吐いたり、下痢したりする
「膵炎」は特異的な症状がないのが特徴
特異的な症状がなく、一見しただけでは発見しにくい「膵炎」。
命にかかわる重篤な状態になることもあるが、まだはっきりとした原因は解明されていない。

【症状】
嘔吐や下痢、いつもと異なる姿勢で休むなど

イラスト
illustration:奈路道程

 膵臓には、炭水化物やタンパク質、脂肪などを分解する消化酵素を分泌する「外分泌」と、インスリンなどのホルモンを分泌する「内分泌」機能とがある。その中で、消化酵素を分泌する外分泌にかかわる病気が、「膵炎」(急性膵炎と慢性膵炎)である。
 「急性膵炎」は何らかの要因で、膵臓の消化酵素が活性化され、膵臓組織を「自己消化」することによって発症する。急性膵炎になれば、消化酵素が消化管に送られなくなり、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状が起こりやすい。しかし、嘔吐や下痢などの症状は、胃腸などの消化器系疾患によく現れるため、それだけで急性膵炎と診断されることはほとんどない。
 また、膵臓組織が自己消化されるため、痛みもひどくなるが、人と違い、猫はどこがどのように痛いか訴えることもなく、飼い主も獣医師も気づかないことが多い。ただし、痛みがひどいと、猫はリラックスできず、体を丸めて眠ることができない。いつもと異なった姿勢でじっとしていれば、体の痛みに耐えている可能性がある。また、痛みがひどいとショック状態を起こすこともある。
 急性膵炎が長引いたり、外分泌(消化酵素)不全などを繰り返していると、「慢性膵炎」になりやすい。症状がひどくなれば、急性膵炎同様の嘔吐や下痢、痛みが激しくなることもあるが、外見的にはほとんど無症状のまま病気が進行することも少なくない(現実は、死亡後の解剖で発見されるケースが多い)。
 このように、膵炎が発見されにくいのは、特異的な症状があまりないことや、膵臓の位置が胃の裏にあって検診しにくいことなどによるといえるだろう。

【原因とメカニズム】
原因不明だが、偏食や肥満、多様な疾患との関連性が考えられる
 
 急性膵炎のはっきりとした原因は不明である。しかし、これまで症状悪化の要因がいくつか考えられてきた。
 例えば、偏った食事、高脂血症、肥満、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、副腎皮質機能亢進症など、食生活の乱れや、何らかの病気、ホルモン分泌異常など。また、腹部や膵臓の外傷、手術、薬剤(特に麻酔)の投与、有機リン剤など、ケガや医原性、農薬など。猫伝染性腹膜炎ウイルスや猫ヘルペスウイルス、猫カリシウイルス、トキソプラズマ、膵吸虫、肝吸虫など、ウイルスや寄生虫の感染。あるいは、血管系の異常(血行障害)、胆道疾患、免疫介在性疾患などの、多くの要因が疑われている。
 一方、慢性膵炎の場合、急性膵炎の慢性化などだけでなく、化膿性胆管炎、炎症性腸疾患との関連性が、近年、注目されるようになってきた(これは、解剖学的に、猫の膵臓で分泌された消化酵素が通る膵管が、胆管の腸開口部の手前で開口して合流していることによる可能性が高い)。さらには、糖尿病、脂肪肝、慢性腎炎との関連性も疑われている。事実、これらの疾患との合併症では、膵炎の症状が、より強く現れることも多いと指摘されている。

【治療】
痛みやショックを抑え、膵臓の活動を低下させて自然治癒を待つ
 
 膵炎(急性、慢性とも)は、症状が悪化すると痛みやショック症状が強いため、症状に合わせ、点滴や鎮痛剤、抗生剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、制吐剤などを投与して、それらの痛みやショック症状を抑え、また、短期間の絶食(その間、静脈注射によって栄養補給)などによって、消化酵素を分泌する膵臓の活動を低下させながら、自然治癒を待つことになる。
 また、先に述べたように、膵炎には、肥満からホルモン分泌異常疾患、ウイルスや寄生虫の感染症、胆道疾患、腸炎など様々な疾患との関連性が疑われるため、それらの合併症の治療も必要となる。
 なお、膵炎発症初期から治療期間中、症例の50%が死亡、という報告もあるように、命にかかわることが多い。最新の海外の文献では、とりわけ低カルシウム血症の猫は、治療後の経過が良くないといわれている。
 膵炎は、例えば、肝疾患を診断するために血液検査で肝酵素の値を測るような、特異な検査法が確立されていない。確定診断には、膵臓組織の一部を採取して行う生検が必要だが、そのためには開腹手術をしなければならず、病気で衰弱した猫に行うのは難しい。また、超音波検査で診断する方法もあるが、そのためには専門的知見や技術が必要で、それほど一般的ではない。

【予防】
偏食や肥満の防止と健康生活の維持
 
 膵炎は、いったん発症すれば死亡率も高く、要注意の疾患である。しかし、繰り返すが、特異的な症状に乏しく、また、多くの合併症が潜んでいるために診断も治療も難しく、死後の病理解剖で発見されることが少なくない。
 ただし、予防としていえることは、偏った食事や肥満など、食生活の乱れとの関連性が疑われるため、子猫の時から、適量の、バランスの良い食事を心掛け、偏食や食べ過ぎ、消化器系疾患になりにくい、健康的な生活を維持すること。また、ウイルスや寄生虫感染症にならないように、室内飼いを守ること。とにかく、肥満した、老齢期の猫に慢性膵炎が多く見られるため、中高年期になれば、特に様々な合併症に気をつけてほしい。

*この記事は、2007年4月20日発行のものです。

監修/佐藤獣医科医院 院長 佐藤 正勝
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