腫瘍になる(リンパ腫)
猫や犬の体を守るリンパ器官に存在し、血中にもふだんから出現して
免疫をつかさどるリンパ球が悪性腫瘍になる病気がリンパ腫だ。
猫は、犬の十倍も、この病気にかかる危険性がある。それは、猫白血病ウイルスのせいである。

ウイルスや細菌から体を守るリンパ球が悪性腫瘍になると…

イラスト
illustration:奈路道程

 

 猫、犬、人など哺乳動物の体を外部のウイルスや細菌などの「敵=異物」から守る重要な免疫の役割を担っているのが、白血球の一種「リンパ球」である。リンパ器官には、リンパ節(腺)などのリンパ器管と、脾臓や肝臓、腸管などにふくまれるリンパ組織がある。言うまでもなく、カゼをひくと、リンパ節がコリコリにはれたりするのは、その場所で、リンパ球が体内に侵入したカゼのウイルスと闘っているためだ。
 その重要な「リンパ球」の遺伝子が何らかの要因で傷つき、細胞が腫瘍化して、リンパ器官内で固まりをつくって分化・増殖する病気が「リンパ腫」あるいは「リンパ肉腫」という悪性腫瘍、つまり、がんの一つである。
 リンパ腫は猫に多いがんで、十万頭につき、年間二百頭ほどが発症するとみられている。もっとも、犬の場合も、十万頭につき、年間二十頭(十歳以上なら、年間八十頭)ぐらいが発症し、犬の腫瘍の七〜二十四%を占めるといわれるから、決して少なくない。猫が犬の十倍も発症例が多いのは、猫白血病ウイルス(FeLV)との関連性がきわめて高いためである。

猫に多い胸腺型リンパ腫と消化器型リンパ腫、
犬に多い多中心型リンパ腫
   猫がリンパ腫にかかるピークは二つある。その一つが、二、三歳という若い時期、もう一つが、五、六歳以降の老齢期である。若い時期に発症するリンパ腫のほとんどが猫白血病ウイルスによると考えられている。
 若い時期のリンパ腫の特徴は、心臓の前方にある胸腺というリンパ器官に発症するのが多いことだ(これを「胸腺型リンパ腫」という)。胸腺が腫瘍化して大きくはれあがると、胸のなかに水がたまり(胸水)、肺を圧迫して、呼吸困難になる。その場合はまず「胸水」を抜いて呼吸機能を回復させ、同時にそれを検査して、リンパ系の悪性腫瘍かどうかチェックする。なお、胸水の要因には、ほかに猫伝染性腹膜炎(FIP)や「膿胸」という、胸に膿のたまる病気がある。
 老齢期のリンパ腫の特徴は、腸などの消化器官に発症するのが多いことだ(これを「消化器型リンパ腫」という)。こちらも、やはり、その猫が幼少期に猫白血病ウイルスに感染したケースや猫免疫不全型ウイルスに現在も感染しているケースがある。それ以外に、たとえば食餌アレルギーなどで、リンパ球が腸管で過剰に働き腸炎をおこした猫が後年、炎症部位にリンパ腫を発症させることもある。
 腸管にリンパ腫ができると、腸閉塞を併発することもあるので、要注意である。レントゲン検査などで患部を特定し、すぐに開腹手術して、まず、その腫瘍を取り除くことが先決だ。
 一方、犬の場合は、首の下や腋(わき)の下、鼠径部(そけいぶ=後足の付け根)など、体表部のリンパ節にリンパ腫ができることが多い(これを「多中心型リンパ腫」という)。このケースなら、ふだんから飼い主が愛犬のケアをよくしていれば、早期発見できる可能性が高い。

リンパ腫に効果的な化学療法
   リンパ腫は、そのまま放置すれば、わずか一、二カ月で死亡する悪性腫瘍である。しかし、適切な化学療法をおこなえば、リンパ腫に効果的で、かなりの期間、生き延びる可能性がある。化学療法とは、いわゆる「抗がん剤」の投与である。具体的な治療法は、それぞれの症状と飼い主の希望にしたがって組み立てられるため、愛猫、愛犬が、もしリンパ腫と診断されれば、希望を失わず、動物病院でじっくりと相談することが大切だ。
 一般的な化学療法の経過を記すと、まず、最初、抗がん剤の投与を受け、二、三日、点滴を受けて、薬で死ぬがん細胞から出る異物を体外に排泄。容態が改善したら退院する。以後、週に一度は通院して、血液検査などで副作用の有無、状態をチェックして、つねに副作用を最小限に保ちながら、抗がん剤を投与する。
 そのような治療を続け、リンパ腫の固まりが消え、がん細胞の存在が認められない「寛解(かんかい)」の状態になると、「寛解」用の化学療法をおこなっていく。「寛解」とは、わずかのがん細胞が体内にひそんでいる状態で、それに合わせた抗がん剤を一定間隔で投与しつづける必要がある。このように、適切な治療法をおこなえば、生存期間が六カ月延び、さらに六カ月延びて、結果的に愛猫や愛犬が一年、一年半、二年と生き長らえる可能性が高いといえる。
 先に述べたように、猫がリンパ腫になる要因の多くが、幼少期に猫白血病ウイルスに感染したためである。生後すぐ、感染した母猫になめられたりしてこの病気に感染した子猫の場合、ほとんど感染・発症するが、離乳期を過ぎると、子猫の抵抗力も強くなり、感染しても、自然治癒する可能性が高くなる(離乳期以降の自然治癒率は約五十%、生後一年以上では約九十%)。
 しかし幼少期に猫白血病ウイルスに感染するとウイルスは居すわり、リンパ球の遺伝子異常がおこって、二、三歳でリンパ腫を発症しがちなのである。また、若い時期に発症しなくても、免疫力が低下し、遺伝子異常のおこりやすい老齢期に発症する可能性もある。

*この記事は、2002年3月15日発行のものです。

監修/赤坂動物病院医療ディレクター/日本臨床獣医学フォーラム代表 石田 卓夫
東京都港区赤坂4-1-29 tel.03・3583・5852
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