、胃の中で抜け毛が“ダマ”となり、それを吐き出すために激しく嘔吐し、胃の内容物だけでなく、十二指腸や小腸上部を通過中の内容物も吐き出されることになる。その際に膵液が膵管を逆流して膵炎を引き起こすこともある。そうなれば消化酵素を産生する膵臓がダメージを受け、激しい嘔吐が止まらず、食べ物も水も受けつけず、命にかかわることになる。

●炎症性腸疾患(IBD)
 猫の代表的な胃腸炎のひとつに「炎症性腸疾患(IBD)」がある。これは自己免疫疾患のひとつともいえ、免疫にかかわるリンパ球や形質細胞、好酸球(白血球の一種)などの炎症性細胞が腸管の粘膜固有層にまで浸潤。腸粘膜を傷め、腸管が肥厚したり、潰瘍を起こしたりして、嘔吐や下痢が慢性化し、衰弱していく。末期的には腸粘膜からのタンパク喪失が激しくなり、重度の低タンパク血症を起こして腹水がたまってくることもある。
 その要因は、遺伝性、食物アレルギー、細菌感染などの複合的なものと考えられている。 
 なお、IBDは腸管型のリンパ腫とよく似ていて鑑別がつかないことも多く、患部の細胞を採取して病理検査(バイオプシー)しないと、確定診断できない。

●ウイルス性腸炎
 ウイルス性腸炎では、「猫伝染性腸炎」がよく知られている。これは、毒性の強い猫パルボウイルスが引き起こす病気で、嘔吐や下痢が激しく、体力の乏しい子猫や老猫なら、発症後、数日で命を落とすこともある。ウイルスは強力で、自然界で1年ほど生存可能といわれ、感染猫のウンチ、吐物との接触などによって感染する。


【治療】
確定診断して、症状に合わせた食事療法と薬剤療法
 
 食べ過ぎや不適切なフードなどによる胃腸炎なら、少し絶食して胃腸を休め、以後、適切な回数と量のフードを与えたり、体に合った良質のフードに切り替える。毛球症なら、「ヘアボールコントロール」のフードに切り替えればいい。
 炎症性腸疾患(IBD)と確定診断がつけば、軽症なら低アレルゲン食を与えて様子を見る。症状が治まらないなら、食事療法を続けながらステロイド剤や免疫抑制剤などを投与し、炎症(つまり、炎症性細胞の腸粘膜固有層への浸潤)を抑えていく。途中で治療をストップすると治まっていた症状がまた悪化するため、要注意である。
 猫伝染性腸炎になれば、輸液を中心とした強力な支持療法および抗生剤療法を行う。初期からのインターフェロン療法は確実に救命率をアップする。

【予防】
子猫の時から適切な食事管理、健康管理とワクチン接種
 
 胃腸にかかわる病気予防には、子猫の時から良質のフードを適切な回数で適量与え、いつも新鮮な水を飲める環境を整えることが大切である。猫は、ストレスが過食や拒食、過度の毛づくろいなどの引き金になることもある。特に多頭飼いの家庭では飼い方に気遣ってほしい。
 また、猫伝染性腸炎を引き起こす猫パルボウイルスの感染予防のため、子猫の時から定期的なワクチン接種を行うことが望ましい。

*この記事は、2007年7月20日発行のものです。

監修/南大阪動物医療センター 病院長 吉内 龍策
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