皮膚にしこりができ、内臓が腫れる
皮膚型と内臓型がある「肥満細胞腫」
免疫にかかわる肥満細胞が腫瘍化することで起こる「肥満細胞腫」。
腫瘍ができる場所が皮膚か内臓かで症状が異なり、内臓型は悪性が多いので要注意。

【症状】
「皮膚型」なら、しこり。「内臓型」なら、内臓が腫れ、嘔吐、下痢、黒色便(血便)など

イラスト
illustration:奈路道程

 体の免疫にかかわる細胞の一種に、丸く、ふっくらとした形の「肥満細胞」がある。
 これは、皮膚(真皮)の血管や筋肉の周辺、粘膜組織、内臓周辺など体のあらゆる組織に散在し、体に害があると思われる物質や病原体などが侵入すると、ヒスタミンやヘパリンなどの生理活性物質を放出。くしゃみや鼻水、咳などを引き起こして体外に出そうとしたり、(虫刺され後のように)血管を拡張させ、炎症を起こしたりしてやっつけようとする(過剰反応を起こすと、アレルギー症状となる)。
 この肥満細胞が何らかの要因で腫瘍化したものが「肥満細胞腫」で、犬や猫がなりやすい(人の症例はほとんどない)。
 肥満細胞腫には「皮膚型」と「内臓型」がある。皮膚型は、猫の皮膚腫瘍の中で2番目に多く、アメリカの症例研究では全皮膚腫瘍の約20%(イギリスでは約10%)を占めると言われている。飼い主が愛猫をなでていて、指先に小さなしこりを感じ、動物病院で検査して、肥満細胞腫と判明するケースが少なくない(しこりが不明確なケースもある)。幸い、猫の場合、皮膚、特に脇腹など体幹部にできるものは、良性の腫瘍が多い。しかし、頭部、目の上から耳の後ろあたりにかけてできるものは悪性腫瘍、つまり「がん」が多く、要注意である。
 内臓型では、脾臓や小腸などにできるものは悪性腫瘍が多く、転移しやすいうえに発見が遅れがちで、一命にかかわりやすい。なお、内臓型の場合、内臓が腫れ、元気や食欲の減退、嘔吐、下痢、黒色便(血便)などの症状が現れやすい。

【原因とメカニズム】
原因は不明だが、老化などによる免疫機能の低下がかかわる
 
 肥満細胞腫の明確な原因は不明である。
 ただし、平均発症年齢が10歳前後と言われるように、高齢期の猫がなりやすい。細胞が腫瘍化しても、通常、ごく早期に体の免疫機能でそのような“悪い”細胞は除去される。しかし、老化とともに、頼みの綱となる免疫機能が低下して、腫瘍化した“悪い”細胞が生き残りやすくなると言えるかもしれない。
 そのうえ、肥満細胞は、体の免疫にかかわり、外部から良くない物質や病原体が侵入すると、それに反応して炎症を起こしたりする。そのような炎症反応を何年も繰り返していれば、遺伝子に傷のある細胞も生まれやすくなる。
 また、症例は少ないが、2歳前後の猫が肥満細胞腫になる「若年性」のものもある。その場合、皮膚にしこりができ、肥満細胞腫と確定診断され、いざ外科手術をしようと思うと、いつの間にか消滅していることが多い。
 先に、肥満細胞腫には「皮膚型」と「内臓型」があり、「悪性」の多い内臓型は、「脾臓」や「小腸」に発症しやすいと記したが、少し内臓型について補足する。
 脾臓は、胃の裏側(背中側)の左寄りの位置にあり、肋骨に覆われている。肥満細胞腫などになって腫れ、肋骨からはみ出して初めて、指で触って(触診)調べることができる。その時には、がん細胞が血管を伝って肝臓へ、さらに心臓から全身に転移している可能性が高くなる。なお、脾臓は、古くなった赤血球を壊してヘモグロビンを回収したり、リンパ球を造る機能を持つ。
 また、小腸に肥満細胞腫ができると、胃酸の分泌を刺激して、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こしやすくなる。そうなると、嘔吐や下痢、さらに出血による血便(長い腸管を通過するうちに黒くなる)などの症状が起こる。腸管には血管やリンパ管が多く、転移しやすい。

【治療】
腫瘍の種類、範囲を確定診断して、外科手術
 
 皮膚にしこりがあったり、内臓が腫れていたりして、腫瘍の可能性が考えられれば、細胞片を採取して顕微鏡検査を行い、腫瘍かどうか、何の腫瘍か、悪性か良性かを診断。レントゲンやエコー検査などで腫瘍の範囲を確定し、治療方針を立てる。
 猫の皮膚にできた肥満細胞腫の場合、良性が多く、外科手術で切除すれば問題ないケースが多い。しかし、悪性腫瘍(がん)、それも耳の後ろから目の上など、頭部、顔面にできた場合は、治療が極めて困難になる。
 悪性腫瘍でも、発見が早くて転移していない限り、腫瘍の周囲3センチ前後、広く、深く組織を切除すれば、治る確率は高い。ところが、頭部、顔面など皮膚のすぐ下に骨があれば、とてもそれだけの広さ、深さに組織を切除できない。腫瘍組織と周辺組織をできるだけ切除するしか方法はない。術後の化学療法についても、犬の肥満細胞腫の場合は、どんな抗がん剤を使えば有効か臨床研究がなされてきたが、猫の場合、あまり研究が進んでおらず、有効な処方が不明である。そこで、症状を緩和させるために、ステロイド剤の投与を行いながら、様子を見ることになる。なお、目の上などに放射線を照射するのも問題がある。
 脾臓や小腸に肥満細胞腫ができれば、できるだけ早く切開して、腫瘍と周辺組織(脾臓の場合、臓器を全摘出する)を切除する。しかし、発見が遅れやすく、すでに転移している可能性が高ければ、ステロイド剤などを投与しながら、様子を見守っていく。現実に、その後再発して死亡する場合が多いが、中には1年以上、元気に生存する猫たちもいる。

【予防】
6、7歳を過ぎれば、半年に一度は定期検診して早期発見を!
 
 はっきりとした原因が不明のため、予防策はない。愛猫が6、7歳を過ぎれば、日々、丁寧に体をなで、グルーミングし、体表部にしこりなどができていないかチェックしてあげること。また、半年に一度ぐらい、レントゲン検査やエコー検査、血液検査などをして、内臓に肥満細胞腫ができていないか定期検診を受けること。猫は、内臓にリンパ腫ができる場合も少なくないため、定期検診で早期発見、早期治療を心掛けるのが大切である。

*この記事は、2006年4月20日発行のものです。

監修/赤坂動物病院医療ディレクター 日本臨床獣医学フォーラム代表 石田 卓夫
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