多尿や、やせてくる
「糖尿病」は生活習慣などが原因に
猫の「糖尿病」は、肥満、ストレス、運動不足などの生活習慣が原因で発症することが多い。
悪い生活習慣がどのように糖尿病を引き起こし、どのような症状が出るのか、ぜひチェックしてほしい。

【症状】
多尿や、やせてきたら危険信号

イラスト
illustration:奈路道程

 体の筋肉や臓器などを構成する細胞に不可欠なエネルギー源である糖分(ブドウ糖)が、インスリンが不足したり、働きが弱くなったりして体の組織細胞の中に取り込まれず、血液中の糖分(血糖値)が異常に高くなる病気が「糖尿病」である。
 細胞の中に糖が入らないと、細胞は飢餓状態になり、「もっと糖がほしい」というシグナルを出す。体はそれに反応し、脂肪を分解してより多くの糖を作り出す。しかし、糖は細胞の中に入らないため、血糖値は高くなる。脂肪が使われてしまうと、筋肉も糖分を作るために分解される。これがやせる原因である。
 血糖値が異常に高くなると、余分な糖分を腎臓は再吸収できず、尿とともに体外に排せつされていく。多量の糖が体外に出て行く際、多量の水も同時に出て行く。そうなれば、猫は水分不足を補うためにしきりに水を飲む。つまり「多尿→多飲」の症状が現れる。
 前述のように、糖尿病は「インスリン」にかかわる病気である。インスリンとは、膵臓の「ランゲルハンス島」(インスリンを産生するβ細胞の集まり)で作られる内分泌(ホルモン)で、糖分を体の細胞内に押し込める重要な働きがある。しかし、膵臓で必要なインスリンが作られなくなる(インスリン依存型糖尿病)か、作られたインスリンの働きが弱くなる(インスリン非依存型糖尿病)と、糖尿病を発症するのである。

【原因とメカニズム】
炎症性疾患や肥満、ストレス、運動不足などが引き金になる
 
 同じ糖尿病でも、犬の場合はほとんどが「インスリン依存型」であるのに対して、猫の場合は「インスリン非依存型」が多く、そこから症状が進んで、インスリン依存型に移行するケースが目立つ。というのは、犬には、自分の臓器や組織などを破壊する自己免疫疾患が多いためである(膵臓が障害され、インスリンを産生できなくなる)。では、猫はいかに糖尿病となっていくのだろうか。
 例えば、体のどこかに炎症性疾患があったり、日常的にストレスにさらされていたり、肥満傾向にあったりすれば、膵臓がインスリンを作っていても、インスリンの働きが悪くなっていくのである。
 炎症性疾患には、口内炎や膀胱炎、あるいは発見しにくい内臓疾患(肝炎、腸炎、膵炎など)などがある。また、ストレスでは、多頭飼いで相性が悪く、片方がいつも追いまわされ、逃げ場所もなく、食事やトイレもゆっくりできなかったり、隣の家やビルの工事が続き、騒音、振動がひどかったり、というケースが挙げられる。
 肥満傾向は、室内飼いが一般化して増えてきた。栄養過多と運動不足に加え、不妊・去勢手術をすれば、基礎代謝が低下して、うまく食事コントロールしないと太りやすくなる。
 猫には、あれやこれやで、「非依存型」糖尿病になる危険性が多いのである。インスリンの働きが悪くなれば、膵臓はさらに頑張ってインスリンの産生を増加させ、それによって膵臓は壊れていく。最終的にインスリンが作れなくなって、インスリン依存型糖尿病になっていく。

【治療】
インスリン療法と併発疾患の治療、適切な減量やストレス解消など
 
 猫の糖尿病治療で大切なのは、その初期、早期の段階で、血糖値を上げている要因が何か、つまり、どんな病気を併発しているのか、どんなストレスがあるのかをよく見極め、炎症性疾患ならその治療、ストレスならその解消に努めながら、糖尿病治療を行っていくことである。ただし、猫は動物病院に連れて行かれただけでストレスを感じ、血糖値が上がることも少なくない。慎重に検査し、また、最低限のインスリン療法を行いながら経過をよく観察する必要がある。
 なお、すでに多尿や、やせるなどの症状が現れていれば要注意。場合によっては入院させ、体重の回復を図りながら治療を行っていかなければならない。
 肥満傾向の場合、獣医師の指導の下、療法食を使った食事療法で計画的に、少しずつ減量しながら、治療を行っていく。場合によっては、体重を減らしただけでインスリンの働きが正常に戻ることもある。なお、無理な減量、急な減量を行うと、体が急に飢餓状態となって体内の脂肪をたくさん分解し、肝臓に脂肪が蓄積する脂肪肝になる恐れがある。
 インスリン依存型糖尿病の場合、体内でインスリンを産生することができないため、毎日(朝夕2回、あるいは1回)、自宅でインスリン注射を行っていく。それとともに、動物病院で定期的に健康診断や血糖値検査などを行い、インスリンの効果と体調をチェックしていくが、食欲もあり、体重の変化もなく、元気そうに暮らしていればそれほど心配はない。

【予防】
子猫の時から、快適、健康的な飼い方、育て方を実践する
 
 猫の糖尿病は老齢疾患のひとつである。しかし、その要因として炎症性疾患や肥満、ストレス、運動不足などが考えられるように、子猫の時から、いかに快適で、健康的な飼育環境を整え、適度な運動と適切な食事管理を行うかが、最も重要な予防策といえるだろう。
 毎日猫とよく遊ぶ。トイレはいつも清潔にする。子猫の時から、例えばきょうだい猫などの複数飼いをして、2頭でたっぷりじゃれ合い、駆け回ることができれば、運動不足ともストレスとも無縁な生活を楽しむことができるだろう。また、不妊・去勢手術後は与えるフードの量と質をよく考え、太らせないようにすれば、肥満ばかりではなく、膀胱炎や尿道づまりなどの予防にも役立つだろう。また、定期的に動物病院で健康診断をしてもらい、どこかに炎症性疾患があれば、早期発見、早期治療するのもいいだろう。

*この記事は、2007年2月20日発行のものです。

監修/赤坂動物病院医療ディレクター 日本臨床獣医学フォーラム代表 石田 卓夫
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