鼻や耳の辺りがただれてくる
白っぽい猫は「扁平上皮がん」に要注意
鼻や耳の「扁平上皮がん」は、初期のうちは一見、皮膚のカサつきや擦り傷のようにしか見えない。
特に白っぽい猫がなりやすいので、日ごろから皮膚のチェックを!

【症状】
初期は皮膚のカサカサや、擦り傷のような傷から、びらん、潰瘍に進行

イラスト
illustration:奈路道程

 猫の鼻や耳(正確には鼻鏡や耳介)の表面がカサカサしてくることがある。あるいは、どこかで擦りむいたように、鼻や耳の表面が少し赤くただれたりする。
 飼い主が「皮膚炎か擦り傷かな」と思って動物病院へ連れていき、処方された塗り薬をつけていてもなかなか治らない。そのうちに症状が悪化して、びらん、潰瘍がひどくなり、皮膚がジュクジュクと、赤黒く、えぐれたようになってくる。そんな場合、「扁平上皮がん」の疑いがある。
 「扁平上皮」とは、体表部の皮膚や、口腔などの体腔粘膜を構成する組織で、その組織に発症する、進行性の悪性腫瘍が「扁平上皮がん」である。しかし、同じ扁平上皮がんでも、例えば、鼻(鼻鏡)や耳(耳介)にできるがんは、口腔粘膜にできるがんとはかなり性質が異なっている。今回は、鼻や耳にできる扁平上皮がんを取り上げる。
 扁平上皮がんは、放置していれば症状がどんどん悪化して一命にかかわる。しかし、他の「乳がん」などに比べると転移性が低く、早めに治療すれば、治る確率が高い。
 なお、麻布大学附属動物病院のデータ(06年3月現在)によれば、猫の全症例5936例中、「腫瘍(良性と悪性を含む)」は870例。そのうちの「皮膚の腫瘍」272例中、鼻や耳の扁平上皮がんの割合は15・4%。また、皮膚の腫瘍にかかった猫の平均年齢は9・5歳となっている。

【原因とメカニズム】
有害な紫外線が誘発要因と考えられる
 
 悪性腫瘍、つまりがんとは、組織細胞が、何らかの要因で「腫瘍化」し、異常増殖を行っていく病気である。
 皮膚の腫瘍にかかった猫の平均年齢が9・5歳というデータが示すように、高齢期になれば免疫力が低下し、組織細胞の遺伝子に傷がつきやすく、また、その他の環境的要因も加わって、腫瘍が発症する可能性も高まっていく。
 その中で、鼻や耳にできる扁平上皮がんの誘発要因として注目されているのが「紫外線」の影響である。
 皮膚組織が長期間、紫外線を浴び続けていると、組織細胞が変性して「がん化」しやすくなる。もちろん、有害な紫外線から体を守るため、動物の皮膚組織や被毛には「メラニン」と呼ばれる色素細胞が含まれている。しかし、皮膚や被毛が白っぽい猫はメラニンが少なく、紫外線をうまく遮断することができない。そのため、特に被毛が薄く、皮膚が直接露出する鼻や耳に扁平上皮がんが発症しやすい、と考えられているのである。
 もっとも、子猫の時からずっと室内飼いで、直射日光を浴びる機会の少ない猫でも扁平上皮がんになることもある。
 とにかく、「発がん」の要因には、それ以外にも、老化や遺伝的体質、炎症や外傷による細胞遺伝子の異常、環境的要因(例えば、たばこの煙に含まれるニコチンなどや、排気ガスなどの有害物質が皮膚や被毛に付着するなど)など、いろんなものが複合的にかかわっていると思われる。

【治療】
患部とその周辺を切除する外科治療と放射線治療
 
 扁平上皮がんと診断されれば、患部および周辺組織を外科治療で切除手術し、その後、しばらく再発防止のために放射線治療を行うこともある。
 発症の初期、鼻や耳の表皮がカサカサした状態が数か月続く時期なら、放射線治療だけで治ることもある。しかし、その症状を「難治性皮膚炎」と誤認して見当違いの治療をしていれば、ある段階から症状が急速に進行し、びらん、潰瘍がひどくなる。
 扁平上皮がんは転移する確率は低いが、浸潤性が強いため、悪化すれば、目のほうにも入り込み、治療時、眼球も切除せざるを得ないこともある。
 もっとも、適切な治療を行い、予後、発症部位周辺での再発の可能性が低くても、他の部位(例えば、鼻を治療しても、耳のほう、あるいはその逆)で、後日、新たに扁平上皮がんが発症しないとも限らない。要注意である。

【予防】
高齢期の猫の鼻や耳に、カサカサや擦り傷のような傷を見つけたら要注意
 
 鼻や耳の扁平上皮がん発症の誘発要因として有害な紫外線が考えられているため、メラニンの少ない、白っぽい猫のいる家庭では、室内飼いに徹することが必要かもしれない。
 もっとも、前述の通り、子猫の時から室内暮らしの猫でも、扁平上皮がんになることがある。普段から鼻や耳周辺の様子をよく観察し、皮膚の表面がカサカサしてきたり、擦り傷のような傷口がなかなか治らなかったりする場合は、動物病院でよく検診してもらい、早期発見・早期治療を心掛けることである。

*この記事は、2007年1月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部附属動物病院 病院長・腫瘍科担当 信田 卓男
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