てんかん

【症状】
よだれや舌なめずり、ゆっくりした咀嚼運動などの「部分発作」から全身けいれんへ


illustration:奈路道程

 

 犬の「てんかん」が百頭に一、二頭だといわれるのに対して、猫の「てんかん」は二百頭に一頭前後といわれている。
 てんかんとは、体のさまざまな部位にけいれんや強直などの「てんかん発作」を繰り返し起こす病気である。てんかん発作は、次のように分類されている。
 なかでも特に猫に多いのが、「複雑部分発作」と「部分発作の二次性全般化」である。
 そうした猫に多いてんかん発作の具体的な様子について記すと、最初、よだれが出て、舌なめずりをしたり、口をクチャクチャとゆっくりかみこなす咀嚼運動をしたり、顔面がピクついたりという発作を意識不明状態で起こし(複雑部分発作)、そのうちに体がけいれんや強直を起こし始めて、全身発作へと展開する(部分発作の二次性全般化)。


【原因とメカニズム】
脳炎などに起因する脳の異常・障害が認められる「症候性てんかん」が多い
   てんかんには、脳内に異常・障害が認めらない、原因不明の「特発性てんかん」と、脳内になんらかの異常・障害が認められる「症候性てんかん」とがある。猫の場合は、特発性てんかんは少なく、その多くが症候性てんかんと考えられている。
 外国の知見によれば、猫の症候性てんかんの多くが脳炎、それも脳脊髄を保護する髄膜(脳脊髄膜)に炎症を起こす「髄膜脳炎」に起因するという。そのような場合、てんかん発作だけではなく、目が見えなかったり、前足や後ろ足の働きに障害があったり、といった脳神経症状を併発しがちで、MRIやCTなどの画像診断で脳に異常・障害のあることが発見されることもある。
 なぜ、こうした髄膜脳炎などの脳炎になるのかは判明しないケースも多いが、その要因として疑われるものにウイルス感染症が挙げられている。よく知られるのは、猫伝染性腹膜炎(FIP)を引き起こすコロナウイルスが脳内に感染して脳炎を起こすものだ。もっとも、FIPは劇症で治療も予防もできないため、これに感染・発症すると、ほぼ助からない。あるいは、ボルナ病ウイルスという、かつてドイツで、重い脳神経症状で死んだ競走馬から検出されたウイルスの感染症が関係しているケースもある。ただし、大学など一部の研究機関でしかボルナ病ウイルスの検査ができないため、実態はそれほど明らかではない。そのほか、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫エイズこと猫後天性免疫不全ウイルス(FIV)などの感染症と脳炎との関連も指摘されている。
 その他、てんかん発作を起こす要因として、高齢猫に多い脳腫瘍や真性多血症なども挙げられる。なお、真性多血症とは、赤血球が異常増殖して血液が粘りつき、脳内の血液の循環が悪くなって失神し、けいれん発作を起こす病気だ。

【治療】
症状、病状を見極め、定期検査を行いながら、適切な薬治療法を継続する
   てんかん発作の疑いで動物病院に連れて来られても、すぐにてんかん治療に入るわけではない。その発作がどんなふうに始まり、どうなったのか、発作の頻度はどのくらいか、ほかに目立った脳神経症状はなかったか。じっくり問診し、身体検査や神経学的検査を行いながら、鑑別診断をしていくことになる。また、脳の画像診断などを行って、それがどんなてんかん発作か、あるいはほかの病気が原因になっていないか、慎重に検討していかなければならない。
 先にもふれたが、猫の場合、脳になんらかの異常・障害が認められる症候性てんかんが多く、症候性てんかんが疑われるなら、脳のどこにどんな「異常・障害」があるか、見極めることが大切だ。その異常・障害が過去の脳炎などの後遺症であれば、抗てんかん薬を、定期的に血中濃度をチェックしながら、数週間から数か月単位で投与し、発作頻度がどの程度減少したかを同時に評価していく。発作頻度が三か月に一回以内に抑えられるならば、かなり効果があると評価してよい。しかし、その後も定期的に血中濃度をチェックして、発作抑制に有効な濃度を保っているのか、また、肝障害などの副作用を起こさないレベルに保たれているのかを判断しながら、薬剤治療を続けていかなければならない。
 もし、脳内の異常・障害が進行性のウイルス感染症や脳腫瘍などなら、通常のてんかん治療で発作を抑制することが難しい(進行性疾患によって起きる発作は「症候性てんかん」と呼ばず、それぞれの病気による「発作」と見なしたほうがいい)。それぞれの病気治療を行うことが最善の方法である。

【予防】
ストレスが少なく、ウイルス感染を防ぐ室内飼いに徹する

   特発性てんかんなら、その原因は不明だが、これまでの研究で、てんかんの「素因」を持っている動物がてんかん発作を起こしやすいことが認められている。もっとも素因があっても、すぐに発作につながるわけではない。ストレスなどが加わり、発作要因が高まることによって、発作が起こりやすくなる。そのため、普段からストレスの少ない飼い方を心がけるといい。
 また、猫に多い症候性てんかんなら、脳にかかわるウイルス感染症や脳腫瘍など、なんらかの病気が関係してくることになる。子猫のときからウイルス感染症にかからないように、ワクチン接種で予防できるものは予防し、また、予防策のない病気なら、室内飼いに徹して、感染機会をなくす努力を怠らないこと。さらに、普段から動物病院で定期検査を行って、早期発見・早期治療を目指すことも大切だ。

*この記事は、2003年9月20日発行のものです。

監修/渡辺動物病院 院長 渡辺 直之
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