やけどをする
人間よりも重症化しやすい猫の「やけど」
冬は猫がやけどをしやすくなる季節。
暖をとろうとストーブに近づき過ぎたり、加熱した鍋に跳び乗ったり…。
皮膚の構造上、猫は人間よりも重症化しやすいのでやけどしないように注意を払いたい。

【症状】
猫は皮膚が薄く、皮膚がペロンとはがれることが多い

イラスト
illustration:奈路道程

 キッチンで調理中、愛猫が急に調理台に跳び上がり、お湯の煮えたぎる鍋や油を引いたフライパンに着地する。あるいは、食卓に上がり、入れたてのコーヒーや紅茶、お茶を頭や背中に浴びる。冬、暖かいストーブの前で居眠りする。そんな風に室内で猫がやけどすることもある。
 猫の皮膚は、被毛に覆われているためか人間の皮膚よりも薄く、やけどすると、熱が表皮から真皮に、さらにその下の皮下組織にまで至りやすい。また、体が小さいため、頭や背中、脇腹など広範囲に熱傷を負いやすい(あるいは、被毛があるために、熱がこもりやすいかもしれない)。そのため、傷口も人間のように水疱ができるケースはほとんど見られず、皮膚がペロンとはがれるほどの状態になることも珍しくない。
 ちなみに人間の場合、やけどの程度(熱傷深度)は、表皮のみが「深度I度」、表皮の基底層までが「深度IIa度」、真皮までが「深度IIb度」、真皮から皮下組織までが「深度III度」となっているが、猫や犬もそれに準じている。
 

【応急処置】
やけどは、まず流水で冷やすと言うが…
 
 人間の場合、やけどをすると、まず流水(水道水)で患部を冷やす。やけどとは、熱傷というように、熱によって体の組織細胞が損傷することである。やけどすれば、熱が皮膚の下へ、また四方へ広がっていき、細胞が順にダメージを受けていく(皮膚細胞を形成するタンパク質は60〜70℃で変性する。また、それ以下でも熱にさらされる時間が長いと、低温やけどとなる)。そこで、熱傷による損傷を最小限に食い止めるため、すぐに流水などで患部及びその周辺をしっかり冷やすことが重要なのである。また、傷口の細菌感染を防ぐために傷口の汚れを落とす意味もある(消毒剤を使うと、傷口周辺の細胞が死滅して、自然治癒しづらくなるので使わない)。
 しかし、すでにやけどしてパニックに陥っている猫に流水をかけるのは難しい。また、猫は体が小さく、流水で背中などを冷やし続けると低体温症になりかねないので、あまり無理をせず、急いで動物病院に連れて行くほうがいい。

【治療】
ドレッシング材を活用した湿潤療法で自然治癒を図る
 
猫の皮弁手術の例  最初に水で洗って傷口をきれいにする。猫は被毛があるため、傷口に毛が付着していることも多い。まず、周辺の被毛を刈り取り、傷口の毛や汚れを取り除いた後、壊死した皮膚や皮下組織を切除する(周辺の皮膚は、やけど直後は損傷がないようでも、時間がたつと白くなり、壊死していると気づくこともある)。
 その後、乾燥を避け、外の刺激から守るために患部をドレッシング材(被覆材)で覆い、その上から包帯を巻く。ドレッシング材は1日に1度ほどの間隔で取り換えていく。
 皮膚は損傷を受けると、傷口周辺から細胞培養液である浸出液がどんどん染み出てきて、自ら傷を癒やし、治そうとする。そのために、浸出液を保ち、乾燥を防ぐことが大切になる(乾燥すれば、それだけでやけどの深度が深くなり、痛みも激しくなる)。
 根気良く、ドレッシング材による治療を続けていると、傷口周辺にある新鮮な皮膚から皮膚が再生していくようになる。また、表皮がはがれていても、毛根の一部が残っていれば、そこから表皮も再生していくために、治りが早くなる。もし皮下組織まで損傷が達していれば、浸出液や周辺の血管からの栄養補給で肉芽組織が盛り上がってくる。その後、肉芽組織上に周辺から皮膚が再生していき、傷口が小さくなっていく。
 形成外科手術もある。例えば、傷口がうまくふさがらない場合、傷口が小さい時はそのまま縫い合わす。しかし、傷口が大きい場合、周辺の健康な皮膚を切り取り、一部が元の皮膚につながった状態のまま、血管走行を残して切りはがし、その皮膚で傷口を覆い、縫い合わす「皮弁手術(右図)」を行う(猫の皮膚は伸縮性が高いため、皮弁手術がやりやすい)。また、健康な皮膚の一部を移植する「皮膚移植手術」もある。
 万一、体表面積の20%を超える広範囲のやけどを負えば、ショック症状に対する全身的な治療(入院、点滴、酸素吸入など)が必要となる。
 なお、やけどによる損傷は、程度がひどく、広範囲だと治癒するまでに何か月もかかる。その間、傷口をドレッシング材で覆って湿潤状態を保つ必要がある。猫がつめや歯でドレッシング材や包帯を取り外さないように、服を着せたり、エリザベスカラーをつけたりするのもいいだろう。

【予防】
調理中や飲食中、キッチンや食卓に猫を近づけないこと
 
 猫は動作が敏しょうで、好奇心が強く、跳躍力に優れているため、調理中や飲食中、わずかのすきに調理台や食卓に跳び乗って、加熱した鍋やフライパンに飛び込んだり、熱い飲み物をこぼしたりしてやけどする可能性がある。
 調理中はキッチンに入らないように、また、飲食中は食卓に上がらないように注意すること。また、お風呂を沸かしている時は、風呂場のドアをしっかりと閉め、猫が入り込まないようにすることも、やけど防止につながるだろう。
 また冬場、石油ストーブやガスストーブの真ん前で暖をとっている猫も少なくない。時には被毛の表面が手で触れないほど熱くなっていることもある。もし熱い被毛がじかに皮膚に触れればやけどする可能性もある。猫がストーブから少し離れた場所で暖をとれる工夫をしたほうがいいかもしれない。

*この記事は、2007年11月20日発行のものです。

監修/動物病院エル・ファーロ 院長 山本 剛和


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