猫パルボウイルス感染症

【症状】
激しい嘔吐や下痢、脱水症状など


illustration:奈路道程

 「猫パルボウイルス感染症」は古くから知られ、かつては「猫ジステンパー」と呼ばれて恐れられていた。幸い、戦後、ワクチン開発が進み、猫へのワクチン接種が普及するにつれて発症例も減少した。しかし、免疫力や体力に乏しいワクチン接種前の子猫や老猫がどこかで感染し、急に容態が悪くなって死亡する場合も珍しくない。飼い始めたばかりの子猫に嘔吐や下痢などの症状が現れたら、急いで動物病院で詳しく検査してもらい、できるだけ早く適切な治療を受けることが大切だ。
 猫パルボウイルスが猫に感染すると、数日から十日前後ほどの潜伏期間の後、主に細胞の増殖が活発な腸管や骨髄などを攻撃する。ウイルスによって腸の粘膜が破壊され(腸炎)、腸では栄養や水分の吸収ができなくなる。結果、激しい嘔吐や下痢を引き起こす。そうなれば、猫は急激に体力を消耗し、脱水症状がひどくなる。なお、腸粘膜が破壊されれば、腸内の細菌が直接血管内に侵入。ひどければ、猫は敗血症を起こして死に至る。
 また、猫パルボウイルスが骨髄の造血機能に悪影響を与えれば、猫を病原体から守っている白血球が急激に減少する。そのため、「猫パルボウイルス感染症」は、「猫汎白血球減少症」と呼ばれることもある。あるいはリンパ系に侵入することもある。結果、猫の免疫力が極度に低下して、いろんなウイルスや細菌の二次感染を受けやすくなる。なお、感染しているメス猫が妊娠すれば、流産や早産の要因になったり、出産後、子猫が症状も出さずに急死することもある。

【原因とメカニズム】
生命力の強いウイルスが感染猫の排せつ物などを通じて、経口感染する
   猫パルボウイルスは、どのようにして猫に感染していくのか。
 感染猫の腸管などで増殖した猫パルボウイルスは、糞便や尿、唾液や鼻水、嘔吐物などに混じって猫の体外(自然界)に出て、新たな感染の機会を待つことになる。例えば野外で、糞尿のそばを未感染猫が通りがかり、足や体毛にウイルスを付着させれば、毛づくろいの時、猫の口から体内に侵入できる。多頭飼いなら、室内のトイレや食器、ケージ、マットを始め、あらゆるところから同居猫たちに広がっていく。それだけではない。感染猫に接触した人の手、衣服や靴から、感染猫と居場所が離れたところの猫たちに感染する恐れも多分にある。
 さらに悪いことに、猫パルボウイルスは自然界で半年以上、時には一年ぐらい生存できるほど生命力が強い。また、感染猫がキャリアとなって、発症せずにウイルスを排せつしていることもある。だから、どこで、どのように、猫から猫、猫から人を介して猫へ、と感染の輪が広がっていくか、想像もつかないのである。不幸な例では、子猫を猫パルボウイルスで亡くした家庭が、一年近くたって新たに子猫を飼い始め、また感染させてしまうこともありうるわけだ。
 とにかく、最も感染しやすいのは、生後数週間から数か月でワクチン接種前の子猫である。もっとも、通常の場合は、子猫は誕生後すぐ、母親から(初乳を通じて)自分の体を守る「移行抗体」を受け取っている。しかし、生後二か月ほどたてば、その効力もかなり弱まっている。それを補う形で複数回、接種するのが予防ワクチンである。その端境期に猫パルボウイルスに感染すると大変なことになる。

【治療】
症状の軽減と体力、免疫力の回復によって、感染症に打ち勝つ
   猫パルボウイルスを直接退治する治療法はない。感染し、発症した猫の様々な症状を軽減させ、弱った体力、免疫力を高めて、猫自ら病気に打ち勝つための手助け(支持療法)を行うことが大切だ。
 嘔吐があれば絶食・絶水させる。激しい下痢で脱水症状や栄養不足がひどければ、点滴で水分や電解質、栄養分を補給する。腸炎が悪化すれば、出血や痛みも甚だしくなる。骨髄やリンパ組織がウイルスに侵されれば、免疫力も極端に低下し、様々な二次感染症も起こってくる。それを防ぐには、抗生剤や制吐剤の投与や輸血、低下した猫の免疫力を高めるためにインターフェロン投与が行われることもある。
 近年、治療法の進化によって、たとえ感染しても、発症後、まだ症状が重くない間に適切な治療を行うことができれば、恐ろしい猫パルボウイルスに打ち勝つ猫も増えてきた。もっとも、体力、免疫力の乏しい子猫なら、急性症状のため、発症してわずか一、二日で亡くなることも珍しくない。楽観は禁物だ。

【予防】
効果的なワクチン接種プログラムを実践する

   子猫を飼い始めたら、すぐに動物病院で健康診断を受け、適切なワクチンの接種時期や回数について相談することが大切だ。成猫になれば、年に一度のワクチン接種を継続する。とりわけ、道端で子猫を拾ったような場合などは十分に注意してほしい。ワクチン接種前にウイルス感染していれば、予防しようがない。接種後でも、ウイルスへの「抗体価」が上がらない前なら、感染の危険性がある。現在、ワクチン接種の普及などで症例は減少しているが、猫パルボウイルスに感染・発症すれば大変だ。適切なワクチン接種が最善の予防法である。
 もっともワクチンの予防効果は100%ではない。子猫を飼う前に、子猫の育て方、健康管理、病気予防について、気軽に動物病院で相談してほしい。

*この記事は、2004年3月20日発行のものです。

監修/千里ニュータウン動物病院 院長 佐藤 昭司
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