ストレスがたまっているようだ
トイレ・食欲・毛づくろいの変化
愛猫が過剰に体をなめて、はげてきた、いままでできていたトイレの失敗が続く…
こんないつもと違う行動が続く時は要注意。

【症状】

イラスト
illustration:奈路道程

生活行動に様々な変化が…
排せつ回数や場所の乱れ
 トイレに行く回数が以前よりずっと増えた。逆にほとんど行かなくなった。トイレ以外の場所でオシッコをするようになった。
動作や食欲の増減
 動作が緩慢になり、食欲がいつもよりあり過ぎ、太り過ぎてきた。逆に食欲がなくなった。
毛づくろい回数の変化
 毛づくろいの回数がいつもより多くなった。あるいは、ほとんど毛づくろいせず、むだ毛が目立ち、見すぼらしくなった。
 このような生活行動の変化が自宅の愛猫に見られるようになれば、ストレスの影響を考えてみる必要がある。
 一般的に使われるストレスとは、生き物に対して外部から何らかの有害刺激が加わった時の心と身体の反応を指す。ストレスとその反応があるために、より良く生きることに役立つ、新たな行動や考えが生じることも少なくない。しかし、その刺激が強過ぎて各自がうまく対処できずに心身のバランスを崩せば、様々な悪影響が現れてくる。冒頭にふれた三つの変化が、猫に現れる主なストレス症状である。

「環境の変化」か「体調の変化」かを見極める
 猫のストレスの要因には、大きく「環境の変化」と「体調の変化」がある。今回は、主に「環境の変化」を取り上げるが、「体調の変化」も重要だ。例えば、歯の病気や口内炎などに悩まされていれば、食欲があっても食べることができず、不機嫌になり、体力も衰えてくる。よく知られる「尿道づまり」になれば、尿が出づらくなる。また、膀胱炎になれば、室内のあちこちでオシッコをすることもある。
 日常生活のなかで普段と違う動きが目立つ時は、すぐに心理的な「ストレス」と決めつけず、まず「体調の変化」が潜んでいないかどうか、動物病院で調べてもらうことが大切だ。
 

【原因とメカニズム】
   猫は「場所に付く」といわれるように、生活環境の変化を好まない動物だ。だから「環境の変化」が起こると、先に挙げたような、様々な悪影響が出やすくなる。では、どんな環境の変化が考えられるだろうか。

家族構成の変化や新入り猫の登場

 その一つは、家族構成の変化である。例えば、飼い主が長期間留守にする。出産や結婚で新しい家族が増える。仲の良かった同居動物が先立ったり、新入り猫が来たりする、などのケースだ。
 特に飼い主が授乳期の子猫を拾って育てたり、先住の猫や犬が養母代わりに面倒を見たりした場合、問題となる。飼い主の不在や同居動物との別れなどが大きな精神的ストレスとなって、猫がいわゆる「分離不安」や「ペットロス」的な状態に陥りやすいのである。
 また、新入り猫が先住猫の大きな脅威となりうることはよく知られている。そのほか、普段、つき合いの少ないご主人が退職して自宅にいたり、幼児に追い回されて、ストレスがたまる猫もいる。


引っ越しや室内の模様替え

 猫にとって最大の環境変化といえば、引っ越しだ。長年なじんだ縄張り(旧宅)が突然なくなって、未知の世界(新宅)に連れて行かれれば、対応の仕方が分からなくて、パニックになったとしても無理はない。
 室内の模様替えも要注意。大好きな休息所となっていた場所に新たな家具が置かれたり、隠れ場となっていた部屋が子ども部屋に変わったりすれば、心の安らぐ場がなくなる。


野良猫の発情

 また、春先、野外を行き来する猫たちに発情期が訪れる。冬場閉ざされていた窓が開かれ、発情期特有のにおいや鳴き声が直接室内に届くと、たとえ室内暮らしの避妊・去勢猫でも、興奮したり、脅威に感じたりすることも少なくない。猫好きの飼い主が戸外でよその猫と接触し、手足や衣服、靴にそのにおいを付けて帰宅すれば、不安にかられる。
 その他にも、偏食傾向が強ければ、フードの変化に対応できない猫もいる。


【対策】
 
「猫部屋」の確保

 引っ越しや部屋の模様替え、家族構成の変化などの「環境の変化」に対応するのに効果的な方法の一つは、他人が出入りしない部屋やコーナーを決めて、猫が安心してくつろげ、いざという時に逃げ込める「猫部屋(ケージでもよい)」を、子猫のうちから設けておくことだ。
 ある調査報告によれば、室内飼いの場合、猫一匹に最小限必要な空間は、畳一畳分ほどの床面積(上下に動ける工夫が不可欠)。そうすれば、来客があっても、見知らぬ人と顔を会わさなくてもいい。飼い主が一日、二日留守にしても、自動給餌器とたっぷりの水、清潔なトイレがあれば、留守番することも可能だ。
 また引っ越し後、最初に、お気に入りの寝床に食器、トイレが備わった自分の「猫部屋」を設営してやれば、愛猫も一安心。そこを拠点に、少しずつ縄張りを広げていくことができる。
 たとえワンルームでも、玄関から直接見られない物陰に「猫部屋」があれば、不意の来客にパニックにならなくて済む。周囲の状況をこっそり見渡せる場所があれば、申し分ない。


二匹目の子猫を飼うなどの工夫

 飼い主や同居動物にべったりの猫の場合、普段から少しずつ互いの距離をとるように心がけ、猫が特定の人や動物に過剰に依存する状況をときほぐす努力、工夫が必要だ。愛猫が生後二か月ぐらいのうちに子猫をもう一匹飼っておくと仲良くなりやすい。
 しかし成猫になれば、ほかの猫と仲良くなるのは難しい。新入り猫が来る場合、まず、先住猫の「猫部屋」以外の「共有場所」に、布をかぶせた新入り猫のケージを置き、先住猫がどんな反応を示すかを観察する。
 興味がありそうなら、今度は布を取って互いの顔見せを行い、様子を見ながら、ケージを開けて対面させるなど、少しずつ二匹の関係を作っていく。最初から先住猫が猛反発するようなら、無理に同居させても、いつまでも仲違いしたり、先住猫がどこかへ出て行く恐れもある。十分に注意が必要だ。


子猫の段階から、環境変化への対応を

 とにかく、近年、猫たちの寿命も延び、十五歳、二十歳でも元気に暮らす猫も少なくない。もし、年をとって大きな環境の変化にさらされれば、順応できず、寿命を縮める可能性もある。
 子猫を飼い始めたら、早くから「猫部屋」を確保したり、いろんな人となじませたり、二匹目の子猫を飼ったり(メス同士か、異性が無難)し、将来の愛猫への環境の変化に備えてほしい。また、普段から愛猫の動作、生活態度に注意し、異常を感じたら、まず動物病院で相談することが大切だ。


*この記事は、2004年11月20日発行のものです。

監修/獣医師 どうぶつ行動クリニックFAU(ファウ) 尾形 庭子


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