原因不明の痛みや皮下にしこりができたりする
魚類を常食している猫に多い「黄色脂肪症」
不飽和脂肪酸を多く含む魚類を食べ続けることで起こる「黄色脂肪症」。
近年は良質なキャットフードの登場によって症例は減ったものの、魚類の与え過ぎには注意したい。

【症状】
皮下にしこりができたり、触ったり、抱っこすると痛がることもある

イラスト
illustration:奈路道程

 猫は、雑食傾向の強い犬と違い、本来、ネズミなどの小動物を捕獲して、フレッシュな生肉だけを食べてきた生き物である。生肉には、タンパク質や脂肪、カルシウム、ビタミン・ミネラル類ばかりでなく、胃腸内の内容物には、消化途中の植物由来の炭水化物やビタミン・ミネラル類も含まれている。いわば、新鮮な完全栄養食を食べ続けてきたのが猫族である。
 しかし、人間との関係が深まるにつれ、本来の猫特有の食習慣が崩れ、人間の好む食べ物に依存するようになり、健康に生きる上で必要不可欠な栄養素が補えない場合も多くなってきた。
 そんな食生活の変化に伴って発症する病気の一つが、体内の脂肪が変性して皮下にしこりができたり、炎症を起こし、痛みを発することもある「黄色脂肪症」である。
 ペットフードの栄養成分表を比べれば明らかだが、猫は犬よりもタンパク質と脂肪をより多く摂取する必要がある。しかし、脂肪であれば何でもいいわけではない。よく知られるように、脂肪には陸生の動物に多く含まれる飽和脂肪酸と、魚類に多く含まれる不飽和脂肪酸がある。一般に「飽和脂肪酸=悪玉、不飽和脂肪酸=善玉」と言われるが、猫にとってはその反対。不飽和脂肪酸を多く含む魚類をたくさん食べると、皮下や内臓の周りに蓄積した脂肪が変性して、黄色脂肪症になる。
 

【原因とメカニズム】
魚類に豊富な不飽和脂肪酸の摂取過多とビタミンEの不足
 
 牛などの陸生動物に多く含まれる「飽和脂肪酸」は常温で固まる。そのため、血中に飽和脂肪酸が多く含まれると“ドロドロ血液”になり、動脈硬化になりやすく、血管を詰まらせる血栓ができやすい。一方、「不飽和脂肪酸」は流動性が高く、“サラサラ血液”になるため、健康に良いと言われている。しかし、不飽和脂肪酸は酸化して「過酸化脂質」に変性しやすいという性質がある。この過酸化脂質ができると、周りの脂肪をさらに酸化させてしこりとなり、また、炎症を起こして痛みをもたらしていく(アトピー性皮膚炎の要因の一つとしても考えられている)。
 日本は島国で、古来、魚介類などの動物性タンパク質に依存する人々が多く暮らしてきた。この不飽和脂肪酸の酸化を防ぐ物質にはビタミンE(やビタミンC、ベータカロチンなど)があり、魚介類以上に野菜や果物などの植物食品に依存する日本人は、ごく自然に体の健康を守ってきた。
 ところが猫の場合、本来、魚類を食べる習慣はなく、また、好んで野菜や果物を食べるわけでもない。そのため、魚類の不飽和脂肪酸に対応できるほどのビタミンEを摂取できず、魚を食べ過ぎれば、ビタミンEが不足して黄色脂肪症になりやすい。つまり、この病気は「ビタミンE欠乏症」ともいえる。
 とにかく、鮮度が悪いと、魚肉は酸化が進む。たとえ鮮度の良い魚でも、たくさん食べれば、体の細胞は酸素によって働いているため、体内に蓄積された不飽和脂肪酸は常に酸化作用を受けて過酸化脂質ができやすい。また、皮下脂肪などは体外の空気と接触しやすいため、酸化の度合いが高くなり、おなかや胸の皮下に過酸化脂質が蓄積しやすくなる。

【治療】
痛み、炎症を抑えながら、食事改善に取り組む
 
 前述のように、黄色脂肪症は、魚類の食べ過ぎ、偏食が引き起こす病気である。その根治療法は食生活の改善となる。しかし、それにはある程度の期間が必要で、目の前で黄色脂肪症で痛がり、苦しんでいる愛猫を救えない。痛みがひどければ、和らげるためにステロイド剤を投与する。また、脂肪の酸化を防ぐためにビタミンEを投与し、少しでも症状改善の手助けをしていく。
 そのような対症療法を行いながら、食生活の改善をする。まず、生魚、焼き魚、干物などの魚類を食べさせないこと。もっとも、市販の良質なキャットフードは、ドライでも缶詰タイプでも、脂肪の酸化防止用にビタミンEを添加しているため、それほど問題はない。
 しかし、猫族は本来、ネズミなどの陸生動物を食べて生きてきた。切り替えることができれば、魚類以外の栄養素をたくさん含むキャットフードを採用したほうがいいかもしれない。

【予防】
魚偏重の食生活をやめ、良質のキャットフードを与える
 
 黄色脂肪症の予防は、先にも述べたように、生魚、焼き魚、干物偏重の食生活をやめ、適正なキャットフードに切り替えることである。
 もっとも、現在、愛猫と暮らす家庭の多くはキャットフードを利用しているため、黄色脂肪症の発症は、漁港近くで魚に依存して生きる猫たちか、魚店や魚料理店で飼われ、魚食が通例となった猫たちに限られるようになってきた。
 猫は“小さなライオン”とも言われるように、新鮮な獲物だけを食べて生きてきた根っからのハンター、フレッシュイーターである。そのような猫本来の食性を尊重した食事管理を行ってほしい。

*この記事は、2006年2月20日発行のものです。

監修/千村どうぶつ病院 院長 千村 収一
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