歩き方がおかしい
まず疑ってほしい「関節炎」
あんなに散歩が好きだったのに、すぐに休む。歩く時にふらついたり、足を引きずったりする。
愛犬の動作や歩行に異常を感じたら、すぐに病院へ。

【症状】
動作・歩行や運動の異常、長い休息時間
イラスト
illustration:奈路道程
 愛犬の動作が気になることはないだろうか。例えば、散歩好きだったのに、このごろすぐに休息する。散歩のあと、じっとうずくまっている時間が長くなった。横座りが目立つ。立ち上がった時、しばらく脚がしびれているようだ。脚の運び方が乱れる。歩く時、腰がふらつく。一本の脚を引きずるように歩く。氷の上を歩くように、こわごわ歩く。まったく地面に着けない足がある。ジャンプしなくなった。
 こんな時、ひじやひざ、前足首や後ろ足首、指関節、肩や股関節などのどこかが関節炎になっている可能性がある。
 関節は、骨格のなかで、動物の体を支えながら運動機能を確保する、可動的な、独立した骨と骨との「組み合わせ部」である。だから、どこかの関節が悪くなれば、人でも動物でも、体を動かすと、違和感や痛みを感じやすくなる。人なら、「どこかおかしい、痛い」と病院通いもできる。しかし、犬が痛みで悲鳴をあげるのは、かなり重症になってから。ほとんどは、前述したような、飼い主が注意して観察しないと見過ごしかねない動作によって耐えている。また、同様な動作は神経疾患でも起こる可能性があるため、疑わしい場合は最寄りの獣医師に診てもらう必要がある。
 なお、関節は構造が複雑で、具体的にどの個所が問題か理解しづらい。簡単に述べると、相対する骨の先端を覆い、衝撃を吸収し、動きをスムーズにさせるのが軟骨。全体が「関節包」という膜で包まれ、内面の滑膜から潤滑油のような関節液が分泌され、関節内部を満たす。膝関節には、骨と骨を結ぶ腱と連結し、ひざの機能と安定性を向上させるお皿(膝蓋骨)もある

【原因とメカニズム】
 
遺伝性

 犬の関節炎の要因で最も多いのが遺伝性疾患で、股関節のゆるみが大きく、関節が傷つき炎症を起こす「股関節形成不全」をはじめ、「膝蓋骨脱臼」「肘関節形成不全」「離断性骨軟骨炎※1」などがそれである。
 例えば、日本に暮らすレトリーバー種の約半数が「股関節形成不全」にかかっている。遺伝的に発症しやすい系統の犬たちが繁殖に使われるケースが多いためだ。※2


外傷性

 次いで多いのが外傷性の関節炎。無理な動作や激しい運動で関節部分の軟骨や滑膜が傷ついたり、骨同士を連結する靭帯が切れて関節が不安定になり、関節の軟骨や滑膜を痛め、さらに関節脱臼になったりするわけだ。
 その要因はいくつかある。その一つが太り過ぎ。走ったり跳んだりすると、関節に大きな負荷がかかり、靭帯や軟骨などを痛めやすい。あるいは近年盛んなドッグスポーツのし過ぎにも気をつけたい。フリスビー競技で、無理な体勢でジャンプしてディスクを捕まえて着地する。アジリティ競技で、猛スピードで障害物を駆け上がり、急カーブを切ったりする。そんなことを繰り返していると、関節への負荷が蓄積され、適切に対処しなければ、靭帯や軟骨などを痛めて慢性関節炎となりやすい。
 また、体形の問題で、前足首が外開き気味の犬が着地する時、内側の靭帯を痛めることもある。


関節リューマチ

 遺伝性、外傷性の次に挙げられるのが、関節リューマチ。これは自らの「免疫」が誤って自分自身の関節を攻撃する「自己免疫疾患」で、ミニチュアダックス、シー・ズー、マルチーズなどの小型犬に出やすい。若い時に発症すると進行も速く、関節が変形しやすい。


※1 「離断性骨軟骨炎」とは、遺伝的な要因で肩や肘、膝関節を構成する軟骨が異常に厚くなり、はがれる病気で、成長期の大型犬に見られる。
※2 このような遺伝性疾患を減らすため、国内の獣医師と飼い主、ブリーダー、トレーナーたちが協力して、03年夏、NPO法人日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD)が設立され、地道な実態調査研究、情報提供、予防活動の普及啓発事業を開始した。
http://www.jahd.org/

【治療】
 
体重管理と運動療法

 関節炎は進行性の病気で、放置すれば悪化するばかりだ。そのため、少しでも早く発見し、進行を抑制するための適切な治療を行うことが極めて重要になる。具体的な治療方法は、原因と症状や痛みの程度、犬の年齢などによって異なってくるが、治療の前提になるのが「体重管理」と「運動療法」だ。
 太り過ぎなら食事管理で適正な体重まで減量する。また、適正な運動は症状緩和に役立つ。※3運動療法では、まず痛みがあれば、薬剤で炎症と痛みを抑え、症状が安定すれば、軽めの運動を少なくとも週に二、三回、二週間程度行い、問題がなければ、少し運動量を増やしてまた二週間程度と、段階的に運動量を増やしていく。途中、痛みが出れば、安静期間を取り、二、三段階後戻りして再開する。


投薬による疼痛コントロール

 繰り返すが、違和感や痛みがあって運動がしづらい場合、炎症と痛みを抑えるための内科的治療が有効だ。その場合、非ステロイド系消炎鎮痛剤(有効成分カルプロフェンなど)の投与が中心となる。投与期間は、通常、一クールが一〜二週間程度だが、症状により前後する。※4


外科手術

 外科療法では、股関節形成不全なら人工関節手術や骨盤骨切手術など。関節を構成する足の骨が変形していれば、曲がりを直す手術、靭帯損傷なら靭帯手術など、症状に合わせて、運動機能回復のための方法がある。ただし、一般的に犬の関節リューマチには外科手術は適応できないことが多い。


※3 散歩などのほか、水温の調節された浅いプール(水量は胴の半分がつかるほど)で歩く「運動療法」が効果的といわれる。これも、少なくとも週二、三回以上は必要。
※4 股関節形成不全の症例でも、最近の調査で、対象となった家庭犬(ラブラドール)の85%が、内科的治療で通常の生活を無理なく行えるようになったことが判明した。

【予防】
 
体重管理と適正な運動

 子犬期から適正な体重(食事)管理と運動を行うこと。成長期には、発育不良を恐れて食べさせ過ぎの家庭も少なくなさそうだが、カロリー制限をしても、成長速度が遅くなるだけで、体格が劣ることはない。
 また、成長期には、高いところから飛び降りるなど、衝撃の強い運動は避けること。家の中でもフローリングは関節に無理がかかるため、カーペットを敷くなどの工夫も必要だろう。


早めの検診を

 さらに、子犬のころから関節疾患の疑わしい動作があれば、かかりつけの動物病院でレントゲン検査などを受けることが大切だ。目に見える症状が発見されなくとも、生後一年前後には、念のため、股関節や肘関節、膝関節などの検診を受けたほうがいい。その時期はドッグスポーツのトレーニング開始期でもあるため、事前によく検診を受け、愛犬がどんなスポーツに向くか、また、どんなスポーツを避けるべきか、確かめておくこと。
 基本的に犬は、家庭犬でもすべてスポーツ選手、飼い主はすべてスポーツトレーナーである。日ごろから、愛犬の関節の状態をよくチェックしてほしい。


*この記事は、2004年11月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部講師 陰山 敏昭


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