オリモノや、下腹部が膨れる
避妊していない猫は注意したい「子宮蓄膿症」
愛猫の下腹部が膨らんでいき、一見すると妊娠しているように見える。
さらに水を多く飲んだり、薄いおしっこをたくさんしたりすれば「子宮蓄膿症」の可能性が。
避妊手術を受けていない室内飼いの猫も注意!

【症状】
オリモノや吐き気、下腹部が膨れる

イラスト
illustration:奈路道程

 「子宮蓄膿症」とは、子宮感染症の中で最も重い病態である。
 まず、子宮内に侵入した細菌(外陰部や腟にいる、大腸菌などの常在菌)が異常繁殖して、子宮内壁の粘膜や粘膜固有層に炎症を起こす。この段階が「子宮内膜炎」で、その後、炎症がさらに悪化して子宮腔に膿が貯留していく(この段階が子宮蓄膿症)。もし子宮の入り口(子宮頸管部)が少しでも開いていれば、膿(オリモノ)が腟から外部に排出される。しかし、子宮頸管部がしっかり閉じていれば膿は子宮内にたまり続け、メス猫の下腹部が、まるで妊娠中のように膨らんでいく。
 体内に細菌感染などが起こって細菌が異常繁殖すれば、動物の体は自動的に体温を上げて免疫力を活発にし、リンパ球などの白血球が増え、患部に集まって細菌を攻撃する。いわば膿はそれらたくさんの白血球の“死骸”である。
 しかし、何らかの理由で体の免疫力が下がっていれば、細菌の異常繁殖を食い止めることができず、化膿状態が続き、さらにひどくなる。そうなれば、毒素が血中に入り、腎臓などに悪影響を及ぼしていく。例えば、腎機能が低下すれば、毒素をうまく体外に排せつできず、たくさん水を飲み、薄いおしっこをたくさんする。吐き気も起こってくる。食欲もなく、ぐったりし、脱水状態になりやすい。もし、膿がたまり過ぎて子宮が破裂すれば、膿が腹腔内に散らばり、敗血症で亡くなる可能性もある。
 

【原因とメカニズム】
メス猫の性周期とウイルス感染症の影響
 
 通常、子宮内は体の免疫システムの働きで無菌状態にある。しかし、発情期前後になると状況が変わる。発情前期(1〜2日)には卵胞ホルモンがたくさん分泌され、発情期になると卵胞ホルモンの影響で子宮内膜と筋層が拡充して妊娠準備が整っていく。オスの受け入れ可能な発情期(6日前後)になって交尾すると、メス猫の体は交尾刺激によって黄体(形成)ホルモンが分泌され排卵が起きる。黄体(形成)ホルモンは子宮内の子宮腺(受精卵の発育に必要な分泌腺)を成熟させ、着床に備える。同時に受精卵を排出させないため、子宮の収縮作用を弱める働きをする。
 無事、排卵→受精→着床と妊娠が進めばそれほど問題はない。しかし、排卵後、受精しないままだと、子宮内は着床準備のために栄養分が高く、収縮力が停止して外敵を排除しづらい状態となっているので、細菌が子宮内に侵入して異常繁殖しやすいのである。
 先に「メス猫の体は交尾刺激によって黄体(形成)ホルモンが分泌され排卵が起きる」と書いたが、実際は、交尾刺激がなくても排卵するメス猫は少なくない。例えば室内飼いでも、猫の発情シーズン中、オス猫の「セクシーボイス」を聞いて発情することもあり、一説によれば、メス猫の35%〜60%は交尾刺激がなくても排卵するともいわれている。
 さらにいえば、室内飼いが増えるにつれて、年中、発情シーズンを迎えやすいメス猫が増加している。猫の性周期は、光の増減、つまり光周期にかかわり、1日に12〜14時間、500ルクス(事務室程度)の明るさがあれば発情可能なのである。そのため、室内飼いの避妊していないメス猫も子宮感染症になりやすい。
 もうひとつ別の理由がある。それは、猫に多いウイルス感染症とのかかわりである。例えば、猫エイズウイルスや猫白血病ウイルス、猫パルボウイルス、猫コロナウイルス、ヘルペスウイルス、あるいはトキソプラズマ(これは原虫)などに感染すれば、たとえ命に別条はなくても、免疫力が低下していて、大腸菌などの常在菌が子宮に侵入して生き延び、子宮内膜炎から子宮蓄膿症になりやすい。また、それらのウイルスの悪影響で、妊娠後、流産や死産にもなりやすく、結果、子宮内が汚染され、子宮感染症になりやすいのである。

【治療】
外科療法が望ましいが、内科療法もある
 
 子宮感染症の場合、薬剤を使った内科療法と、子宮と卵巣を摘出する外科療法(避妊手術と同じ)がある。
 内科療法について述べると、子宮内膜炎なら、抗生物質を投与して細菌の働きを抑え、炎症を治していく。
 一方、子宮内がひどく化膿して子宮蓄膿症になっていれば、たまった膿を排除するため、子宮の収縮作用を促進するホルモン注射をする。もっとも、このホルモン注射は、メス猫の子宮頸管部が開いていればいいが、子宮頸管部が閉じていれば膿を体外に排せつすることができず、かえって子宮破裂などの恐れもある。また、副作用として、呼吸困難やふらつき、よだれ、吐きもどしなども報告されている。
 このような内科療法は、当然のことだがあくまで症状を抑えるための対症療法で、根治療法ではない。
 先に触れたように、子宮感染症の主な要因は、メス猫が妊娠可能な状態にあることと、免疫力の低下にあるため、薬剤治療で症状が治まったとしても、いつ再発するか分からない。繁殖を望むケース以外は、子宮と卵巣を摘出する外科療法がいいだろう。

【予防】
避妊手術とワクチン予防、室内飼いの実施
 
 メス猫は「交尾排卵」が基本のため、また、たとえ交尾せずに排卵しても、黄体(形成)ホルモンの分泌期間が短いため、メス犬よりも子宮感染症にはなりにくい。しかし、交尾しなくても、オス猫のセクシーボイスを聞くなどの聴覚刺激や臭覚刺激、視覚刺激、触覚刺激などをきっかけに排卵することがある。
 子宮内膜炎、子宮蓄膿症などの子宮感染症を予防するために最も安全、確実な方法は、メス猫が1歳未満の早い時期に避妊手術を行うことである。現実には、野良猫が多く、繁殖管理の難しい猫の場合、不必要な妊娠・出産を避けるため、また、野外でのウイルス感染や交通事故の可能性を減らすため、早めに避妊・去勢手術を行う家庭が増加。子宮感染症にかかる猫は減少した。
 もし、自宅の愛猫に避妊手術をさせない場合でも、子猫の時から必要な回数、きちんとワクチン接種して、ウイルス感染症の予防を行うこと。もっとも、猫エイズウイルスなどワクチンで予防できない病気もあるうえに、ワクチン予防も100%確実ではない。室内飼いに徹することも大切である。

*この記事は、2007年8月20日発行のものです。

監修/グリーン動物病院(大阪府・寝屋川市) 院長 長村 徹
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